5 離宮にて2
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離宮の中は子供の好みそうな淡い色がふんだんに使われ、床にはふかふかの白い毛皮が敷かれ、ピンクのカーテンが涼し気に風に揺らぐ。
そのカーテンが、真ん中から切り裂かれている。
立派な象嵌を施した竪琴が、弦が切れたまま放り出してある。
高価そうな大きなぬいぐるみが、手足がばらばらになって転がっている。
「なんだ。これは・・・」
ぴりぴりした空気に、グレイは立ちすくんだ。
「何をやってもお気に召さないご様子なので、困り果てておりますの」
マリッサ王女がため息をつく。
「これほど癇癪持ちでわがままなお子様は初めてでございます」
と、ハートマン女史。
「加護持ちのやさしい女官たちを付けたのですが、誰にも懐いてくださいません。
綺麗な服や、玩具の類にも興味を示さず、音曲をお聞かせしようとすると、楽器が壊れて。
歌っていた女官の喉に軽い切り傷が出来てから、もう、みな怖がってしまって」
花を飾ると、花瓶が壊れる。可愛いい子猫や仔犬を連れて来ても、おびえて逃げて行ってしまう。
最近は囀る事もなく、人目があると、食事もとらぬと。
「『いとし子』さまがご不幸では、国にも凶事がおきましょう。なんとかご機嫌を、直していただきたいのですが」
で、その、『いとし子』はというと。
部屋の一番隅っこで、白いシーツをかぶって、足を投げ出して座っている。
シーツの下からこっちを見ているようだが、顔は見えないし、グレイを認めた様子もない。
「やぁ、お嬢ちゃん。俺を憶えているか?」
声をかけても、反応も無し。
一歩近づくと、室内なのに、ざっ!と風が吹き抜けた。
彼らを拒むように、真正面から鋭く吹きつける。
「ほら。やっぱりお怒りなのですよ」
「何がお気に召さないのでしょう」
「いや、待て」
ハルトは、マリッサの肩を叩いて・・・いや、すまん、とあわてて手を引っ込める。
「怒っているのは、この子じゃなく、加護している精霊のほうだ」
「ああ。『風』は気が短いからな」グレイが続けた。




