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五十一話 午後の過ごし方 セルマとメナドの場合

癖になってんだ、作中のキャラのCVを妄想するの

「すみませーん。昨日の迷宮の件なんですけどもー。報告書を提出しに来ましたー」

 

 いつものカウンターから身を乗り出し、奥にいるであろう職員を呼ぶセルマ。はーい、と奥から声がし、程なくいつものメガネの職員、ティティが駆けつけた。

 

「お待たせしました。それでは、報告書を頂きます」

 

 その言葉に従い、メナドとエステルがそれぞれ一冊の手帳を提出した。それを見たマカナが呑気な声を上げる。

 

「ア? オマエいつのまにかそんなもん書いてたんダ?」

「逆になんでマカナは書かなかったんです……しっかりして下さいよ。同じパーティの私まで評価が落ちるじゃないですか」

「同じパーティ? そういえばあなたは、エルロンドさんの所に居たのでは?」

 

 ティティの指摘に、思い出した様に懐から証明書を取り出して手帳に添える。それを広げて見たティティはメガネの奥の瞳を輝かせ、口の端を吊り上げながら話した。

 

「むふふ……はい、受理しました! セルマさん達みたいに、仲良くなれると良いですね……むふ」

「ア? ああ、そりゃそうダ。じゃ、行くぞムクスケ。エステル。今日は歓迎会ダ」

 

 そう言うと、三人はさっさとどこかへと去っていく。

 

「じゃ、私達も行こっか。メナドちゃんと行きたい所あるんだ」

「あら、気が合うじゃない。私もよ」

 

 急速に二人の周りの空間が彼女達だけの空間になっていく。こうなったらもはや誰もその間には入れないだろう。

 二人だけの絶対領域を纏いながら、指を絡めてギルドを後にしたのだった。

 

 ギルド前広場を出て、商店街へと続く街道へ。そこを通り始めた辺りから、時折周りからひそひそと声が上がる。主に女性の。

 

「あ、あの子達じゃない?」

「やぁん、可愛い……」

 

 何故だか街の女性の視線を集めながら二人が行き着いた先は、以前立ち寄ってケーキを食べた喫茶店。かねてから、元に戻ったセルマと一緒に行きたいと言っていたメナドの願望が叶えられた様だ。

 セルマはショートケーキを。メナドはレアチーズケーキそれぞれ頼んだ。先に頼んでおいた紅茶とコーヒーを啜りながら、雑談に花を咲かせる。

 

 まず話を切り出したのは、セルマ。紅茶に角砂糖をぽいぽいと入れてぐるぐるとかき混ぜながら、美味そうにコーヒーを楽しむメナドに渋い顔を向けて話し出す。

 

「メナドちゃんて良くそんなの飲めるよねぇ。子供の時にお母さんの貰ったけど、ミルクとお砂糖ましましでやっとだったよ」

「お茶だって苦いでしょうよ。要は慣れよ、慣れ。ハマると結構いけるものよ」

「へー、じゃ、一口ちょーだい」

「ん」

 

 セルマの要望に応え、カップから口を離して差し出す。それを受け取る彼女の顔は好奇心と、苦いんだろうなぁ、というのが半々に混ざっていた。

 

「えへへ、間接キスしちゃお」

「早く飲まないと直接流し込むわよ」

「えー! やだやだ、メナドちゃんとは甘ーいのがいい! ちょっと前の飴のやつみたいに!」

「いいから早く飲みなさいよ! 冷めるでしょうが!」

 

 はーい、とカップに口を付け、すすっと一口啜り込む。

 

「どう?」

「……オイシイヨ」

 

 そう言う顔は、苦味と僅かな酸味にやられて顔面の部位が中心にぎゅっと集まってしまった様な悲惨な顔をしている。

 

「私の好みから言えば、あと三つ……四つくらい角砂糖入れたらもっと美味しいかなあ?」

「入れ過ぎよ……」

「そんな事無いよぉ! これ飲んでみて!」

 

 そう言って、紅茶で満たされたカップを突き出す。それをやれやれといった表情で受け取り、口を付けた。

 

「あ、間接キス」

「うるはい!」

 

 言いながら、一口。紅茶の香りと、砂糖によって原型を破壊された甘ったるい液体が口内を満たした。

 

「うぉ、あっま……!」

 

 急いでコーヒーを手元に寄せて啜り、口直しをする。コーヒーの苦さと拮抗する猛烈な甘みは、カップの中身を全て飲み干してようやく拭い去れた。

 

「……美味しいと思うけどなあ」

「そんなんだから、そんなに大きくなっちゃうのよ。このままだと肉が胸に回しきれなくて太っちゃうかもね」

 

 かちーん。

 

「あ、ふーん……そういうこと言っちゃうんだ? もう怒った。怒っちゃったもんね。もう膝枕してあーげない」

「あらそう? それじゃ、私もお休み前のキスはしてあーげない」

 

