11 異世界の音曲
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「地球の音楽ということか?」
『渡り人』だった男は答えた。
「音楽の違いなど、俺にわかるはずが無かろう」
と、妙な所で胸を張って言う。
自慢する所か、そこは。
「たとえば、どんな」
「俺に聞くな」
「一曲だけでも」
「俺は歌わん」
そうか。
こいつ、ひどい音痴だったっけ。
「お前の歌で魔物が昏倒したという話は事実だったか」
「くそっ!俺のトラウマを抉るな!」
ハルトに近づいたマリッサが、見上げる。
「お願いします、あなた」
「・・・あ・・・う・・・」
「『いとし子』様のために・・・」
「・・・お・・・俺は・・・な・・・」
ハルトの太い首筋から血が上って来て。
「このままでは、わたくし・・・」
マリッサが悲し気にうつむくと、とうとう生え際まで、真っ赤になった。
角刈り金髪の真っ赤になった大男と、憂い顔の姫君とは、なかなか面白い取り合わせではある。
やがて、咳ばらいを一つして、ハルトはため息交じりに言った。
「・・・あー・・・一曲しか歌えんぞ。
妹が小さいころ英語塾に通っていてな」
発表会の練習に、付き合わされたのだ、と。
「むう」
と、覚悟を決めて、肩幅に足を開いて立ち、両手を後ろに。
大きく息を吸って、口を開き。
「♪つぃんかーーーー、つぃんかーーーー、りるるずだーーーー♪・・・・・・」
響き渡る割れ鐘のような凄まじいボリュームと外れ切った音程に、グレイの狼の耳がぺったりと伏せられ、マリッサがたじたじと数歩下がった。




