十七話 開幕
ノリと勢いで書き上げました。メナドちゃんは絶対スク水似合うと思うんです。
「ん? 衣装? 何それ」
「何ダ?聞いてなかったのカ、オマエ達」
不意にがっしゃがっしゃと脇を通って来たマカナ達。そして、彼女が鎧の肩からひらりと地面に降り立った。
「マツリに出るヤツは、それ用の服に着替えルって言ってただロ。居眠りでもしてたカ?」
そう言って巨大な衣装箪笥を囲む集団に近寄っていくと、彼らもまたマカナの方に気付いた。そしてその集団の中から、一際目を輝かせる数人が彼女へと向かって行った。
「きゃー! ちっちゃくて可愛い……! 待っててね、お姉さん達があなたにぴったりの衣装を用意してあげる!」
「おう! ヨロシク頼モー!」
きゃいきゃいと騒ぎながら、衣装箪笥を開けて中から何やら一着取り出した。かと思うと、マカナを更衣室へと連れ去ってしまった。
「へぇ……お祭りの衣装かぁ。そういえば、昔見に来たときも皆変わった服着てたかも」
「ちょ、ちょっと! 見てあれ!」
セルマの裾を引っ張り、わたわたと向こうの方を指差すメナド。その指の先には鍛え上げられた筋肉をさらけ出した半裸の男性冒険者。なぜか満足気な顔をしている。
「ん……んんん?」
よくよく目を凝らすセルマ。よく見れば、その上半身は彼の胸筋を強調するかのようにざっくりと胸元が開かれた服を纏っていた。腰に履かれているズボンも、ぴちっとタイトだ。
「え、何あれ……竜巻にでも巻き込まれたのと違うの?」
ふと、あの集団から解放された冒険者達に気付くセルマ。どの衣装もなかなかに解放的な造形だ。男性の衣装はどれも筋肉を強調したデザイン。
女性の衣装は、どこを見ても布地より肌色の方が多い、もしくは極めて薄い布地のとんでもない服になっていた。まともな貞操観念を持っていれば絶対に着ないだろう。
これはかつて、古の人々が狩猟に臨む際に装備を手放し、死と隣り合わせの状態に自分を追い込んだという伝承に端を発している。
『装備を手放す』という言い伝えが時と共にねじ曲がり、『露出度の高い衣服を身に付ける』という形になったのだ。その衣服の過激さは年々増していき、そして今に至る。
「ム、まだボケっとしているのカ。早く着替えた方が良いと思うゾ」
理解が追いつかない二人の背後に、更衣室から戻ってきたマカナがムクスケの肩に乗って戻ってきた。
「ぶへぇっ」
彼女の服装も、訳の分からない物に変えられていた。それを見たメナドの口から、思わずどの感情に起因するのか分からない失笑が溢れる。
「どうダ? 動きやすくテわりかしお気に入りダ!」
彼女が身に纏っているのは、胸をギリギリかろうじて隠せている水着の様な何か。そして履いているスカートの両側には、えげつない深さの切れ込みが入っている。
足をぷらぷらと揺らす度にちらちらと見える、褐色の太ももが眩しい。
ちなみにムクスケはというと、サイズが合うものがなかったのか兜の部分に羽飾りをちょこんと一つ付けられただけだ。
「え? えへぇ? こ、こんな感じのを私達も着るの? 冗談でしょ?」
「冗談ではありませんわ!」
彼女達の背後で高らかに響く、一人の女性の声。一瞬肩をビクつかせた二人は、恐る恐る後ろを向く。
「はあい、お二人共。またお会い出来て嬉しいですわ」
にまにまとした笑みを浮かべるその女は、かつてセルマ達がネックレスを買った店の店員だ。細めた目の間からは、よこしまな視線が漏れ出ている。
「んふふ。私、貴方達が狩猟祭に出るって噂を聞いて、徹夜で衣装を作り上げたんです。もうノリに乗っちゃって、一晩で二着も作ってしまいました」
わきわきと両手を蠢かせて二人に迫る店員。それから顔を青ざめさせて、じりじりと後ずさる二人。まるで変質者に追われているかの様だ。
