1話 ゴミの街へようこそ
A.タイトル
100回死んだ猫さんは苦労が絶えない
B.あらすじ
巨大スラム建築群
どこの国の法律も適用されなかった為、文字通りの無法地帯として売春や麻薬、博打などあらゆる裏稼業が蔓延した。
大国に挟まれ、どちらの統治下にない空白の期間がこの街を変えてしまった。
非合法に建てられた建築物集合のため、建築によって階ごとの高さはバラバラ、建物が寄り添い合うことでバランスを保っているようなまるでジェンガのような不安定な状況。
安全な水も飲めない。
この街には毎日訳ありの人間が流れてくる。
出会いと別れ。
訳ありの人間が絡まりあい歯車が狂いだす。
C.台本
〇夜の学校(夜は賭博場になる)
ベロム「(怒鳴り声で)おい戻れよ!自分から土俵をでていくんじゃねー!」
ビエロ・ベロムは闘蟋という賭け事で負けてしまい嘆き悲しんでいる。
彼のコオロギは自らとびだしてしまった。
賭博師A「(笑みがこぼれる)ぷっくすくす、こいつはありがてぇなぁ。戦わずに勝つなんてな」
ベロム「(怒りながら)ふざけんじゃねー!仕切り直しだ!」
相手の胸ぐらをつかんだ
賭博師A「(ヘラヘラした顔)ルールは、ルールだよ。暴力振るうつもりか?この野郎」
ベロムは周りのお客に身体を抑えられた
胴元「(眉間に皺をよせる)お客様困りますね…」
関節を鳴らしながらベロムに向かっていく。
べロムはヤバいという表情、拘束されて動けない
べロム「(苦悶の表情)ぐっ」
ベロムの顔面に拳があたり、反動で壁にぶつかる。
そのまま、壁にもたれるように崩れ落ちる。
鼻からは血がでていた。
胴元「(真顔で)約束事は受けていれていただきものですね」
去り際の胴元は口がにやけている。
ベロム「(うつむきながら壊れたように)………ハハ…アッハハハ…そか…そうだな…受け入れるしかねぇな…死ぬしかねぇか…いや…死にたくはねぇな。貸してくれるやつなんかいねーし、医療の道具や薬うっぱらって稼業をたたむかね…」
膝を抱えながら、ベロムはぶつぶつ独り言を言っていた。
賭博師B「(焦りながら)誰か来てくれ、校門の前でこいつが倒れたんだ」
何かが運び込まれ場は騒然としていた。
胴元「(冷静に)こいつはひでーなぁ…刺し傷か?」
賭博師C「(嫌そうな顔)見るからに文無しって感じだな。金があったらこんなに膿むまで放置しねーわな」
話が気になる様子で、ベロム遠くからみていた。
ベロム「(目をそらしながら他人事のように)…破傷風か。おまけに高熱でうなされているみたいだな。こんな夜遅くに医者を見つけるのもしんどいだろうな…ま…金ないやつをみるやつもいねぇか…」
ベロムはそうつぶやいた。
聞き耳をたてていた奴がいた
リキッド「(耳元で)あなた医者なの?」
声をかけられ、振り返った。
そこには、少女がいた。16歳ぐらいだろうか。
ベロムよりもふた回り若いといった感じだ。
わざとつけたかのような土まみれの汚れたコート。
コートで隠しちゃいるが…身なりは整っており場違いと言った人間。
刀の入っていない鞘を腰からぶら下げている。
ベロム「(すっとぼけて)医者は医者でも…歯医者だよ。専門外さ。どうして、俺に治せようか…あぁ治せないね」
リキッド「(呆れたように)私は一言も治せるかどうか聞いてないんだけど…知識はありそうね。難しいの?」
ベロム「(下手くそに)いや……えっと。難しいんだ。いろいろとな…。知識ない奴は黙ってろ」
リキッド「(溜息をつく)嘘が下手すぎ…金がないから…でしょ。金ない奴は殴られても仕方ない。死んでも仕方ないってことでしょ」
ベロム「(片手で頭を抱える)あぁ…見てたのか…」
リキッド「(目線をそらす)珍しい光景だからね…」
ベロム「(不思議なものをみるように)おまえ、ここらの人間じゃないだろ…。どこかの国から逃げて来たのか?大方犯罪絡みのことだろうな…。売られたとかな。何にしても歓迎だ…特に若い女はな。ゴロツキしかいないからな」
べロム「(顎に手をあてて、のぞき込むように腰に目線をあてる)刀の入っていない鞘…風変わりな奴だ」
リキッド「(首をかしげながら)金があったら治してくれるの?」
ベロム「(自慢げに)いけるわな…麻薬が簡単に手に入るってのは一つの利点だ…局所麻酔用にコカインもあるしモルヒネだってある。抗破傷風ヒト免疫グロブリンって薬も偶然持ってるしな…医者の家系でね」
リキッド「(上目遣い)じゃあ…私が依頼するわ。これならどう?」
ベロム「(にやける)とんだ慈善家がいたもんだ。マジ珍しいわ。いいねー金持ってそうだわ。こいつぁーついてら。明日の飯が食えるってもんだ」
ベロム「(大声で)俺は医者だ。俺が治す」
