2 『いとし子』捜索
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この世界には、時々異世界の人間が落ちてくる。
かく言う俺の知り合いにもいる。
異世界の人間は我々の知らぬ様々な知識と能力を持ち、この世界に活力をもたらし、活躍してくれる。
しかし不思議なことに、彼らは精霊を知らぬのだ。
彼らの世界には精霊がおらぬというのだ。
彼らの世界は、精霊たちの力を使わずに回っているのだと。
なんとも、不思議な事だ。
精霊はこの世に満ち溢れ、人と交わらずとも生きる場を重ねて、はるか昔から共存している。
地、水、火、風、光と闇の、六大精霊とその数知れぬ眷属たち。
そしてすべてを統べる、彼らの王。
彼らの力で世界は回る。
人とは異なる力、異なる思考をもち、自由で気まぐれな彼らは、たまに気に入った人間に加護を与える。
加護を受けた人間は、相手の精霊の能力に応じた助けを得ることが出来る。
生まれ落ちた時から持っていたり、成人してから契約してもらったり、加護持ちの人間はけっこういるのだ。
異世界から来る者は、皆、いずれかの加護を必ず持っている。
それは異界渡りが『精霊王』によって行われる御業だから。
『精霊王』の眼鏡にかなった人間だけが、この世界に掬い取られて来るからだ。
そして、稀に、ごく稀に、六大精霊すべての加護を受けた異世界人が、現れる。
『精霊のいとし子』と呼ばれる特別な守護を受けた人間。
彼らを擁し、慈しむ国は、精霊に愛され、富み栄える。
なので各国はこぞってこの『いとし子』を探し出し、自国に保護しようとしてきた。
先々代の『いとし子』は清らかな少女で、宗教国ノアルダームの最高位の巫女としてあがめられ。
先代の『いとし子』は、おちついた成人女性で、わがランドヴェールの王宮で長く平和な一生を終えた。
しかし当代の『いとし子』は、顕現したと啓示はあれど、どこの国にも見当たらず。
特別に富み始めたという国もなく、既に二年の時が経ち、捜索の眼は国外の様々な場所に向けられた。
辺境の荒れ地、凍てついた山岳地帯、海洋に点在する島々、異形の徘徊する魔の谷。
そしてどの国にも属さず、強力な結界に守られた、『精霊王の庭』と呼ばれるこの森の地にも。
ここは、精霊王の祝福を受けた、精霊たちの故郷。
精霊の加護を持ち、王に許された人間でなければ、この結界は抜けられない。
なのでかつてこの地を訪れた事がある、『風』の加護持ちのこの俺が、この地の探索を依頼されたのだ。