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俺のマスターは吸血姫~無双の戦鬼は跪く!~  作者: 黎明煌
第三章 「無双の戦鬼、友達できるかな?」
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105 「理想は高ければ高いほどいいものだ」



「酒上君、橘さん、見て見て!」

「?」

「あ?」


 いつも通り登校し、昼休みまで寝るかと思っていたところ……教室に入ってきた薄野が、なにやら瞳をキラキラさせながらこちらに話しかけてきた。


「なんだ騒々しい」


 俺は眉を寄せながら、持参したマイ枕を脇に避けた。まったく、これから昼休みまで寝るところだったものを……。

 ぶちぶちと文句を言うも薄野は「まあまあ」と笑って、鞄を漁っている。

 最近は連帯保証人の話やらであまり元気が無かったが、今の様子を見るに何か進展があったのかもしれん。


「じゃじゃーん! 見て見て。私、雑誌に載っちゃいましたー!」

「!」

「雑誌だぁ?」


 いえーい、という感じで薄野は一冊の雑誌を広げてみせる。そこには……、


「……いや、どこだ?」


 分からん。

 そのページには様々な広告がごちゃごちゃと掲載されており、一目では判別しづらい。

 橘もページに顔を近づけ目を細めているが、セミロングの黒髪を流しながらコトリと首を傾げるのみだ。


「ほら、ここだよここ!」


 そんな俺達の態度にも不満を示さず、薄野は示すように指を差してみせる。

 橘と二人して、もう一度目を細めてみせれば、


「……『恵まれない子どもたちへ』?」

「!」

 

 そのようなキャッチコピーと共に、薄野がなにやら笑顔で写っている写真があった。


「ふふ、どうどう?」

「どう、と言われてもな」


 テンションが高い。

 雑誌に載った、と言うものだからもう少しデカデカと掲載されているのかと思えば……ページ片隅の広告ではないか。

 橘は『おお!』という表情で薄野に拍手を送っているが、俺は少々拍子抜けだ。


『いったい、どうされたんですか?』


 一通り拍手を終え、橘はそうスケッチブックに記す。

 すると薄野は、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに胸を張って話し始めた。


「ふふ、この前参加したボランティアがあってね? その時にこの仕事を紹介してもらったんだ!」


 ああ、あの時か。

 ……と、するならば、


「ボランティアの啓発ポスターのモデルになって欲しいって、頼まれちゃったんだ。やる予定だった一回生の女の子が辞めちゃったんで困ってたみたい。いやホント助かったよお。詳しくは言えないけど、結構まとまった金額も──」

「誰だ?」

「え?」

「お前にこの仕事を紹介したのは、誰だ?」


 詳細に興味は無い。

 割り込むようにそう問えば、薄野は少しキョトンとしながらも口を動かす。


「酒上君も会ったと思うけど、あの時の部長さんだよ。なんだかそういう事務所に関わりがあるらしくって、私を紹介して貰ったんだ。短い契約だけど、専属だからお給料もいい感じなの!」


 ……やはりか。だが、


「ふーむ……」

「? どうしたの?」


 吟味するように薄野を見るが、特に異常は見られない。

 むしろ最近沈んでいた分、以前のように明るくなりうっとうしいほどだ。


「……見込み違いだったか?」

「どうかしたの?」

「?」


 不思議そうに首を傾ける二人に肩を竦める。

 まあ、何事もなければそれで良い。俺としてはどちらに転がっても構わないのだからな……一方が大きく得をするという、その歪な”契約”の在り方は気に食わんが。


「ふっふっふ、このまま雑誌に載り続けて、アイドル事務所とかにスカウトされちゃわないかな!」

「そううまい話があるか──おいこら背中を叩くな」


 ビシビシと背中を叩く薄野を睨むが、怖い物なしなのか薄野は絶好調だ。まったく、うっとうしい……。


「そして一躍有名になって、人気アイドルのお宅訪問って感じでお店が紹介されて! お客さんがいっぱい来て! いや夢が広がるね!」

「♪」


 薄野も橘も、脳天気な未来予想図にノリノリの様子。

 まあ明るい未来を描くのは自由だ……その理想が高ければ高いほど、落下した死体からは大きく血の花が咲くものだからな。


「ほらほら、未来のアイドルの写真だよー? サンプルとしてもらったんだ。酒上君にもあげるね、相談にも乗ってもらったし。私のファン第一号~♪」

「いらん……おい押し込むな」

「~♪」


 脳天気な笑顔が写る写真を取り出し、薄野は俺と橘に配る。果てしなくいらん……。

 明るい表情で、カフェオレ色の髪を揺らす薄野はもはや完全復活といった様子で、陽のオーラを振りまいている。


 まったく、当てが外れたか。


 隣で「今日も清く正しく! おー!」と橘と一緒に腕を上げる薄野を見て溜め息をつく。

 いや、いい。リゼットも刀花もあの喫茶店を気に入っているようだし、軌道に乗るのはいいことだ。


「ふん……」


 いつものように鼻を鳴らし、マイ枕を机の上に置く。もういい、不貞寝だ。この明るさは俺には眩しすぎる。


(とはいえ)


 薄野が嬉々として、胸ポケットに押し込んできたこの写真。

 ……それにこびり付く欲望の臭気は、記憶しておくこととしよう。


 ……いざという時のためにな。

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