13 異世界の旋律
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「小鳥さま」
「あーい」
あれからひと月。
子供はすっかりマリッサに懐いた。
誰が呼び始めたか、「小鳥さま」「小鳥の姫君」という呼び名にも慣れ。
「日本の女の子の名としても、まあおかしくはなかろう」
と言うハルトの言葉に、正式にコトリと呼ばれるようになった。
呼び出された第七騎士団の三人に、ハートマン女史以下、宮廷人は嫌な顔をしたが。
狼に変化したアールに、「あーゆー」と顔を輝かせて駆け寄る子供に、文句も言えず。
ほっそりとした女騎士ジェンナと巨漢のグリンロードが、大型犬ほどもある斑の砂漠猫と大きな熊に変化すると、子供は目を丸くして、手を叩いて喜んだ。
「もふもふ、いっぱいー!」
こら。だからいきなり熊に抱きつくのは、危機感が無さすぎるぞ。
「渡り人」には珍しく、子供は音楽の知識以外、元の世界の記憶をほとんど持っていなかった。
「渡り人」とは、精霊王の手によって、死の直前に異世界から救い上げられた、異邦人。
異世界では繋ぎ留められなかった命を、こちらの世界で掬い取ってもらった彼らは、自らの死の直前の記憶を、おぼろげながらも抱いている。
それがまったく、無い、と言うのは。
「よほど酷い目にあったのだろう」
自らの記憶があるハルトは、痛まし気に思う。
だが、音楽の才は、大したものだ。
あちらの音楽は凄く理論的で判りやすいと、マリッサは感激する。
歌唱と竪琴の名手であるマリッサが、両世界の音楽を奏でられるようになると、子供はこちらの音楽も受け入れ、落ち着くようになった。
小さな手でも操れる、小型のカルファーンを贈られた子供は、異国の不思議な旋律を奏でる。
聞き取ったマリッサが連弾する。
『加護』持ちのハルトとグレイには、二人の周囲にたくさんの精霊たちが集まって、楽しそうにきらきらと踊り回っているのが、感じられるのだった。
第一部 完




