十八話 白熱
今後の作品に活かす為に、よろしければ皆さんの好きな百合シチュをこっそり教えて頂けると幸いです。ちょっとアレなやつでも大歓迎です。
抑えを失い、黒い波となって街中に流れていく魔物達。互いに押し合いへし合い、怒涛の勢いでただまっすぐに突き進む。
やがて、魔物達は眼前に立ちふさがる二つの影に気がついた。それは、二人の人間。自分達とは比べるべくもない、小さく弱い存在。
飢えた彼らは、それを自分の胃の腑へと収めるべく我先にと駆け出す。
「炎矢ッ!」
不意に、人影の一人がそう叫ぶ。すると、突き出した指の先に炎の矢などとは到底呼ぶ事のできない、まるで炎の槍の様なモノが形成された。
一瞬空中に停滞したそれは、その熱で周りの空間を歪ませながら炎の尾を引いて指先を離れる。
次の瞬間、黒い波の先頭と衝突したそれは辺りを真っ白に染め上げる大爆発を引き起こした。
次いで巻き上がる爆炎の中から、先程まで魔物の一部であった物が四散し、あたりの建物に飛散する。しかし、あらかじめ建物を保護するべく張られていた結界がそれを阻んだ。
「ふーん。本当に街には保険かけてあるのね。これなら好き放題できるわ! セルマ! あんたは群れに突っ込んで暴れなさい。私は撃ち漏らしを粉々にしてあげる!」
「わかった! おりゃ〜ッ!」
気の抜ける様な雄叫びを上げ、神罰ちゃんを振りかざして群れへと突撃する。対する魔物の群れは、爆炎を浴びて手負いとなり、いよいよ殺気立っている危険な状態だ。
そんなことも構わず、後続の群れに飛び込んだセルマ。やがて、そこを中心に血の嵐が吹き荒れた。
「おらおらおらおらおらあああああッ!」
手に持った巨大な十字架を上下左右に、滅茶苦茶に振り回し始めた。それに当たった不幸な魔物はその衝撃で骨肉を砕かれ、ゴミクズの如く吹き飛ばされていく。
そこから運良く抜け出し、前進を開始する魔物には漏れなく炎の槍が投げ込まれる。その様は、もはや狩猟ではなく虐殺だった。
宙に浮かぶ水晶が映し出すその光景を見た観客達の口から、どよどよと声が漏れる。
「おいおいすごいなあの娘達……」
「なんだありゃ、あっちが魔物と違うか?」
「下乳……貧乳……」
などと口々に呟く中、別の方角から歓声が上がった。声の主は、別の映像を見る観客達。その眼前には、マカナ達の戦いの様子が映し出されていた。
彼女もまた、殺到する凶暴な魔物達の群れと対峙している。しかし、その表情は余裕をたっぷりと含んでいた。
「きゃはははッ! かもんまいふぁみりー!」
楽しげにそう叫ぶと、腰に携えた鞭を抜き放ってムクスケの肩の上から勢いよく振り下ろし、街道の石畳を叩く。
ぴしゃりと高い音が響くと、その鞭の先端から魔法陣が発生した。
「行けい者共! 出会え出会エー!」
掛け声と共に魔法陣が輝く。そしてその光がひいた後には光り輝く輪郭の、透き通った狼の様なモノが現れた。
続け様に辺りを鞭で叩きまくるマカナ。それによって生まれた魔法陣からは次々と動物の形をした光が姿を現していく。
鷹に、狼。そして猿、果てには蛇まで。ありとあらゆる動物を呼び出し続け、今や目の前に迫る群れと同規模の軍勢が出来上がっていた。
同時に、マカナがびしっと群れに指を立て、指し示す。それを合図に、彼女が呼び出した獣の軍勢は一斉に突撃を開始した。
ある者は喉を透き通る牙に食い破られ、またある者は胴体を丸太の様な蛇の体に巻き取られて圧死していく。
ぴょんぴょんと飛ぶウサギとすれ違う度、その首を落とされる者までいる始末だ。
やがて、魔物の群れに生きて動いている者の姿は消え失せた。
「ふははー! これはワタシ達が一番強いだナ! ムクスケ! 狩場を変えるヨ!」
言いながら、べしべしと自分の尻が乗る肩を叩くマカナ。それと同時にムクスケは二足歩行から姿勢を変え、獣じみた四足歩行に移る。
そのあまりにも自然で、堂に入った姿はまるでこの鎧の中に獣が入っているかの様。
そしてそのまま地面を駆け、獣の軍勢を引き連れて別の魔物の群れを求めてその場を去って行った。
「おいおい、今回は随分レベル高い冒険者が揃ってんな!」
「ああ、あっちの二人組も堪らんけど、こっちの褐色元気娘も色々チラチラしてて……クる!」
「……お前さっきからどこ見てんの?」
狩猟祭開始から一時間経過。映像から各々の討伐数を計測していたギルドの職員がその数を計上し、観客達の見ている映像へと反映させる。
セルマ・メナド組が現在討伐数六十六体。マカナ・ムクスケ組は六十九体。後の参加者は少し出遅れて五十そこそこと言った具合だ。
満遍なく魔物の数が減った所で、ギルド職員達は更に街の結界を解除する。
そこへ飛び込んで来た個体は、長らく待たされていた分飢え、更に凶暴だ。それらが新たに冒険者達にぶつかるという事で、観客達は更にボルテージを上げて行く。
「ふん、また来たわね! 行くわよ、セルマ!」
「うん!」
新手の出現にやる気を露わにする二人。一方遠く離れた区画のマカナも、更に気勢を上げていた。
「飛んで火に入るなんちゃらかんちゃらネ! ごーごー!」
観客達の視線は、もっぱらこの二組に注がれている。頭上ではまだ高く日が昇り、彼らの頭上をじりじりと照りつけていた。
狩猟祭は、まだ始まったばかりだ。
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