3 音楽の才
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王宮内で、大量の人員入れ替えが行われた。
マリッサ王女付きと離宮付きの女官たちが、今までの身分による受け入れから、音楽の素養の有る無しに変わったものだから、高位の貴族たちは大慌てだ。美しく、教養のある、行儀作法に通じた者を、と育ててきた子女たちに、もう一つハードルが増えたのだから。
もともと音楽好きのマリッサ王女のもとには、音楽の才のあるものが重用されていたが、絶対音感のある者というと、さすがに数が限られる。
その上に精霊の『加護』のある者となると。猶更。
そして、茶会の演奏や、舞踏会の伴奏者を育成する場として、冷遇されて来た音楽院は、貴族の子弟たちの入学申し込みの山にうれしい悲鳴。
市井の音楽家にも、登城と採用のチャンスがあたえられ、『精霊のいとし子』様は音楽がお好き、と、王都はいっきに音楽ブームに沸き返る。
新たな雇用が生まれ、街が活気づくのは、良い事なのだが。
だがしかし、マリッサは頭をかかえている。
この世の音楽と、異世界の音楽の落差に。
「楽譜製作者はわかるが、なぜ言語学者まで?」
「『いとし子』さまは、こちらの言葉をしゃべられますが、歌われる時にはあちらの言葉に戻ってしまわれるのです。そして、こちらの世界にはない音楽のための言葉が、たくさんあるようなのです。
先代様は多くの「にほんご」を残され、辞書となって記録されていますけれど、音楽関係の言葉は少ないので。
夫のハルトにも手伝ってもらって、「にほんご」がわかる者を増やしたほうが良い、と」
あの人は音楽の才は全くないのですけれどね、と、マリッサは珍しく微笑んだ。
そして異界の音階で奏でられる音楽。
「まだ数曲しか書き留められませんけれど、とても不思議で、綺麗な旋律ばかり。
音楽院とは別に、この音階だけを奏でられる者を養育したほうが、上達が早いと思います」
音程が変わってしまわぬように、しっかり伝えていかないと。
新たな音楽院の建立も考えた方がいいかしら。
これは、一大プロジェクトになる、と、お人形のように物静かだった王女は、人が変わったように、期待に目を輝かせるのだった。
「あんなにハルト殿下を苦手にされて、避けていらっしゃいましたのに、よろしいのですか?」
「お手伝いをお願いするなど・・・」
「えっ?い、いえ、いいのですよ。
『いとし子』さまのためですもの。
『渡り人』のあの方に協力していただくのは、何もおかしくはありませんわ」
「なんだかお顔が赤くていらっしゃる・・・」
「そっ、そんなこと、ございませんわっ!」




