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4.三匹、立つ

 ここはQマートハタゴニア支店。

 旧式HDDから最新式CPUまで、何でも売ってるコンビニだ。

 配達から戻って来たゴリさんが言うには、博士の乗って来た宇宙船はハタゴニア上空でエンジントラブルを起こし、宇宙港からはだいぶそれた氷の大地に突っ込む形で不時着したらしい。

 乗組員たちは全員無事だったが、博士以外は全員内部に閉じ込められてしまったとのこと。

 幸い、バスルームは無事だったので、水は使えるそうだ。

「外宇宙用の宇宙船だからな。不時着した周囲に氷や水があれば給水システムは半永久的に動くようになっているはずだ」

 訳知りのゴリさんが言った。

「その現場まで行ってきたの?」

 ゲンさんが否定気味に聞く。

 さきほど山田くんは、「店長は常連の母子家庭のところに配達」と言っていたはずだが、やはり気になって美女博士のところにも足をのばしたのだろうか。うんうん、まぁ、気持ちは分かる。とゲンさんは思っているわけだ。

「いや、佐藤の奥さんから聞いた」

「はぁ?」

「まぁ、順を追って説明するとだな……」

 ゴリさんが週に一度食糧を配達している母子家庭は佐藤さんといって、西の海岸沿いに住んでいる。

 その海岸の近くに、博士の宇宙船が不時着した。一週間前のことだ。

 宇宙船が不時着した際にクルーは当然SOSを出したのだが、この惑星の名ばかりの臨時政府は派遣できる救助隊も持っていないので、戦後の残務処理のために官邸に残っている事務員ふたりが様子を見に行ったらしいのだ。

 この星の状況を考えれば、救助要請に応えるだけマシである。

 しかし、書類の整理しかしたことのない事務員たちは氷原に半分突っ込んだ宇宙船を見て、「これは自分たちの手には負えない」と判断するや、惑星に一軒だけあるコンビニの位置を教えてくれたという。

 外に出られるのは博士ひとり。乗組員たちの希望を託された博士は、途方に暮れたまま氷上に降り立つ。

 そこで、博士が初めて出会ったのが佐藤の奥さんである。

 しかし、佐藤の奥さんにも彼女を救う手だてはない。

 最新式の宇宙船の内部は特殊合金で出来ている。プラスチック爆薬でもないと壁は破壊できないだろうし、船内にトラブルがあればドアは自動で固くロックされる。これを解除するためのシステムが半分壊れてしまったらしく、現在は専門のクルーが必死に格闘しているとのこと。

「わたし、コンピューターはよく分からなくて……」

 悄然とした様子で博士は佐藤の奥さんに言った。博士の専門は化学である。爆弾は作れてもプログラムは専門外なのだ。

「私も分かりません……」

 スーパーでレジを打っていた経験しかない奥さんはそう返すしかなかったという。

 せいぜい、手助けができるとしたら台所を貸してあげるくらいだ。

 だから、博士はいま、コンビニで大量に仕入れてきた小麦粉を卵と牛乳で溶いて、クレープを焼きまくっている。

 それとて、あまり料理をしたことのない博士にはうまく焼けず、佐藤の奥さんがたまに交代で焼いている。

 そこに、ゴリさんが配達しに行ったわけである。

「クレープは厚さ二ミリ以内におさえないといけない。なぜか。閉じ込められた乗組員たちに唯一食糧を差し入れできるのが、ドアの下のわずか二ミリの隙間だからだ」

「はぁ~、なるほどねぇ~!」ゲンさんではなく、横で聞いていた山田くんが感嘆の声をあげた。「だから大量に小麦粉買っていったのか~」

「でも、それ一週間前の話なんでしょ?」ゲンさんが心配そうに言う。「食糧は足りてるのかね? 栄養は明らかに偏ってるだろうけど」

「うむ、結構、切羽詰まっているようだった。しかし、臨時政府はなにもしてくれないし、星間パトロールにも救助要請を出したらしいが、なにせ辺境だからな。彼らが到着するまであと一週間はかかる。それまでに博士がうちに頼んだ薬品が届けばなんとかなるかもしれないが、実はあれを発注した翌日、本部から連絡があったんだ」

 ゴリさんが渋い顔で言う。

「やっぱり危険物はまずいって?」

「いや、そうじゃない。本部にもさすがに在庫があるわけではないから、調達するのにいつもより時間がかかるという話だった」

「そっか……」

 つまり、最短でもあと一週間、宇宙船の乗組員たちはクレープと水だけでしのがなければならないし、博士と佐藤の奥さんはクレープを焼き続けなければならないのだ。

「女性ふたりに苦労させて、野郎がここでくっちゃべってるわけにもいかないっしょ」

 と、意外にも男気を見せる山田くんは、既に色々と準備を始めていた。

 ビタミン剤やトイレットペーパーなどをリュックに詰めている。

「そうだね。問診だけでも医者が行けば少しは安心できるかな」

 ゲンさんも重い腰をよっこらせと上げる。

 ゴリさんはそれを見て、微笑んでいた。そして、

「ダグは? どうするね」

 おもむろに聞く。

「私も連れて行ってください。たぶん、一番活躍できるのは私かもしれません」

 最新式の宇宙船に使われているのは恐らく最高スペックのコンピューターだろう。

 半分壊れているというが、半分生きているのなら、私が対話できるかもしれない。


(続く)

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