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精霊王の庭   作者: 葉月秋子


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精霊王の庭 第一部 第一章 1 精霊王の庭


 森の入り口で男は馬を降り、仲間に手綱を渡す。

 背の高い、筋肉質の身体。切るのが面倒で伸びすぎている灰色の髪。

 手入れは良いがだいぶくたびれた革の服は、仲間のきっちりと着こなした騎士の制服とマントとは対照的だ。


「入った所から出て来られるとは限らない。三日待って合図がなければ、砦へ戻れ」

「はい、団長」

「その称号は使うな」

「はい、だ・・・ぐぐぐ・・・」


 使うなと言うのに。あいかわらずの脳筋め。

 久しぶりに会ったので、舞い上がって居やがる。



 男は森の始まる最初の樹々の前に立ち、大気にそっとささやきを乗せた。


「『精霊王の庭』に立ち入る許しを乞う」


 ふわり、と風が背中を押す。

 男を加護する『風』が承認したのだ。

 男は一歩踏み出し、禁断の森の中へと入っていった。



 空気が、変わる。


 年老いた樹々の、豊かな土の、煌めく大気の、違い。

 ここは精霊王の結界に守られた、祝福の地。

 あたりに満ちる、魔力。

 

 男は深く息を吸い込み、大地に手を触れた。

 

 その姿が一瞬にして、巨大な狼に変化(へんげ)する。

 黒味が勝った灰色の毛並み。炯炯と光る金の眼。大地を踏みしめる長く力強い四肢。

 狼の聴力で油断なくあたりを警戒しながら、広い鼻面を上げて、新たに息を吸う。

 人の身では叶わなかった、様々な情報が流れ込んでくる。


『風』がささやく。

『こちらだよ』と。


 指示に従って、足音ひとつ立てることなく、軽快な足取りで狼は森の奥へと進んでいった。


 


 


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