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三話 メナド

慇懃無礼な感じの女の子すき

「いや、ダメです」

「えっ」

「単身での依頼の受領は、最低でもランクが銀に到達していなくては認められません。パーティを組んで、また来て下さいね」

 

 日を改めてギルドを訪れたセルマだったが、受付のお姉さんに門前払いをくらいあえなく撃沈。しょぼしょぼと近くのベンチへと腰掛ける。

 プリーストであればパーティへの勧誘など引く手数多だろうが、彼女の場合癒せるのが自分だけ。

 熟練の冒険者たちならいざ知らず、新米達がこんな訳のわからないプリーストもどきを招き入れる訳はないのだ。

 

 虚ろな目でわいわいと活気づくホール内を見つめ続け、パーティを組んで依頼をこなしに行く彼らをただ見送るセルマ。

 薪割りのバイトでもしようかな、そんな事が頭をよぎったちょうどその時。

 

「何で一人じゃダメなのよ!」

 

 耳を突く高い叫び声が聞こえてきた。思わず振り向いたその先には、受付のお姉さんに食ってかかるいかにも気の強そうな少女が居た。


「で、ですから、その、ある程度実績を積んだ方でないと単独での行動は命の危険が……」

 

「この辺のやつらに遅れを取る私じゃないわよ! いいから許可しなさい!」

「だ、だめなんですぅ……」

 

 私とは合わないタイプの人だなぁ……そんな事をセルマは考えていた。そのまま話はのらりくらりとかわされ平行線を辿り、しびれを切らした少女はヒステリックに声を上げた。


「——ッ! もういいわよッ!」


 ぐるりと髪を振り回して踵を返し、がつがつとブーツのかかとを鳴らして歩く。

 

 やがてセルマの座るベンチへと歩み寄り、どかっと横へと腰をかける。怒りのこもった尻が、ベンチとセルマを揺らした。

 ちらり、とセルマがそちらに目をやると、即座に少女の吊り上がった目と視線がかち合う。


「……何よ」

「なな、何でもないです……」

 

 再びしゅん、と顔を沈め、視線をそらす。その様子を見た少女は短く鼻を鳴らし、気怠げに組んだ足に頬杖をついてふてくされた様に正面を見据える。

 

 気まずい雰囲気の二人を置いて時間はゆるゆると過ぎて行き、一組、また一組とパーティが出来上がってがやがやとギルドから依頼に向かっていった。

 

 しん……と、さっきまでの喧騒が嘘の様に消え失せる。奥のギルドの職員達が書類整理をする、紙が擦れる音さえ聞こえてくる程だ。

 

「あ、あのう……」

 

 その沈黙を破ったのは、セルマの一言だった。

 

「……」

 

 またかよ、とでも言いたげな瞳を再びくいっとセルマに向ける。背筋がひやりと凍りつく様な感覚が、彼女を襲う。

 絶対的な拒絶の眼差し。しかしめげない。セルマはめげない!

 誰でもいいからとりあえずパーティを組んで、冒険者としての第一歩を踏み出したい。薬草摘みでも何でもいい! 彼女の脳内にはそれだけしかなかった。


「しょ、しょの……わたわた、私と……」

 

 この空気感で声を掛けただけでもだいぶ無理をしている彼女の口は思うように脳が生み出した言葉を出力できない。

 ふすふすと壊れた笛の様に息を漏らし続ける彼女がやっとの思いで発した言葉は——

 

「私と、つ、付き合ってくだしゃい!」

 

 ——最悪だった。

 

「何言ってんのアンタ……」

「あああ、ええと、違くて! いや、付き合って欲しいのは違わないんだけど、そういう付き合って欲しいっていうんじゃなくて……! すーはー、すーはー……」


 あわわあわわと慌てふためくセルマは平静を取り戻すべく大きく深呼吸をし出した。それをじとりと見つめている少女。何とも言えない不思議な雰囲気が漂っている。

 やがて落ち着きを取り戻したセルマは、本来伝えたかった言葉をようやく脳からひねり出す。


「私と、ぱぱ、パーティを組んでください!」

「はあ? 私が? 貴女と? 嫌よ、お断り」


 つーん! とそっぽを向いてしまった。しかし、セルマも必死に食い下がる。


「さ、さっきお姉さんに一人で行くのダメって言われてたよね! って事は、あなたも駆け出し冒険者って事だよね! 私と組めば、とりあえずは依頼をこなしに行けるんだよ!」

「うっ……」


 そう、彼女も切実に依頼を受けたい理由があった。宿に長期宿泊をしている彼女には、間も無くその契約更新が迫っている。早い所お金を工面しないと、宿を追い出されてしまうのだ。しかし——


「い、嫌よ! 絶対アンタとなんて行かないから!」

「な、何でそこで変に粘るの! ちょっと意味が分からないかなっ!」

「う、うるさいうるさい! いいから、私に構わないでよ!」

「むむむ……!」


 受けと攻め。二つの視線が激しく火花を散らす。その後も続いた十数分間にも及ぶ舌戦の末、勝利をもぎ取ったのはセルマだった。


「分かった、分かったわよ! 組んであげるから!」

「わーい! やったー!」

「ただし!」


 喜ぶセルマの鼻先に、ずびっと人差し指を突きつける少女。


「魔物の討伐絡みの依頼はダメよ! 薬草摘みとか、採取系のにしてよね!」

「うんうん! 全然おっけーだよー! うふふ、これでやっと冒険者らしい事が……!」

 

 冒険者らしい事も何も、ただの草むしりだ。本人が満足なら誰も口出しを出来ることではないが。

 

「じゃ、早速受付に行こう! 私、セルマ・アマランサス! あなたは?」

「……メナド。ソーサレスのメナドよ」

「ん! メナドちゃん。今日はよろしくね!」


 ぱあっと明るい笑みを浮かべるセルマ。そのままメナドと名乗った少女の手を引き、受付へと舞い戻り無事薬草摘みの依頼を取り付けたのだった。

いつも読んで下さり、ありがとうございます。

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