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五十四話 人探し

ふと思ったのですが、セルマ達の髪型ってどんな感じなんでしょうね? 雑に長さしか考えてなかった…

 煌々と輝く月明かりが照らす、夜の静けさに沈むとある街角。その路地裏に、女性が一人息を切らして走っていた。

 時折振り返り、後ろを確認してはまた走る。その余裕のない表情は、何かから逃げている様だ。

 

「はっ……はっ……」

 

 無我夢中で駆ける彼女は、知らずの内に暗く狭い、人目の届かない路地へと迷い込んでいく。気付いた時には、路地のどん詰まり。行く手を壁に遮られてしまっていた。

 

「そんな……!」

 

 絶望する声を上げる。そこへ、背後の曲がり角の向こうから人の気配が近づいて来た。

 女は恐怖に歪んだ口元を覆う。やがて角の向こうから現れた男達は、下卑た笑いを浮かべて追い詰められた怯える女を見やる。

 

「あー。みーつけた」

「ひっ……来ないで!」

「ダメじゃーん、こんな所まで逃げちゃあさ?」

 

 複数の男達の先頭に立つ、軽薄な雰囲気の金髪男。彼は怯える女にも一切構わず、背後の男達を伴ってじりじりと距離を詰める。

 

「俺達はこの街を案内してあげようとしただけなのにさぁ、逃げちゃうって酷いよねー?」

「だ、だって! 貴方達、私に変なもの飲ませようとした……!」

「変なものって、コレかな?」

 

 そう言うと、ポケットに手を突っ込んでぴらりと麻の小包を取り出した。

 

「大丈夫だって! コレはそんな怖いもんじゃないんだ。素直になって、しかも楽しくなれちゃう便利なおクスリだよ」

 

 へらへらと薄ら笑いを浮かべながら、なおもじりじりと近寄り続ける男達。道幅を一杯に埋める悪漢に、女の顔には諦めの色が濃く浮かぶ。

 

「そうそう、最初から大人しくしててくれれば、怖い事しないから……おい、連れてけ」

「いやぁッ! やめてッ!」

 

 女は腕を掴まれ、罵声を放つ悪漢の群れの中に放り込まれた。自分の周囲に渦巻く、欲望に歪んだ醜い笑顔。もはや逃げる術など無いと、せめてこれから起こる事を直視しない様目を固く閉じる。

 

 抵抗の意思を失くしたと見るや、男達の手が一斉に伸びる——

 

「ダメじゃないか。男のコが女のコを苛めちゃ」

 

 路地裏に立ち上る絶望を払う様に、凛と響く声。

 

「なんだてめ……がぁっ!?」

 

 路地裏に男達の呻き声、そして時折響く打撃音が満ちる。

 

 硬いものが肉体を打つ音が鳴るその度に、屈強な肉体の男達がどさりと地面に崩折れていく。

 音の数が六を数えたのを最後に、路地裏からは音が消えた。

 

 恐る恐る目を開ける女。

 

 その眼前では、一つの人影を取り巻く様にほんの少し前まで息巻いていた男達が全員、地面に沈んでいた。

 月明かりが雲に遮られ、その人影の全容は把握できない。辛うじて、その輪郭が女と同じく小柄な事だけが分かる。

 

「そこの君。大丈夫かな、立てるかい?」

「あ、は、はい……」

 

 人影から発せられる、温かな声。散々男達の威圧する様な声に脅かされていた彼女の心を、優しく包み込んだ。

 

「ああ、良かった。君みたいな子は、この街に来ちゃいけないよ? この路地を出たら、すぐ馬車を捕まえてまっすぐ家に帰るんだ。いいね?」

 

 そう言うと、人影は懐から取り出した何かを女の胸に軽く投げる。あわあわとそれを受け止めると、じゃらりと硬貨が鳴る音がした。

 

「安っぽいモグリじゃなくて、ギルド公認の馬車に乗りなさい。ステルダまでの運賃には足りるはずだ。良いね?」

「あの、ありがとうございます! 良かったら、お名前を……!」

「名前?」

 

 そう尋ねられ、人影はもぞもぞと動いた。ぽりぽりと頭を掻いている様にも見える。

 

「……名乗る程の者じゃないさ」

 

「——人探しぃ?」

 

 ギルド本部で、いつも通りティティから依頼を回してもらいに来たセルマとメナド。

 彼女から提示された依頼は、人探し。一昨日の大迷宮攻略とは随分差が開いた依頼に、メナドは思わず声を上げる。

 

「……なんか随分簡単そうな依頼ね。私達冒険者クビかしら?」

「まあまあ。依頼に出すって事は、それだけ困ってるって事だよ。助けてあげなきゃ」

 

 と、差し出された依頼書に迷いなく署名をする。ため息を一つ吐き、後に続くメナド。

 

「あんたってお人好しよね。心配になるくらい」

「だめかなあ?」

「さあ? でも、私はあんたのそんな所が大好きよ」

「えへへ、そんな私に付き合ってくれるメナドちゃんも大好きだよ」

 

 瞬時に形成される二人の空間。放っておけばいつまでもやっていそうな二人に、にまにまとニヤケながらティティが声を掛ける。

 

「はいはい、そういうのは後でやってください。じゃ、依頼人の方お連れしますね」

 

 言いながら、番号札の書かれた水晶をごんごんと机で叩き、セルマに手渡す。

 これは一対になっていて、衝撃が片方に伝わるともう片方にも同じだけ伝わるという魔道具だ。もっぱら簡易的な連絡に使われる。

 

 程なく、ギルド内に女性が一人入ってきた。その手には、セルマが持つ番号札と同じ物が貼られた水晶がある。彼女が依頼者の様だ。まだ十代半ば、セルマ達と同年代に見える。

 

 その彼女を、セルマが歩いて迎える。

 

「あなた達が、依頼を受けてくれるのですか?」

「ええ。はじめまして。セルマ・アマランサスと言います。人探しという事ですけど、場所とその人の特徴は分かりますか?」

 

 尋ねられ、少し申し訳の無さそうな顔で口を開く。

 

「その日は夜で……あたりに明かりもなくて、その人の顔は覚えてないんです。声の感じから、女性って事くらいしか。ただ……」

「ただ?」

「左手に、杖を持っていたと思います。足が悪い方なのかと……命の恩人ですので、是非御礼を申し上げたくて」

 

 頷きながら話を聞くセルマの後ろで、メナドがさらさらと手帳に話の概要を書き留める。今聞いたことを書き終わると、顔を上げて口を開いた。

 

「ふんふん……で、場所は?」

「ここから南、ヤクトです」


 それを聞き、うげ、と渋い顔をするメナド。それを見たセルマが、ぼそりと尋ねた。

 

「どしたの?」

「ヤクトって言ったら、治安が悪くて有名なの。華やかな貿易都市って触れ込みだけど、その影じゃ何してるかわかんない連中の溜まり場よ?」

「よ、よろしくお願いします。私が探すべきなのですけど、もうあの街は怖くて……」

 

 ぺこりと頭を下げる彼女の依頼を、セルマ達は請け負った。

 

 報酬やその他諸々の契約内容を取り付け、一旦準備のために家に帰って行く。

 この一件少し面倒な人探しの依頼が、後に人探しだけの騒ぎでは収まらない一騒動を巻き起こす事を、二人は知るよしも無かった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

良ければ、評価、感想、レビューなどガンガンお寄せください。

流行れ百合!

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