11 人の世界へ
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「人の言葉がしゃべれんのか?」
「片言は出来るようだが」
答えたグレイは幼児に近づき、自分の胸を指さす。
「これは、だれだ?」
「ぐぇい」と、幼児はにっこり。
ハルトを指さし、
「これは、ハルト」
「あるとー?」
幼児を指さす。
「きみは、だれだ?」
答えは小鳥の囀り。
ハルトは頭をかかえた。
「これでは名も呼べんじゃないか。
だれだこんな育て方をしたのは」
いや、精霊だ。わかってはいるが。
「この地に長く引き止めすぎたと、『精霊王』が言っていたのはこういうことだな」
そして、時を少し巻き戻した。と。
そう、確かに、こんな形で精霊界で成長したら、会話することも困難になり、人と交わることが難しくなってしまうだろう。
頭が柔軟で物おじしない幼児だからこそ、人界に戻すことが可能なのだ。
「では、依頼ははたした。
普通の子ではない。気を付けてくれ。
不幸にしてくれるなと、王直々に頼まれてしまったからな」
「『精霊のいとし子』は国の宝だ。心配はいらぬよ。
王宮で妃や女官たちが待ちかねているぞ。
彼女たちが大切に慈しんでくれる」
女たちに任せれば、この子も人間らしく、淑女らしく、育ててくれるだろう、とハルトは言う。
「あ。それから、この子、馬車に乗れないから」とグレイ。
「なに?」
「まだ、人に慣れていないんだ。
狭い処に人間と閉じ込められるのは、怖いらしい」
俺とアールも、狼の姿でいる方が懐かれてるし、というグレイに、ハルトはもう一度頭をかかえる。
大事な『いとし子』を、王都まで干し草の荷馬車に乗せていくわけにはいかんし。
どうすりゃいいんだ。




