4 『水』のクリス
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「♪そーどーらーふぁーみーどーれー♪」
緑の芝生を、裸足の子供がリズムに乗って走り回る。
不思議な光沢の白いワンピース、肩でそろえたやわらかな黒い髪は二つに分けて両側で白のリボンで結び、大型犬ほどもある黄色に黒い斑の砂漠猫と一緒に。
日陰で待つ、帽子と靴を手にした女官が、日に焼けてしまうとハラハラして見ているが、黒髪を温かく照らす日光を、子供は無心に楽しんでいるようだ。
「小鳥様」
庭に入って来たマリッサが微笑んで声をかける。
「りっさー!♪%$#(♪'&##'♪&%」
駆け寄った子供は、マリッサの後ろの人影に気付いてぴたりと足を止め、横に並ぶ猫に抱きついた。
「ご紹介しますわね。
第一騎士団所属の、クリストファー・ド・ラ・メイル、騎士になる前は、教会の聖歌隊に居ましたのよ。
とってもお歌が上手い方なの」
癖のない金髪を背に流した、整った容姿の青年が、子供の前に片ひざをつく。
「クリスとお呼びください」
子供はハンサムな顔ではなく、青年の肩のあたりに眼をやった。
「・・・『お水』の、くりしゅさん?」
「はい、『水』の加護持ちです」
私の『精霊』をご覧になれるのですね、と、クリスは嬉しそうに笑う。
「そしてこちらが」
マリッサは続けた。
「第二騎士団所属のエリサ・マルティナ」
燃える赤毛の、女性騎士。
「そして音楽院のサラ・コットン」
眼鏡をかけた、若い娘だ。
「エリサはヴィオラ、サラはハープが上手いのです。
皆でお茶を頂いたら、合奏してみましょうね。
今日の御茶菓子は、先代様がお好きだったというプリンにしてみましたの」
「ぷりん、しゅきー♡$#&♪♪♪」
行こう、と、子供は猫に向かって、手を伸ばす。
大きな猫はブルッと身を震わせ・・・
変化を解いて、短髪で痩身の女騎士に姿になり、子供を抱き上げる。
赤毛の女騎士エリサとの間に、ばちっ、と火花が飛んだ。
「三人?たった三人か?」
宰相ニルギーリは、姪のハートマン女史にこぼした。
「音楽は騎士の教養の一つですが、才能のある者は限られておりますから。
各部署から一人ずつ推薦するのがやっとでしたわ」
「それでは足りぬ。披露目までに獣人どもを遠ざけたいのだ。
教会から文句を言われる前にな。
それと、王女とハルトを近づけるな。
王女は奴を毛嫌いしているのではなかったのか」
「王女殿下が嫌悪を忘れるほど『いとし子』様に夢中になるとは、予想外でしたわ」
「披露目の後は、ハルトにはまた国境に飛んでもらう。
それまで、王女を引き離しておけ」
あの朴念仁の『渡り人』め、妾にとどんな美女を送り込んでも、なびこうとせなんだ。
まさか稚児趣味ではあるまいな。
あの二人は白い結婚のまま、養子を迎えさせなければ。
儂の甥たちの、一人をな。
宰相ニルギーリの頭の中では、この先の計画がすでに組み立てられている。
『精霊のいとし子』が存在するだけで、国は栄える。
ならば余計な知恵は付けず、離宮に囲っておくだけで、良いのに。
暇を持て余した王女が、余計なことを始めおって・・・
ふむ。『いとし子』の学友として、離宮に一人、送り込んでおくか。
王女の気に入るような、機転の利く奴を・・・




