10 ハルトとグレイ
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「ノアルダームの神聖騎士団とかちあったぞ」
人型に戻ってワインを受け取ったグレイは、人払いした司令官室でハルトに説明する。
「やはり『精霊王の庭』に『いとし子』を探しに来たらしい。
で、俺たちが先に手に入れた、とばれた」
「向こうは加護持ちが多いから、わかってしまうのだろうな」
「さすがに襲撃はなかったが、なにかと付きまとわれてな」
「教会の総本山だからな。それは自国に欲しいだろう」
『精霊王の庭』あの森の地は、人里から離れた、どこの領土でもない、中立地帯。
奪い取って知らぬ顔をすれば、何とでも通る。
「だから空の馬車を好きなだけ検めさせてやったよ」
俺たちは知らぬ顔で先行し、砦近くで、ついさっき落ち合った所だ、と。
「だから向こうは『いとし子』の姿も形も知らぬ」
ハルトは後ろの長椅子を振り返る。
「本当に、これが」
「間違いない」
長椅子の上でよく眠っていた子供は、二人の視線のせいか、眼を開き、んーと伸びをして。
知らない部屋と、知らない人に、きょとんとしている。
ハルトはあまり近づかずに片膝をつき、子供と目線を同じにする。
柔らかでまっすぐな黒髪と、黒い眼の可愛い女の子。
素足にリボンとフリルのついた生成りのワンピースという姿だが、その生地は絹のような不思議な光沢を持って、光の加減で薄いピンクにもブルーにも見えたりする。
まいったな。
昔、幼稚園生に怖いって泣かれたんだよな、俺。
自分の容貌が子供向けでないとよくわかっている角刈り金髪の大男は、苦笑いして言った。
「お嬢ちゃん、俺は悠斗・トーマス・ダージリン。
親父がイギリス人でこんな色の頭だが、日本生まれ、日本育ちの日本人だよ。
お嬢ちゃんも日本人かい?
日本からこの世界に落ちてきたのかい?」
子供はこてん、と首を傾げる。
どうやら怖がっては、いないようだが。
「ふう、小さすぎてわからないかな?」
子供は答えて口を開いた。
だがその唇から溢れてきたのは、美しい小鳥の囀りだった。