ベロムは人混みに割って入っていった。
〇1階・歯医者
ベロム「(怒って)金がねーって、どういうことだこのアマ」
リキッド「(さも当然のように)ああしなきゃ、彼は死んでたわ」
べロムのお腹がなった。
ベロム「(頭をかきむしながら)医者だって慈善じゃねーんだ。薬だって金かかんだよ。無料で治すそんな奴どこにいるんだよ」
リキッド「(蔑むように)賭ケグルイの男ね…賭け事で全部擦っただけでしょ?歯医者なら儲かるものね」
ベロム「(怒鳴って)ふざけんじゃねー、誰のせいで…こんなことになったと思って」
リキッドの胸ぐらをつかんだ。
リキッド「(ゴミでもみるかのように)汚い手で触らないでくれる?」
ベロムの片手を覆うように水が溜まっていく。
ベロム「(慌てて手を離す)なんだ…てめー…2等国民以上かよ…」
リキッド「(蔑むように)正確には1等国民かな…残念ね6等国民さん」
ベロム「(悔し気に)6等国民なんて基準はねー。俺らはどこの国にも属せねーからスラム街になったんだ。1等、2等国民の能力者が虐げるせいでこんな街になってんだ」
リキッド「(憐れんだ目で)3等国民以下は…悲惨ね…無能力だから」
ベロム「(コケにされたように悔し気に)てめーの目的はなんなんだよ。何がしてーんだよ」
リキッド「(悲し気に)可哀想だったから…」
ベロム「(呆然と)は?俺の方が可哀想だわ」
リキッド「(決意の目で)ええ。なんとかする」
ベロム「(微笑む)金を作る覚悟があるんだな…くくっ。なんだそういうことか。怒鳴って悪かったな。なんなら金稼ぐ紹介してやってもいいぜ。お前さんなら上玉だ…良い値がつくぜ」
リキッド「(蔑むように)私に何をさせるつもりなのよ。金のあてはないけど、やれることはやる。やりたくないことはやらない」
ベロム「(頭を抱える)律儀…とでもいうのか。脅して逃げればいいのにそいつをしない。なのにわがままをいうとはどういう心境だ。おまけに威勢がよすぎる…どうしたもんかね…」
リキッド「(食い入るように)それより、金に困った理由って何?そこに手助けのヒントがあるんじゃない」
ベロム「(知っていてわざとかという呆れた表情で)博打で擦った原因は明白だろ…」
リキッド「(首をかしげて)何か理由があって他人のせいにしようとしてたでしょ」
ベロム「(嫌なものを思い出すように)黒き流星雨が降った…ここいら商売ができない」
リキッド「(さらに首を傾げ90度ぐらい傾く)黒き流星…?」
ベロム「(顔がひきつって)まぁ…ゴキブリの万を超えるであろう大群だな」
リキッドの顔色は悪くなった。
ベロム「(上に指を指し)3階がすげーゴミ屋敷でよ…どうも巣窟になってるみてーだ。前の住民が放置したものに群がり繁殖し…やがて食料が尽きたか。近隣にゴキブリ現れる始末」
ベロム「(落ち込みながら)ゴキブリの影響で、ここも…客足が途絶えた。な…!俺のせいじゃねーだろ。ゴキブリさえいなきゃいいのによ」
リキッド「(顔をひくつかせる)…ゴキブリ退治を引き受けろと…」
ベロム「(いじわるそうな顔)そいつか、身売りするかどっちかだな」
リキッド「(しぶしぶ)…わかったわ…ゴキブリ退治する」
ベロム「(腕を組み)嬢ちゃんの特殊な能力に期待ってとこだな」
リキッド「(袋からとりだす)その前に、食事させて…そこの屋台で串焼き買ったの」
ベロム「(一呼吸おいて)…そいつぁーやめとけ。何の肉かはわかんねー。ドブネズミの死骸かもしんねーし。人肉と噂されることもある」
リキッドの目は死んだ魚のような目になった。無言で串焼きを落とした。
ベロム「(怒鳴って)ゴキブリがよってくんだろが…」
ベロム「(拾いながら)油もな…ただの油じゃねー。地溝油っていう毒油さ。毒素はヒ素の100倍にもなる…ドブ油ともいうな。」
リキッド「(体を小刻みにふるわせ自分自身を抱く)そんな…私はどうやってここの生活を満喫すれば…」
〇3階・ゴミ屋敷
ベロム「(溜息まじり)で…どうする?やつらーしぶといぜ。殺虫剤が効かない無敵な存在なんだぜ」
リキッド「(冷たい目で)…簡単…全部凍らせればいい…」
リキッド「(床を殴る)水想観 氷想階層」
部屋一面を一瞬で凍らせた
ベロムは腰を抜かした。
ベロム「(驚きと笑み)ははっ確かにこりゃヤバいな」
リキッド「(かがみながら上目使い)それより、おじさん…しばらく泊めてほしいんだけど…」
ベロム「(聞こえないような声)…こいつの力は金になるかも。いや…それに若くてかわいいっちゃかわいいかも知んない。客引きにもなるか…」
リキッド「(耳をよせる)えっ?何?」
ベロム「(にこやかに)いいぜ。しばらくいろや」