10 風の精霊王
「御召し物が毛だらけになっておりますわ」
獣人嫌いの侍女にしっかり湯あみさせられ、ほかほかになった子供はベランダで涼風にあたっている。
ほっぺたをぷう、と膨らませたまま。
その風がふわり、と渦巻き、人型を取った。
ちょっと軽薄そうな、子供にはなじみ深い金髪の若い男がふくれっ面をのぞき込む。
『どうした愛し子よ』
「風の王しゃま」
人外の者との対話に慣れている子供は、驚きもせず、とうぜんのように不満をぶつけた。
「あーゆたちと、とやんぽいんしちゃだめって、りっさがいうの」
ずっとやってみたかったのに、手を怪我するような運動はダメだって、そう、昔も誰かに、言われたのだった。
風の精霊王はふん、と胸を張る。
『なんだあんなもの、我でもできるぞ』
「ほんと!」
『彼奴らとは駄目でも、我となら文句は言わせぬ。
あんな布切れなどいらぬ。ほれ』
ぶわっと風が巻き起こり、子供を持ち上げる。
「きゃー♡♡♡」
小さな精霊たちが喜んで、子供の周りに集まってきた。
『楽しい』『楽しいね』と子供と一緒にけらけら笑う。
森の中に戻ったみたいに、楽しげだ。
王しゃまが一緒で、うれしいのね。
「みんなここではあんまりお話ししないのね」
『ここではわれらの声を聞ける人間が少ないからな』
ぽーんぽーんと子供を浮かばせながら、風の精霊王は楽し気に言う。
『人間たちは己の生活にとらわれて、意識はわれらから離れていくのだ。
そなたもこのように言い交せるのは今だけぞ。
その体の時が戻り切り、人の世界になじめば、我らが王のこの多大な庇護もおさまろう』
「そっかー・・・」
へにょり、と眉を下げた子に。
『だからほれ、今は遊ぼうぞ』
「うんっ!」
きゃー♡♡♡
遅れてやってきたお付きの女官が、浮かぶ子供に、金切り声を上げたのは、その少し後の事。




