8 原因
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『お家に帰るー』
「そんな。
誠心誠意お世話いたしましたのに。
何がいけなかったのでしょう」
マリッサは涙ぐんだ。
「先代の『いとし子』様の記録を暗記するほど読んだのですわ。
国政にかかわることなく、花と読書がお好きで、外出もなさらず、女官たちと静かにお暮しだったと。
それに沿って、できうる限り快適なお住まいを整えたはずですのに・・・」
「獣人がかかわった事実を抹消するために、俺の報告書が消されてしまったからな」
グレイが答えた。
「しっかり書いておいたんだが。
この子は、人として扱うなと」
「え?」
「なんと!『いとし子』さまにむかって!」
マリッサと女史が驚く。
「野の小鳥と思って扱えと書いておいたんだ。
この世界に渡って来てから、今まで人間と接した事がない子だ。
狼化した俺やアールは見分けるが、人化した時は怖がっていた。
狼の顔は見分けられるのに、人の顔は区別がつかないようだ」
個人の判別が出来ず、人間というひとくくりにしてしまう、と。
「女官たちは服を替え、香水をつけるよな?
色も匂いも違ったら、別な人間と思ってしまうよ」
だから、混乱したんだろう。
それに、とグレイは美しい部屋を見渡す。
「床の敷物も、その高価なぬいぐるみも、元は本物の毛皮だろう?
あんたたちにとってはただの毛皮だが、この子にとっては誰かの死骸だ」
えっ、とマリッサはあたりを見回す。
「死体を弄ぶ見知らぬ人間たちを、怖がるのはあたりまえだろう」
『いとし子』が恐怖をおぼえれば、守護する精霊たちが怒る。
怒った精霊が力をふるい、誰かが傷つく。
誰かが傷ついたことで、子供はますます怖がる。
その悪循環がおきているのだ。




