第二章 1 王都ヴェラリア
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千年も続く長い伝統を誇る、ランドヴェールの王都、ヴェラリア。
長い平和を享受した都は、由緒ある大建築物が立ち並び、古都の威容を見せつける。
住まう貴族たちは伝統と格式を重んじ、大変誇り高い。
だが、それは変化を歓迎せず、貴族たちの生活は、複雑な礼儀作法と禁止事項でがちがちに固まっている、という事でもあった。
王位継承者ハルトからの呼び出しであっても、騎士団の制服を返上したグレイは一介の冒険者にすぎない。
王宮へ入る前に、横柄な衛兵の誰何、身柄の確認、面倒な手続きが続く。
そして王宮の奥深く、王族の私室へと案内されるグレイに向けられる、貴族たちの嫉妬、羨望、蔑みの眼。
彼らは、ささやき合う。
「ああ。あの獣人か」「騎士団から追放された」「いまさら何の用だ」と。
しかし、私室で待っていたハルトは、「殿下」と礼を取るグレイにずかずかと近づくと、がしっと腕を掴んで、廷臣たちを置き去りにして、どんどん奥へ入っていく。
「待ちかねたぞ。困っていたんだ」
「『いとし子』に何か?」
「ああ。いや、よくわからん。
マリッサに任せてひと月にもなるが、まったく懐こうとせんのだ。
いまだに会話も成り立たない」
「けっこう片言でしゃべっていた気がするが」
「今は囀るだけだそうだ」
「そうだ、とは、お前確かめていないのか?」
「いや、奥に・・・マリッサに、男性は邪魔だと言われてな。
それでつい・・・任せきりに・・・」
「男性は邪魔?
第七部隊をつけろと言ったろう?アールはどうしたんた」
「第七部隊は、王宮で敬遠されていてな・・・
アールは隊に戻された。
その・・・犬は不潔だと・・・」
犬だとぉ・・・
まてよ、そんなことを言う奴は・・・
グレイは足を止め、ハルトを睨んだ。
「マリッサ殿が世話をしていると?
実際の責任者は誰だ」
「ハートマン女史だ」
人型でいるにもかかわらず、グレイは狼の毛が逆立ったような気がした。
「あんの、婆ァ・・・」つい、声が漏れる。
「お前とは不仲だったな。だが、マリッサの養育係だったから、子供の扱いは慣れていると・・・」
不仲なんてもんじゃない、あれがいるから王宮には近づきたくなかったのに・・・
「もう、嫌な予感しかないな・・・」
グレイは大きく溜息をついた。




