3話 吸血鬼ミヒ
〇路地裏
包帯を剥がし、右目の眼窩からねずみを取り出す。
謎の少年「(落ち込み)ここは、とりあえず保留…」
手持ちのバッグから地図をだし、マーキングする。
〇一階・歯医者(夜中2時)
リキッドは物音で目が覚める。一階にある診察台ベッドを使っていた。
2階は彼の居住スペースになっている。
2階から降りてくる物音がする…。
ドアを開く音がする。
あとをつける事にする。
〇どぶ川近く
砂が盛られてあり、お墓のようであった。
座り込み、両手を合わせているベロムの表情は寂しげにみえた。
リキッド「(後ろから)死者をいたわるって面かな…おじさん」
ベロム「(嫌な顔)なんだ、つけてたのか…。四六時中監視されてるみたいで嫌になるぜ。感傷に浸るヒマもくれないとわな」
リキッド「(申し訳なさそうに)無粋な勘繰りだったと思う。その墓には誰が眠っているの?」
ベロム「(首から下げているロケットをみて)娘だよ…。生きていたらお前ぐらいの歳だったかな。化け物に襲われてな…それが原因で妻とも別れて…」
リキッド「(申し訳なさそうに)化け物ってどんなんだったの?」
ベロム「(悲し気に)屍憑きというらしい」
リキッドの目は鋭くなった。眉間にシワをよせている。
リキッド「(険しい顔)詳し…」
言葉を言い終える前に、甲高い声が鳴り響く
ミヒ「(闇夜で声だけが響く)アハハハハ」
何かが近くの壁にぶつかるような、鈍い音がした。
ベロムとリキッドは、現場に駆けつけ遠くから見守る。
人影の方をみた。
黒を基調とした服装をしており、闇夜に馴染んでいる。
ショートパンツにタイツを履き、腰にはウエストポーチ。
胸を少し開いた服は少し色っぽい。
昼間見た絵の人相だった。
絵とは違って、とても陽気に見える。
塀にもたれかかるように、昼間の少年が立っていた。額から血が出ている。
包帯が取れて眼窩が気持ち悪く覗かせていた。
謎の少年「(苦しげに呼吸をみだして)土想観 砂時雨」
雨粒のように小さな塊が、女の全方位を取り囲む。
やがて針のように尖った形を形成していく。
女は少年に睨みを利かせた。
全て元の砂に変えてしまう
リキッド「(冷静に)私たちが使う観法は浄土の様子を想い発動させる。怯える心が…一瞬の空白を与える。闘いに慣れていない人間には恫喝や威圧が効いてしまう…だけど…少年はそんなことタマじゃない…」
砂煙が女の視界を奪った。
カバンの中から取り出した小瓶をとりだす
謎の少年「(右手を横に伸ばし)土想観 ドブ鼠」
毒々しい色をした砂が、少年の拳にまとわりつく。
謎の少年「(額に汗、険しい顔)麻痺毒だから安心して…殺しはしない」
ベロム「(関心して)わざと解除して、視界を奪ったのか」
リキッド「(意味ありげに)殺さないじゃなく…殺せない…って感じ」
拳をぶつけようという瞬間に、目にも止まらぬ速さで、少年の右腕が切断される。
己の爪だけで…。身体能力が違いすぎる。
少年の叫び声に、リキッドはとび出し少年の前にたつ
リキッド「(鞘に手を伸ばして居合い切りの態勢)氷想観…氷刀阿修羅」
女は、下に落ちていた瓦礫を投げつけた
リキッドは一刀両断にした。
べロム「(理解できない表情で)氷の刀がなんでそんなに硬いんだよ。」
リキッド「(知的アピールするように)14%のおがくずと86%の水を混ぜて凍らせると弾丸も防ぐ強度になる。そのパイクリート技術を応用している。」
リキッド「(誇らしげに)自己ベストはHRC300…鋼やサファイヤすらも超える」
女は屋根に飛び乗った。
ミヒ「(まったく動じていない)私は、血抜きの吸血鬼ミヒャエラ・フィリッチェ。私は何者にも縛られない」
ウエストポーチの中には、悪い顔をした鼠が顔を覗かせていた。
ミヒャエラは闇夜に消えていった。
リキッド「(不安げに)…吸血鬼…屍憑き…最近は変わった話ばかりだな…」
謎の少年「(床を這いつくばり)…仲間に連絡…しない…と…はぁはぁ」
ベロム「(叱るように)そんなことより怪我をなんとかしないとだろ…」
リキッド「(悟っているかのように)少年の気持ちもわかる…土鼠の弱点は水…。雨が降れば目標をロストする可能性がある」
謎の少年「(痛そうに顔をゆがめ)…鋭いなぁ」
リキッド「(注射針を刺しながら)仲間に合わせてあげたいけど、今は眠っててもらえる?」
リキッド「(少年の体を抱き寄せる)今は、傷の処置が最優先…傷口が鋭いからくっつくかも…最悪、応急処置をしないと…死ぬ…」
ベロム「(またこれかという呆れた表情)義理はないぜ?」
リキッド「(バッグをあさって)義理はないけど、金はありそう…」
ベロム「(険しい表情で)すぐに処置しなければ…本当は専門に任したいが…信頼出来そうな医師がこの街にいねー。下手すりゃ臓器売買の的にされる。今やれそうなのは俺しかいない」