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三十話 セルメナ事変・2

マカナちゃんはそういう知識が全く薄い子です。

 草木も眠るような真夜中の森林。呪詛の森と呼ばれるここに、私はマカナちゃん達に連れて来てもらっていた。

 木陰から聞こえてくるばきばきという音。それと同時に、暗闇の中から空気を切る音が聞こえて来た。

 

「ばふっ!」

「ひやっ!」

 

 唐突にムクスケさんが私の前に握りこぶしを突き出して来た。その太い指の中には、うねうねと何かが蠢いている。

 それは、周りに生えている木の枝。この森の木には縄張りのようなものがあり、そこに足を踏み入れた生き物にこうやって枝を槍のように伸ばして突き刺し、養分を吸い取ろうとするらしい。

 

「おお、危なかっただナ? セーフセーフ。かかかっ」

「笑い事じゃないですよぉ……ありがとうございました、ムクスケさん」

「ばふっ!」

 

 心なしか嬉しそうに鼻を鳴らすと、また私達の先頭を切って森の中へと進んでいく。なんで私がこんな怖い所にいるのか。その答えは、今から一週間前に遡る——

 

 いつもの如く、魔物の討伐の依頼を受けた私達。けれど、この日は少しだけいつもとは違った。他のパーティとの合同での依頼だったのだ。

 組んだのは、剣士・魔法使い・弓使いの三人組。頭数が多いだけあって魔物はすぐに殲滅できた。しかし、本題はこの後。


 彼らと別れた後、私は一つ戦闘中に気になった事をメナドちゃんに聞いてみた。

 

「ねえ、メナドちゃんは杖って使わないの?」

「杖?」

 

 そう。改めて見てみると、魔法使いは基本的に杖を使って魔法を放つ。

 詳しいことはよく知らないけど、魔力の流れを補正して効率よく使えるようにしているとかなんとか。

 

「そう。杖とか使えば、魔法の制御も多少は楽になるんじゃないの?」

「そんなことは分かってるんだけど……まあ、見てて」

 

 そう言うと、さっきまで倒したゴブリンメイジが持っていた杖のような何かを拾い上げ、掲げる。

 

「杖っていうのは魔法を使う際の補助具。魔力が微量でも通っていればこんなきったない棒切れでも構わないの。でも……」

 

 魔法を使うときと同じ様に魔力を込める。すると、その汚い棒は一瞬で炎に包まれて消し炭になってしまった。

 ぱんぱんと煤で汚れた手を叩きながら、私の方を向いて話し出す。

 

「こういう風に、術師の魔力が高すぎると杖の方がもたないのよ」

「へぇ……じゃあ、お金貯めていい杖買おうよ!」

「何言ってんのよ。私の魔力に耐えられる杖なんて、そうそう買えるもんじゃないわ。よしんば買えたとしても、目玉が飛び出る様な値段になるはずよ。私達は別段不都合ないし、気にしなくて良いわ」

 

 そう言ってくるりと背を向けて歩いていくメナドちゃんの背中を見て、私はある事を思った。

 

 高くて買えないなら、自分で素材を揃えて作っちゃえば良いじゃない——と。

 

 その考えに至った私は、まずギルドお抱えの杖職人さんに話を聞きに行った。話によると、耐魔力性が強い木材はもちろんの事様々な素材が必要になるとの事だった。

 

 その日から私は、メナドちゃんに内緒でほとんど毎日素材集めに方々を走り回った。偶然暇を持て余していたマカナちゃん達も、事情を話したら「面白そうダ」という理由で手伝ってくれる事になった。

 

 

 ——そんな訳で、私達は残った最後の素材を揃えるべくこの森に来ている。ここの奥深く、無数の命を吸った呪詛の森の老木ならば杖のベースに最適という杖職人さんのアドバイスを受けて。


 メナドちゃんにはまだバレてないはずだし、びっくりするだろうなあ。

 