 それはずるいよぉ! と涙目で訴えている所に、店員がケーキを運んできた。

 

「あ、来た来た!」

「んん、美味しそうね。すみません、コーヒーのお代わりを」


 空のカップに熱いコーヒーを注ぐと、他の客の元へと向かう店員。準備が整った所で、セルマはフォークでショートケーキの先端を切って口に運んだ。

 

「んふふ、とろける……」

 

 苺の酸味と、ホイップの強すぎない優しい甘み。セルマの顔がゆるゆると緩んでいく。

 

「こっちのも美味しいわよ」

「あ、いいなあ。一口ちょーだい」

「言うと思った。はい」

 

 さくりとケーキを切り分け、フォークに乗せてセルマに差し出す。それに、セルマはわくわく顔で口を開いた。

 

「あー……んあ?」

 

 頬張る直前で彼女の動きがぴたりと止まり、その目はどこか別の所に注がれていた。

 その先には、前ここに来た時に見た『お団子』に手を伸ばす、一人の客。しかし、セルマの視線はお団子ではなく客の方に向いている。

 

 お団子に伸びた手はその周辺をふらふらと彷徨い、なかなか細い串まで辿り着けない。それもそのはず、その人物の目の当たりには包帯らしき布がぐるぐると一分の隙もなく巻かれていた。

 

「ちょっと待ってて」

 

 おそらく目が不自由なのだろう。そう思った彼女は、メナドに断って席を立ち、その人物の元へと向かう。

 

「すみません、ちょっと良いですか?」

「ん?」

 

 ちょんちょんと、驚かせないように肩をほんの少しだけ触り、自分の存在を示す。すると、くすんだ灰色の髪をなびかせながら、首をセルマの方へ傾けた。

 使い古した外套を纏っており、その下には異国風の衣装。少し開かれた胸元からはむっちりとした谷間が見え隠れしている。どうやら女性のようだ。

 

「手、失礼しますね」

「お? お?」

 

 困惑する彼女の手を優しく取り、お団子の串まで導いた。

 

「はい、お団子です」

「あ、ああ……すまないね。ありがとう」

 

 ようやくそれにありつけた彼女は、ゆっくりと持ち上げて白くもちもちの肌を自分の唇に当て、そこから少しずらしてやっと頬張る。

 

「もにょもにょ……うん、美味い。ケーキだのスイーツだのも良いが、私はこっちの方がしっくり来る。同じ国で生まれたからね」

「別の国から来たんですか?」

「ああ、ちょっと仕事があってね」

「お仕事……ですか」

 

 そう小さく零すセルマ。それを受けて、彼女は口元を微笑ませる。

 

「ふふっ。目の見えない私の仕事って何だろう……って、思ったかい?」

「あ! い、いえ! そんなつもりじゃ……」

「あはは、良いのさ。こんな体でも、出来る事は意外に多いものだよ。君は優しい子らしいね」


 そういって、傍のティーカップに手を伸ばそうとする。中に独特な芳香を放つ緑色の液体を満たした、縦に長い物だ。

 またも手探りでそれを探しているので、それをセルマが彼女の手に寄せた。手のひらに触れた温かいカップを、両手でしっかりと持って口元へ持っていく。

 

「いや、悪いね。お陰で今日の食事は快適だよ……あちゅっ!?」

 

 どうやらカップを傾け過ぎたようだ。口を離すと、上唇が赤くなってしまっている。その様子を心配そうに見ているセルマに、口元を押さえながら声をかけた。

 

「あちち……まだそこに居てくれているのかい? もう大丈夫さ、大体の位置は分かった。すまなかったね」

「本当に、大丈夫ですか?」

「ああ、助かったよ。それに、他人の恋人をいつまでも独占しておくのも悪いしね?」

「え?」

 

 そういって後ろを振り返ると、セルマを恨めしげに睨んでいるメナドの姿があった。

 慌てて席に戻ろうとする彼女に、盲目の女性が笑いながら言う。

 

「ふふっ、君達の話は凄く可愛らしかったよ。聞いているこっちが妬けてしまいそうさ。それじゃあね」

 

 いつのまにかお団子を食べ終わり、中身を飲み干されたティーカップの脇に硬貨をいくらか置いて席を立つ。

 

「女中さん。お代、ここに置いておくよ。じゃあ、また」

 

 そういって傍に置いてあった杖を持ち、足元を探りながらふらふらと出口へと向かっていった。

 

「あいた!」

 

 ——帰り際に、大きな音を静かな店内に響かせながら。

 

 額を抑えながら扉を開き、外の人混みに紛れる様にして消えた彼女を、セルマは不思議そうに見送ってから不機嫌そうな彼女が待つ席へと戻っていった。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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