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二十一話 フィナーレ

次回からしばらく二人のイチャイチャ生活です。しばらく戦闘回だったので、そうとう爆発すると思います。

 彼の頭部を襲った二発の打撃は、その衝撃を殺しきるには竜の頭蓋ですら荷が勝ちすぎていた。脳を縦横無尽に揺さぶられ、その意識は彼方へと吹き飛ばされる。

 羽ばたきが止み、風に舞う木の葉のように回転しながら落下し、地面に叩きつけられる飛竜。


 『決着ゥーーーッ!!』


 地鳴りと共に街中に響く、祭りの終了を告げる声。街に放たれた魔物は、たった今地に落ちた飛竜で最後だったのだ。その声を受けて、激しい戦いを繰り広げていた二人の手も止んだ。


 怪我人や街の被害などを確認するべく、無数の水晶が飛び交って街を走査し始める。

 それと並行して、各チームを中央広場まで集めてからの得点の発表が行われた。下から順位を読み上げられる毎に、彼らを労う拍手がぱらぱらと鳴り響く。


 残すところは、二位と一位の発表だけとなった。すると唐突に、司会の声が辺りに響く。


『只今、最後の得点の判定を映像にて行なっております。少々お待ちください』


 ふと、セルマが不安そうに横のメナドに声をかける。


「ね、ねえ。あの三百点さ、どっちの点数になるんだろうね……?」

「……今、ギルドの連中がその時の映像とにらめっこしてるわ。こればっかりは運ね」


 くいくいと親指で指差す先には、数人のギルド職員。一様に細められた目の先には、飛竜の頭をしこたま殴りつけた時の映像が前後に行ったり来たりしている。

 その時点で、セルマ組とマカナ組の獲得点数は全くの同点。最後の得点がどちらに転ぶかで全てが決まるのだ。


 檻に運ばれ大きなたんこぶをこしらえて気絶している飛竜に、『どっちの方が痛かったですか?』などと聞くことが出来れば話は早いのだが、それは叶わぬ絵空事だ。


 そわそわと体を動かすセルマ。そのふらふらと拠り所なくさまよう手をメナドの手がはしっと掴み、包み込んだ。


「あっ」

「もう、しゃんとしなさいよね……大丈夫よ。私達なら」


 メナドの自信に満ちた笑みが、セルマを奮い立たせる。


『判定の結果が出ました! セルマ組、マカナ組は速やかに中央広場の壇上までお越し下さい!』


「来た……!」


 ごくりと息を飲みながら、衆目に晒されつつ疲労を引きずって壇上へと登る二人。

 頂上に到達すると、同じく登ってきたマカナ達と目があった。いつもおちゃらけた雰囲気の彼女達だが、今日ばかりは表情が緊張でこわばっている。


『えー、大変長らくお待たせしました。審査員のティティです。最後の映像を厳正に判定しました結果——』


 ごくり。三つの喉が唾を飲み下す。


「——二者の攻撃は全くの同時! 寸分の狂い無く同時でした!」


 その知らせを受け、壇上の彼らの顔に困惑が色濃く刻まれる。しかし、それ以上に観客達がどよどよと騒ぎ始めた。それに構わず、より一層声を張り上げるティティ。


『これにより飛竜の得点は無効! 二組の得点は同点、一位タイ! よって、今回は二組とも一位! 優勝に、はいけってーい!』


 瞬間、水を打ったように全てが静まり返る。直後、割れんばかりの大歓声が暮れかかった街並みを揺るがした。

 ぽかんとした顔でその様子をどこか他人事のように見ている三人。


 ムクスケはというと、全身を鎧で包まれているのでよく分からないが、ふんふんと鼻息を荒げてがこがこと自分の胸を拳で叩いている。歓声に当てられて興奮しているようだ。


『一位の四人には、ギルド長から直々に、賞金と銀の冒険者章が授与されまーす!』


「え……え?」

「なに? なに?」


 混乱の真っ只中にいる彼女達。不意に、かつかつとヒールが階段を叩く音が響き渡る。

 現れたのは、何かの包みを片手に持ったギルド長・ラクロワ。相変わらずその目は冷徹に光り輝いている。


 彼女の登壇と共に、観客達の馬鹿騒ぎもナリを潜めた。訪れた静寂に、彼女の声が高らかに響く。


「これより、冒険者賞与を執り行います。四名、前へ」


 彼女に呼ばれ、粛々と目の前に整列する四人。そのそれぞれの手に、煌びやかな装飾が施された小箱が乗せられる。


「さあ、その目で確かに確認して下さい」


 震える手で箱に手をかけるメナドとセルマ。かちりと留め金を外し、静かにそれを開いた。

 目の前にあったのは、小さく、それでいて確かな銀色を放つエンブレム。一人前の冒険者、その第一歩を踏み出した者の証である。


