3 王女マリッサ
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精緻な刺繍のローブを纏い、豪華な宝飾品を身に着けた中年の婦人は、ハートマン女史。
「女史」という肩書しか名乗らぬが、宰相ニルギーリの姪であり、国王の一粒種マリッサ王女の養育係であった彼女は宮廷女性の中では王妃に次ぐ高い権力を持っている。
一度は嫁いだが、嫁ぎ先とうまくいかず、婚姻を解消して実家に戻った彼女は、以来、叔父の宰相を後ろ盾に、王宮の女官たちの監督者の役割を担っている。
そして、王国内での獣人排斥の動きの、首謀者でもあるのだった。
「グレイは今回の『いとし子』発見の、第一の功労者だぞ。
会わせぬというのはどういうことか」
「はて、何のことでございましょう。
『いとし子』を発見なさったのは、ハルト殿ではございませんか。
卑しい獣人がかかわっているなどと、おっしゃられては困ります」
ははあ、そう言う事か。
俺の報告書は、どこかで握りつぶされたな。
他人事のように考えるグレイの横で、ハルトは真っ赤になって怒鳴った。
「宰相ニルギーリをここに呼べ!」
「この奥宮で、騒がないでいただきたいわ」
ハートマン女史に続いて出てきた、マリッサ王女が静かに言った。
ハルトの横に並ぶグレイを見て、眉をひそめるが、ハルトに向けて優雅に一礼する。
「お久しぶりでございます、あなた」
一瞬怯んだ金髪の大男は、咳払いして。
「ああ、久しいな、マリッサ」
と、妻にあいさつを返す。
「離宮への殿方の訪れは、お断りしてあるはずですが」
「『いとし子』の扱いに苦労していると聞いたのでな。
あの子が懐いていたグレイを連れてきたのだ」
しかし王女は、訝し気に問うた。
「その・・・グレイさん・・・は、『いとし子』様と面識が?」
「面識も何も、『精霊王』から直々にあの子を託されたのは、グレイだぞ」
「その様な事は、何も聞かされておりません」
王女の戸惑いは、本当のようだ。
「では、私が提出した、あの子への接し方も、普通の子ではないから扱いにはくれぐれも注意して欲しいとの要請書も、読んではおられないと?」
グレイが問うと、王女はぴん、と背筋を伸ばす。
「『いとし子』様には、最大級の敬意を持って、あたうる限りの最高のお世話をさせていただいております」
「それはあの子の望みか?宮廷の面子だろう」
「獣人の分際で、無礼が過ぎましょうぞ!」
道を塞ごうとするハートマン女史を押しのけるようにして、ハルトが踏み出した。
「もう、いい!
とにかく様子を見させてもらうぞ!」




