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二十二話 二人のお金の使い道

爆発しました。明日も明後日もこんな感じで爆発します。砂糖爆弾。

 祭りから一夜明け、何事も無かったかのようにステルダの民の一日が始まる。

 そんな町外れにひっそりと佇む、セルマの間借りしている小さな家では、いつもの二人がテーブルを挟んで同じ一点を睨んでいた。

 

 その先には、一つの皮袋。中にはぎっしりと銀貨が詰まっている。朝食にベーコンを付けられればそれで贅沢という彼女らにとって、これは途方も無い大金である。

 余りに身の丈に合わない大金を得た彼女達は、それの使い道を考えるべくここに集まったのだ。

 

「ひいふうみい……うわあ、三ヶ月くらいは遊んで暮らせるかも」

「準備金にしたってちょっと多いわね……装備品を買い揃えても余裕でお釣りが来るわよ、これ」

 

 皮袋をつつき、ちゃりちゃりと音を鳴らして遊ぶメナド。やがてそれにも飽きたのか、腕組みをして再び袋を睨みつける。

 

「うーん……どうせなら思い切ったやつを買いたいわねえ。高級な魔道具でも買っちゃおうかしら」

「あ……ね、ねえ。今思い付いたんだけど……」

 

 もじもじとしながら話し出す。くりくりと人差し指同士を突き合わせて回し、恥ずかしそうだ。

 

「ん、何買うの? スクロール? 魔道書?」

「え、えと……お家……」

「お家ィ?」

 

 突拍子も無い返答に、上ずった声で戸惑うメナド。その反応に、より深く顔を俯かせて恥ずかしがってしまった。

 

「なんでまた、そんなもんが欲しいのよ。確かにここ狭いけども」

「そのう、私の家とメナドちゃん家って、ちょっと遠いじゃない? その、集まるの大変だし、それで……」

「んん? 何もごもご言ってるのよ。もっとはっきり言いなさい」

「うう……」

 

 しばしの沈黙。その後に、意を決した様に顔を上げて声を張り上げた。

 

「わ、私と、メナドちゃんとで、一緒のお家に住みたいな、って……」

 

 せっかく大きく張り上げた声だが、通りが良かったのは最初だけ。後半はほとんど消え入る様に尻窄みになっていた。

 しかし、聞いている方には効果はてきめん。二人共、熱にうかされているように顔が真っ赤になっている。

 

「そそ、それって、どうせ……」

「だって、

 メナドちゃんと一緒に居ると楽しいし、ご飯も美味しくて……」

 

 真っ赤に染まった顔を俯けながら、ぽつりぽつりと言葉を捻り出す。その一言毎に、メナドの顔も更に染まっていく。

 

「そ、それでね。一人だとなんだか物足りないの。体の一部が無いっていうか、ぽっかり穴が空いてるっていうか……」

「も、ももっもう良い! ちょっと待って!」

 

 右手を突き出し、必死に制する。一方左手は、真っ赤に染まった顔に当てて隠す様に構えていた。

 指の間からチラリと覗く瞳は、昂ぶった感情によって少し潤んでいる。

 

「そ、そのう、ごめん……やっぱり、だめかなあ。だめだよね……」

「い、良いわよ!」

 

 目を固くつむり、ローブの裾を固く握り締めて絞り出す様に言うメナド。最も聞きたかった返事が耳に飛び込んで来て、セルマの目が丸く見開かれる。

 

「わ、私だって、その、あんたと居ると退屈しないし……えっと、じ、準備とかするのに便利だしね!」

「ほ、ほんと!?」

 

 がたたっと猛烈な勢いで席を立ち、戦闘時の様な俊敏さでテーブルを回り込んでソファに座るメナドの隣へと着地する。そして、はしっと彼女の手を両手で捕まえて視線を放ち始めた。

 それは、ただ一言に『熱い』などとは形容できない複雑な情念が込められた物だった。それを自分の全身に受け、しどろもどろにまた言葉を紡ぐ。

 

「ほ、ほんとだって言ってるでしょ……昨日、そう言ったじゃない」

「うーん、昨日? なんて言ってもらったっけなぁ……? 忘れちゃったなぁ……?」

「はぁー!?」

 

 人差し指をこめかみにつけ、うんうんとわざとらしく唸り始める。時折顔を出すセルマのいたずら心が、暴れ出していた。

 

「うーん、思い出せない。もう一回言って欲しいなぁ?」

「あ、あれはお祭りのノリって言うか……お酒もちょっぴり入ってたし!」

「じゃあ、シラフでもっかいお願い」

「は、はがっ……!」

 

 彼女の顔は、今や燃え上がる様に紅く染まっていた。そして、小悪魔の様なセルマのおねだりに屈して唇をふるふると震わせて必死に言葉を発しようとしている。

 

「わ、わた……ッ! 私のとなな、とにゃりはあんたで……! あんっ……たの! 隣は……! わ、わた……し……!」

 

 恥じらうあまり、口が思う様に動かない。ようやく全てを吐き出し終わった彼女は、だらしなく照れに照れた顔を隠す様に目の前の豊かな温もりに顔を埋めた。

 

「も、もう絶対言わないからね……これっきりよ!」

「えへへ、大丈夫。もう絶対に忘れないから」

 

 自分にもたれる彼女を支える様に、同じくそちらへと体重を預ける。

 そしてごく自然な動きで、お互いにお互いの腰に手を回し、空いたもう片方の手をお互いの手で埋める。がっちりと、離れない様に固く。

 

 二人の間の固く繋がれた手は、時折互いの指と指の間をついっ、となぞる。そのお返しにと、くにくにと指を軽くつねり返す。ただただ無言で、ひたすら無心にお互いを感じ合っていた。

 

「はあ、あったかい……」

「セルマ、柔らかい。良い匂い……」

 

 繋がった所から、お互いの体温が溶け合う感覚が二人を包む。その心地よさに緩んだ体はその中にどろどろと沈み込み、まったりと体の芯からくつろいでいる。

 

「ねえ、お家探し……いつ行く?」

「……まだ朝も早いわ。もうちょっとくっついてても、バチは当たらないわよ」

「うん。私もちょうど、そう思ってたんだ」

「気が合うわね」

「ほんとにね」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

最近これのジャンルがファンタジーなのか恋愛なのか分からなくなって参りました。

宜しければ、評価などぽちぽちっと。レビューもどしどしお待ちしております。


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