10 『いとし子』と音楽
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「王女マリッサの名において、命じます。
第七騎士団の先の三名を、ただちに招集するように」
マリッサの言葉を受けた女官が、小走りに退出していく。
「王女殿下!」
ハートマン女史の非難の声にもめげず、マリッサは『いとし子』を見つめる。
巨大な灰色狼にしっかりと抱きつき、涙目でこちらを睨んでいる、黒髪の幼子。
「『精霊のいとし子』さまの養育については、このマリッサがすべての権限を頂いております」
マリッサはきっぱりと言った。
「これ以上『いとし子』様を怯えさせるわけにはまいりません。
なによりも優先すべきなのは、この子の幸せ」
こちらに害意が無い事を、何とかわかっていただきたいのに。
壊れた楽器を取り上げ、切れた弦に触れながら、ため息をつく。
「動物がお好きかと用意したぬいぐるみが、死骸に見えていただなんて。
この様子では、音楽も、お気に召さなかったのですね。
いったい何を、お喜びになるのでしょう」
「いや、それは違うぞ」
グレイは思い出す。
あの、「歌う森」を。
「この子は、音楽が好きなはずだ」
あの時も『精霊王』は何と言っていた?
『この楽曲を失うを惜しんで』と。
『精霊王の庭』に満ち溢れていた、生命が躍動するような旋律。
響き渡る、異質でありながら快い、あの音の流れ。
いつまでも、身を浸していたくなるような。
「おい、ハルト」
グレイは『渡り人』であった旧友を振り返る。
「お前の古巣の音楽は、こちらとはどう違うのだ?」
「地球の音楽、という事か?」
金髪の大男は答えた。




