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四十八話 三つの首

たまには真面目に冒険しましょう

「それにしても、ここはどういう所だったんだろうねえ」

 

 警戒がてらに辺りをきょろきょろと見回していたセルマが、ふと呑気な声を上げた。それに、前を行くメナドが振り返る。

 

「どうしたのよ、急に」

「いや、ちょっと気になっちゃってさ? さっきのキマイラだって魔法生物だし。昔の魔法使いさん達が集まって何かしてたのかなあ」

「ま、そんなとこじゃない?あんたがかけられた呪いといい、ロクな連中じゃなかったでしょうね」

 

 そういいながら歩くメナドは、杖を手にどこかうずうずしている様子に見える。それを見て、セルマは再び問いかけた。

 

「どしたの? なんか落ち着きないよ?」

「いや……今日は一発も魔法使ってないから、その、落ち着かなくて」

 

 確かに、今回の探索ではメナドの出る幕はまるでなかった。エステルの魔法の実力もそうだが、一番の要因はエステルとマカナの相性にある。

 

「ばふっ!」

「お、来たナ!」

 

 敵襲を知らせるムクスケの鼻息と共に現れた、小型のキマイラ。それと同時にマカナは腰の鞭を抜き放ち、床を叩いて乾いた音を高らかに響かせた。

 そこから発生した魔法陣の中から現れる、無数の狼。その群れに、エステルが手をかざす。

 

「地を這う侵略者。安らかなる温もりの光。その恵みの一端を我が手に……」

 

 呪文と共に、彼女の手から炎が巻き上がる。高く登った火柱は群れを包み込み、中から赤々と燃える炎の加護を得た狼達が、ゆらゆらと揺れる真紅の毛並みをなびかせて一斉に飛び出した。


 瞬く間にキマイラの群れに食い込んだ彼らは、火炎を吹き上げる爪と牙を以って辺りを真っ赤に染め上げ、異形の獣達は炎に巻かれる。最後に後から続く、炎避けの加護を得た前衛の二人がトドメを刺した。

 

「ふウ。まさかこんな風に私の技を利用できる何てナ。良いのを引き抜けたもんダ」

「貴方こそ、随分と珍しい技を使うのですね。以前幻獣を召喚獣のように使える部族があると聞きましたが、貴方が?」

「……さあナ。さ、行くゾ」

 

 瞬く間に群れを片付けると、その燃えかすを踏み越えながら一行は前へと進んでいく。無論、メナドはますますそわそわとし始めた。

 

「ばふっ」

 

 そこへ、再びムクスケが声を上げる。敵襲に備える彼女達だったが、暗闇の奥から現れたのは、四人組の人間。先を行っていた冒険者だった。

 互いに肩を担ぎ合い、杖に照らされた彼らの顔はまるで血の気がない。まるで恐ろしい何かから逃げて来たようだ。

 

「あなた達、大丈夫ですか!?」

 

 地面にへたり込む彼らに、真っ先に声を掛けるセルマ。その姿から、プリーストと判断した一人が安堵の声を上げる。

 

「た、助かった。なあ、すまないが回復魔法をくれないか? ウチのは魔力を使い切っちまった」

「うえっ」

 

 鋭い何かで、ぱっくりと切り裂かれた傷口を見てセルマが呻く。

 

「ああ、女の子にはちょっと刺激が強かったかな? でも、頼むよ」

「あ、ええと……」

 

 別にそういう意味で呻いたのではない。彼女の特殊な事象を知る由も無い彼らは、不思議そうに首をかしげる。

 

「ごめんなさいね、この子もあまり残り魔力が少ないの。回復薬で我慢して」

 

 助け舟を出すように、メナドが間に割り込んで彼らに薬を数本手渡す。

 

「ああ、そうだったのか。すまないな」

「いいえ。所で、どうしてそんなに血相を変えてここまで?」

 

 瓶を開け、ざばざばと傷口に中身を振りかける。よほど染みるのか、顔を苦痛に歪めながら答えた。

 

「いてて……ああ、この先にどでかい化け物がいてな。奥の扉を守るようにケツを下ろしていやがった」

「で、そいつに返り討ちにあった……と」

「うっ……まあそうだ。幸い奴は追っては来てない。行くんならお嬢ちゃん達も気を付けな」

 

 全身に包帯を巻かれ、手厚い手当てを受けた彼らは再び歩き出し、出口へと姿を消して行った。

 残された彼女達は、彼らが来た方へと首を向ける。魔法の光をも吸い込み、掻き消してしまうような深い闇。時折吹いてくる風が、件の怪物の唸り声のようにも聞こえる。

 

 しかし、彼女達の目には後退の意思は無い。彼女達が見据えているのは目の前の暗闇でも、その先に鎮座しているであろう怪物でも無い。

 

「さ、行こう! ゴールはすぐそこだよ!」

 

 十字架を担ぐ少女の、凛とした呼び声。それに応えるように頷き、或いは鼻息を荒げる。彼女達は、意気揚々と深い闇の中へと足を踏み入れた。

 

 長い回廊を暫く歩くと、唐突に下へと伸びる階段。その一段目に、セルマは足をかけた。

 

「——ッ!」

 

 ごくりと息を飲み、二歩目を踏み出す事なくその場に硬直してしまった。その様子に、メナドが声を掛ける。

 

「ちょっと、どうかした?」

「この先に居る……何かヤバいのが、間違い無く居る!」

「ぶるるっ……」

 

 その震える声を支持するように、ムクスケの兜の奥からも普段とは違う鼻息が漏れる。

 深呼吸し、乱れた精神を整えるセルマ。それを暫く繰り返すと、ぱちんと自分の頰を軽く叩いて喝を入れた。

 

「よし、行こう!」

 

 かつかつと、薄暗がりの中を降りて行く一行。深みに降りて行くにつれ、メナドとエステルの顔色がどんどん切羽詰ったものになって行く。二人も、この闇の最奥に潜む何かの気配を感じ取ったのだ。

 

 背筋には刺すような悪寒がまとわりつき、全身の肌にはぷつぷつと鳥肌が立っている。

 

 そんなメナドの肩をきゅっと抱き寄せるセルマ。一方では、エステルの縮こまる肩をマカナの小さな手がばしんと叩く。

 

「大丈夫だよ。私がついてるし、皆も居るんだもん」

「オマエ、普段はでかい口叩く割ニこういう所でビビんのナ! 大丈夫、大丈夫!」

「ばふっ!」

 

 暗く沈んだ雰囲気を消し飛ばすような、二人の激励。こわばった表情筋も少し緩む。 

 

「ん、ありがと、セルマ」 

「全く、どこからそんな自信が来るんだか」


 少しの賑わいを見せた一行は、少し歩調を早めた。やがて先頭を行くセルマの足に、広い石畳の感触が伝わる。とうとう最奥へと降り切ったのだ。

 

「メナドさん。とびきり明るいのを」

「分かってるわよ!」

 

 杖を構え、口の中で詠唱を囁くメナド。そうして生まれた光の玉を、部屋の中央へ向けて射出した。

 

 照らし出される、部屋の全容。その奥に、ソレは居た。

 

「何、あれ……」

「……骨が折れそうダ」

 

 

 そこにあったのは、三つの首。

 

 猛々しいたてがみを誇る、獅子の首、禍々しくくねる一対の角を生やした山羊の首、毒々しい色の鱗をてらてらと輝かせる蛇の首。

 屈強にして巨大な獣の胴体に支えられた首に輝く六つの瞳が、足元に蠢く矮小な生物に射殺すような視線を送っていた。

最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

良ければ、評価やレビューなど頂けると嬉しいです!すごく!

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