「おイ! 何にやけてル!」

「はっ……」

 

 いけない、うっかり考え込んじゃった。下手すると死んじゃう様な危ない所だし、気を付けなきゃ。

 

「全ク。またあのチビの事考えてたロ?」

「ええっ、なんで分かったの?」

「そういう時、オマエの顔……なんていうカ、発情期のメス犬見たいな顔してル。すぐに分かるナ」

 

 ひ、酷い……! 私、絶対そんな顔してないもん。

 

「しかし分からんナ。オマエらオンナ同士であろうガ? 発情したらどうすル? 雌同士で交尾が出来る生き物なんか知らんゾ、ワタシは」

「こ、こう……!?」

「それとも、私が知らンだけでやり方でもあるのカ? それ良いナ、教えロ!」

「あ、あー! あの木とか凄いんじゃない?!」


 もうまともに聞いていられなくて、咄嗟に適当な木を指差した。すると、ムクスケさんが飛んでくる枝の槍を鎧で弾きながら突進して木に取り付き、何やら兜を押し付け始めた。


 そして戻ってくると、マカナちゃんに耳打ちをする。実際にはばふばふ言ってるだけだろうけど。

 

「うーン、血の臭いが薄いッテ。もっと奥が良さそうダ」

「そ、そうなんだ? 残念だなあ。じゃ、早速進もう、うん!」

 

 なんとかごまかして、先へと進む。あれ以上あんなこと喋ってたら、恥ずかしくておかしくなりそう。今の内に別の話題を考えていつでも話をそらせるようにしないと……。

 

「なァ、さっきの交尾の話だけド……」

 

 き、キタ!

 

「そ、それにしても! マカナちゃんってなんでムクスケさんの言葉が分かるの?」

「んあ? まあコイツとは長いからナ。里に居た時からずっと一緒ダ」


 里……そう言えば所々言葉がぎこちないけれど、どこか遠い国の出身なのかな? 肌の色も若干違うし……。

 

「マカナちゃんって、どこから来たの? この辺じゃないよね?」

「……どこだって良いだろウ。オマエには関係無イ」

 

 いつもの気さくなマカナちゃんからは考えられない様な、突き放す冷たい口調。顔も心なしか曇って見える。何かいけない事、聞いちゃったかな……?

 

「あ、あの、ごめ——」

「ゔぉおふッ!」

 

 唐突に、ムクスケさんが興奮した様ないつもとは違う異常な声を上げる。両腕を構え、ある一点を凝視して目を逸らさない。そのただ事では無い雰囲気に、体勢を整えて視線をそちらに滑らせる。

 

「——ッ!」

 

 思わず息を飲んだ。暗闇に紛れ、夜空を衝く様な巨木。その枝には、大小様々な動物の骨が突き刺され、絡め取られて月明かりに晒されていた。


 風化しかかった物から、未だ血肉がこびり付く新しい物まで。この木がどれだけの長い間命を食らってきたかを、ありありと見せ付けられている様だ。

 

「凄い……この木ならきっと!」

 

 やっと見つけた喜びに、思わず足が前に出る。

 

「バカ! 下がレッ!」

 

 瞬間、ばきばきという音が響き渡る。これが枝を伸ばして攻撃してくる際の音だと知っていた私は、咄嗟に神罰ちゃんを前の地面に突き立てて盾にした。

 

 がりがりと金属を引っ掻く音と、枝がぶつかってくる衝撃が体に伝わる。相当な力で枝を伸ばしてきているらしい。

 

「相当な魔力を吸ってるナ。コイツはもうただの木じゃない。魔物ダ! 油断してると養分にされルッ!」

 

 鞭を構え、次々と動物の幻影を出してけしかける。それを先導する様に突進していくムクスケさん。

 

「私も……!」

 

 待っててね、メナドちゃん。今、プレゼントを持って帰るから!

最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

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