4 離宮にて1
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あでやかな花々を取りそろえ、幾何学的な綺麗な文様を描く見事な庭。
その中心に建てられた、大理石の瀟洒な離宮。
白とピンクの大理石を主に、柔らかな色合いの石を嵌め込んだ優美な建物は、女性らしく愛らしい。
いかにもマリッサ王女が好みそうだな。と、グレイは前を歩くハルトの妻を見る。
七年前と比べると、だいぶ自我を出せるようになったようだ。
ランドヴェール国王の一人娘マリッサ王女が、悠斗・トーマス・ダージリンに嫁いだのは、十四歳の時。
先代の『いとし子』が寿命を全うして逝去されてから五十余年。
次第に魔の力が強まり、魔獣が増加しはじめ、隣国サンダモントとの国境争い等で荒れようとする国を建て直してくれた、『救国の英雄』ハルトを国に繋ぎとめるための、政略結婚であった。
異世界からの『渡り人』で、宮中作法にも疎い武骨者、十二も年上の大男に嫁がされた深窓の姫君は、まるでお人形のよう。すべてにつけて養育係のハートマン女史の言うなりだった。
そして女史の獣人嫌いにすっかり染まっていたのだった。
ハルトとパーティーを組んでいたグレイは共に叙勲され、獣人のみで構成された第七騎士団長の地位に就いたが、堅苦しい貴族社会と獣人に対する偏見に嫌気がさし、ある事件をきっかけに身分を返上し、一介の冒険者に戻って城を去ったのだった。
「王位継承者ハルト殿が単身『精霊王の庭』に赴き、『精霊のいとし子』を連れ帰った、という告知が、国王陛下の御名で各国に送られておりますわ」
「俺の承認も無しにか」
ハルトは低く唸った。
「国王陛下のご決定でございますよ」
ハートマン女史が胸を張る。
「あなたはサンダモントとの国境に遠征中でしたわ」
ちょっと恨みがましく、マリッサが言った。
「すまなかった、グレイ」
お前の功績を、奪い取る形になった、と、ハルトは頭を下げる。
「気にするな」
この国のやりそうなことだ、と、グレイは肩をすくめる。
入り婿はたいへんだなぁ、と同情しながら。
七年たってもこの国の陰謀術策に染まらぬ旧友が、好もしくもあり、心配でもあった。
おまえ、次期国王なんだぞ。
書類仕事とか、きちんとやってるか?
「とにかく、『いとし子』様のご機嫌がよろしくないのは、事実。
お会いになって。何かご意見があれば、伺いましょう」
マリッサがグレイの顔を見ることなく、言った。
おや?
俺の意見を聞くと?
そこまで譲歩するとは、よっぽど困っているのか?
いったい、あの子に何があった?