「あらあら、どうして逃げるんですぅ? ちゃんと着替えないと、参加できないんですよぉ?」
「う、うぐ……」
一瞬、二人に迷いが生じた。冒険者たる者、一瞬の迷いが命取りになりかねない。それは、たとえ街中であっても例外ではなかった。
「隙ありぃぃッ!」
「いやああああッ!」
二時間後——
ギルドの外、街の大広場では、大勢の観客達の熱気が渦巻いている。その中央に置かれた壇上では、背広を着た男が大げさな身振り手振りを交えて口元に声を拡大させる魔道具を当てて彼らを囃し立てていた。
『さァ、今年もやって参りましたステルダ伝統、狩猟祭! 数百年もの間連綿と続けられてきた、血と汗が飛沫を上げる命のやり取りに参加するツワモノ達は、こいつらだーッ!』
男の声と共に、ギルドの正門が開く。中から現れたのは、伝統衣装を纏った冒険者達。皆恥ずかしさなど割り切ったのか、やや頬を染めてその中を周りに手を振りながら歩いていく。
筋肉や素肌を最大限に、ギリギリを攻めた所まで露わにした彼らに、観客達から割れんばかりの歓声が叩きつけられる。
「は、はうう……! 恥ずかしい……!」
無数の視線を浴びて、顔を真っ赤に染め上げるセルマ。彼女が身に纏っているのは、いつも身に纏っているプリーストのローブに店員の好みを盛り込まれ、改造された物だった。
全体的に体の線をぴたりと強調させ、更に胸を覆う布はばっさりと下半分を切り取られ、その分の布の下に収まるべき所が外気に晒されている。
そして臍の部分も、プリーストの象徴である十字形に切り取られていた。
「わ、私だって恥ずかしいんだから、我慢してよね……!」
メナドはというと、ぴっちりと胴体を包む紺色の衣服に身を包んでいた。くっきりと体に食い込むそれは、セルマの服以上に体の線を露わにしている。
異国の水泳服を元にデザインしたというそれには、彼女の手によってフリルや太ももまでのソックスなど、明らかに余分な装飾が成されていた。
ここまでくると、水泳用というより観賞用以外の何でもないだろう。この服の作り手を呪いながら、二人は二つに割れた群衆の間を進む。
係員にそれぞれパーティ毎に誘導され、狩りの開始地点に着いたセルマ達。
彼女らが配置されたのは街の外までまっすぐに伸びる中央街道。
遥か彼方では、街にあらかじめ巻かれた特殊な餌によって惹きつけられた無数の魔物達が、魔法で張られた結界を目を血走らせて引っ掻いている。解除されれば、瞬く間に街道を埋め尽くすだろう。
全ての冒険者の配置が終わると、街中に壇上の男の声が響く。
『彼らの準備が済んだ所で、最後のおさらいだッ! ルールは簡単ッ! 街になだれ込む魔物を狩って狩って狩りまくるだけッ! 祭りの様子は魔法で余す事なく監視しているから、自分達でいちいち狩った数を数える必要もないぞ!』
空中には、無数の水晶が宙に浮かんで街を映し出している。その映像は、観客席のある空間にでかでかと映し出されるのだ。即ち、自分達の姿が街中に丸見えという事でもある。
「ううう……!」
顔を真っ赤に染めた二人は、結界の先の獣達を睨む。
「この恥ずかしさ、全部あいつらにぶつけてやる……!」
『さあ、街の熱気も最高潮だッ! カウントダウンッ! 三……二……一——』
ゆっくりと神罰ちゃんを肩に担ぎ、臨戦態勢を取るセルマ。その横では、メナドが結界に向けて指を伸ばして構えている。
『——ゼロッ!』
その声と同時に、魔物達を抑えていた結界が音を立てて砕け散る。そして、地を揺るがす咆哮上げる無数の魔物が街へとなだれ込む。
銀級への昇級をかけた彼らの壮絶な祭が今、幕を開けた。
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