 ふわふわと夢を見ているような感覚のまま登壇した二人の胸に、一気に実感が込み上げて来る。やがてそれは、二人の目から形を成して溢れ出した。


「や……やったやったーー!!」


 思わず叫ぶセルマ。それに合わせて、下の観客達も再び彼らを讃える歓声を上げ始める。


 ざわめきの中、感情が昂ぶるままにぴょんぴょんと飛び跳ねるセルマ。とうとうひょいっとメナドを抱き上げ、ぎゅうぎゅうと抱きしめ始めた。


「あはは、ちょっと痛いわよ、あははは……」

「やった! 私達やったよー!」


 人目もはばからずはしゃぎ回る二人。そこへ、魔道具で声を拡張したラクロワが観衆へ向けて声をかける。


『さあ、これで試験は終了です。最後は肉と酒で、盛大に祭りを締めくくりましょう』


 湧き上がる、この日一番の歓喜の声。彼らにとっては、祭りの最後を飾る宴こそが最大の楽しみなのだ。

 人々に振る舞われる肉には、冒険者達が狩った魔物の肉が使われる。絶命と同時に遺体保存の魔法がかけられる為、()()()心配は無い。


 時間の経過と共に次々と大皿に乗せられて運ばれる様々な肉の盛り合わせ。

 鳥形魔物の心臓や、猪型魔物の腸詰など様々な肉料理が街の料理人総出で供される。


 野外に並べられたテーブルの上をそれらが埋め尽くすと、それを囲んで酒を片手にどんちゃん騒ぎ。これが狩猟祭の伝統的な楽しみ方だ。

 マカナは中心に陣取って、べろんべろんに酔っ払いながら肉料理を頬張っている。その脇では、兜の隙間から肉の刺さった串を押し込んでいるムクスケ。周囲は大盛り上がりである。


 そんな喧騒から少し離れた所に、ぽつんと一人ベンチに腰掛けて、小皿に盛られた肉料理とぶどう酒の入ったグラスをちびちびと口に運ぶセルマ。


「セルマ。なんでこんな隅っこにいんのよ」


 そこへ、同じく両手にグラスと皿を持ったメナドが歩み寄り、隣にちょこんと腰を下ろした。


「あはは。あんまりこういう賑やかなのって、実は苦手なんだよね」

「気が合うわね」


 言いながら、ほくほくとステーキを頬張る。そんな彼女を、セルマは少し不安げな目で見ている。


「……何よ。一口食べる?」

「あ、ああ。えっと、違くてね」


 わたわたと手を振りながら、また再び話し出す。


「えっと。銀級に上がると、一人でも依頼に行けるようになるんだよね」

「ああ、そうね。思えばそんな事で騒いでたらあんたと組むハメになったのよね。あはは」


 楽しげに笑うメナド。しかし、それとは対照的に彼女の表情は沈んでいく。その様子を見たメナドが、心配そうに声をかける。


「本当にどうしたのよ? お腹痛いの?」

「そ、その……一人で冒険に出られるって事は、誰かと組む必要も無いわけで……」

「……何が言いたいの?」


 言い辛そうに口ごもりながら少しの間を置いて、何かに耐えるように目を瞑りながらおずおずと口を開いた。


「き、今日でパーティ解散! 何て、言われちゃったりするのかなあって……あはは……」


 言い終わって、また沈むセルマ。そんな彼女の耳に、深い深いため息が届く。


「……なんであんたはそんなに、自分に自信が無いのかしらね?」

「え?」


 体の横で動きを感じて、目を開けるセルマ。その目の前には、怒り半分、呆れ半分といった表情のメナド。

 その手を彼女の頭に伸ばし、挟み込んで胸に押しつけるように抱きしめた。


「この私が、『あんたなんかもう用済みだ』……って放り投げるような、そんな不義理な真似をする女だと思ってたの? 心外だわ」

「メナドちゃん……」

「私とあんたはね、絶対、一生一緒よ。冒険者をやめて、おばあちゃんになってもずっと一緒。私の隣はあんたで、あんたの隣は私なの。いい?」 


 言いながら、胸元の頭をぽんぽんと叩くメナド。少し照れ臭くなったのか、ぽりぽりと鼻頭を掻きながらまた隣に座り込んだ。


 その左手に、そっとセルマの手が重ねられる。


「えへへ、ありがとね。これからも、ずうっと、よろしくね」

「ふふ。こちらこそ」


 ちりん。


 互いにグラスをぶつけ合うと、微かに澄んだ音が鳴り響く。向こうで響く大騒ぎに掻き消されそうなささやかな音色は、二人の間でいつまでも響いていた。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

宜しければ、評価などぽちぽちっと。レビューなんて頂けた日にはそりゃもう。

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