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十五話 マカナとムクスケ

褐色の女の子好き。民族的なボディペイントなんかあるともっと好き。


 ギルド内のベンチに座る、セルマとメナド。先ほどの集まりから解放された安心感からか、彼女達の口から思い切り大きなため息が飛び出した。

 

「ぷひゅう。あぁ怖かった……」

「……下手すりゃ、あんたよりも怪力かもね」

 

 すでに彼女は去っているというのに、未だに小声で会話を交わしている。よほど怖かったのだろう。

 

「しかし、狩猟祭ねぇ。私は見た事ないんだけど、どんなのか知ってる?」

「うん。子供の頃に、よく村から降りてきて見てたなあ。えっとねえ、街に魔物の好きな餌をばら撒いて、街中に魔物を呼び寄せるの」

 

 セルマから祭の概要を聞いていく内に、メナドの顔色がどんどん驚愕の色に染まっていく。

 

「え、それじゃあ何? わざわざ誘き寄せて、街中で魔物を狩る訳? 正気なの?」

「うん。建物とかは保険に入ってるから、いくら暴れても大丈夫だよ! メナドちゃんの魔法でも撃ち放題!」

「……あんた、ちょっとバカにしてるでしょ!」

 

 即座にセルマの膝の上にまたがり、両手で彼女の頰をつねり上げ、左右にこねくり回し始めた。

 

「ひん、いはい! いはいよぉ ごえんなはいぃ……」


 両目に涙を浮かべ、ぐりぐりと蹂躙されながら詫びるセルマを、これでもかとイジメるメナド。

 その様は先程の緊張など見る影もないし、誰がどう見てもいちゃついている様にしか見えない。

 

 そんな彼女達に、がっしゃがっしゃと大げさな金属音が近づいていく。

 それに気づきイチャつくのを止めた彼女達が見たモノは、セルマより一回り大きな全身鎧姿の何かと、その肩に座る褐色の少女だった。

 

 濡れた猫の様な独特の髪形。二人はすぐに、先ほど同じ部屋にいた狩猟祭に参加する面々であると気づいた。

 

「ハイ、またお会いしましたネ、オマエら?」

「ふえ?」

「あぁん?」


 頭上から投げかけられる、ちぐはぐな会話文。それに戸惑い硬直する二人に、続けざまに質問を投げかける。

 

「あっちこっちでっかい金髪に、ちっさい黒髪。オマエ達、もしかして噂の二人組ナイか?」

 

 ややぎこちないカタコトで話し、人懐っこい様子で二人を見つめる褐色肌の少女。その腰には鞭が携えられている。

 

「ちっさ——!」

「噂? 私達の?」

「ソウ。バカ力の女プリーストと、火力ぶっぱのソーサレス聞いたヨ。見た目も聞いた話とおんなじネ!」

 

 どうやら二人は、巷ではその様に噂されているようだ。褒め言葉かどうかなんとも言えない微妙な線に、二人の顔に困惑の色がにじむ。

 

「あと、キラキラしたの売ってる店のヤロウも何か言ってたナ? お似合いだとか、ユリだとか……オマエら、花屋でもやってるカ?」

「ぶーっ!」

 

 キラキラしたのを売っているヤロウ。二人には心当たりがあった。

 薄っすらと頬を染めて恥ずかしがるセルマとは対照的に、メナドの方は恥じらいつつも内心で店員に向けて激しい怒りを燃やしている。近日中にでも怒鳴り込みに行きそうだ。

  

 そんな事とは御構い無しに、少女はマイペースに自己紹介を始めた。

 

「ン? なんでモジモジしてるカ? ま、良いネ。ワタシ、魔物使いのマカナ言いまス。このデカいかんからは、ぺ……ペアのムクスケ言う。せっかく一緒の試験受ける事だし、挨拶参りと思った次第ダ」

 

 最初はその怪しい風貌に警戒していた彼女達だが、会話をしているうちに彼等と打ち解けた様だ。友好の証に、彼女達も自己紹介をし始める。

 

「マカナさんに、む、ムクスケ……さん? よ、よろしくお願いします。私はセルマです」

「メナドよ」

 

 挨拶を終え、改めてその鎧姿の大きさに目を奪われる二人。まるで絵本に出てくる巨人の様だ。

「しかしあんたでっかいわねえ……何食べたらそうなんのよ?」

「ホントだねぇ……あ、鎧の間に毛が挟まってますよ」

 

 腕のつなぎ目からちょいんと顔を出している、数本の赤毛。それを引っこ抜こうと手を伸ばしたセルマに、マカナが気づいた。

 

「あ、バカもん、やめ——」

「うぇ?」

 

 しかし、その頃にはもう彼女の指先には毛がつままれていた。鎧からはみ出ていた分より若干多い。

 

「これ、魔物の毛ですね。野生とは思えないくらいツヤツヤ……」

「フーッ、フーッ、フーッ……!」


 彼女からの質問に答える代わりに、鎧の奥からこもった荒い息遣いが聞こえてくる。

 まるで熱中症を起こした犬の様だ。聞いている方が心配になってくるほどに呼吸が荒い。

 

「ああ、ヤバいだな……ムクスケ、落ち着ケ!」

「ちょ、ちょっと。凄いはあはあ言ってるけど、大丈夫なの?」

 

 その余りの呼吸の荒さに、メナドでさえ心配そうに尋ねる始末だ。その問いに、肩の上の彼女は何故かしどろもどろになって答える。

 

「そ、そうカ? さ、最近暑いからナ。ハハハ……」

「ばふーっ、ばふーっ!」

 

 言っている間にも、鎧の向こうから聞こえる息はどんどん荒くなっていく。全速力で町内を走り回ってもこうはならないだろう。

 

「ちょ、ちょっとこれは普通じゃないです! 病気かもしれない、バイザー外しますよ!」

 

 親切心から手を伸ばしたセルマ。しかし、なぜか彼女達は、いや、彼女達はその手が届く前に後ずさり、そのまま踵を返す。

 

「し、心配ご無用! 試験の日にまた会うネ! さらば!」

 

 そう言い残すと、くるりと背を向けてがっしゃがっしゃと騒がしい金属音を撒き散らし、逃げる様に走り去って行ってしまった。

 

「……結局何だったの、あいつら?」

「さあ……この毛、どうしよう」

「……捨てときなさい」

いつも最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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