夢廃墟は今もまだ。
原稿用紙約7枚分の稚拙な文章です。
人生と、時間の大切さを考えてから読んでくださいね。
今、私の前に、黒猫が一匹座っている。つやつやとした毛並みに、金色の目。私は猫が大好きなので、よく野良猫に手を伸ばす。それでいて、毎回引っ掻かれ、また手を伸ばしているのだから、学習能力のなさがよくわかる。
手が、猫に触れようとした瞬間、
「初対面のものに、急に触れようとするのはマナー違反じゃないかい?」
猫がそう言った。
何が起こったのかわからず、一瞬硬直する。それに、猫は続ける。
「あらかじめ、許可を取ってから、触ろうな。」
猫にお説教されている自分。恥ずかしいというよりも、不思議と嬉しい感覚だった。
「あ、あの、すみませんでした。さ、触らせていただいてもよろしいでしょうか。」
「…いいだろう。ただし、頭だけだ。」
「は、はい。」
許可が出たとはいえ、頭だけ。まあ、頭を触らせてもらえるだけ、いいのだろう。
「わあ、つやつやしてる。気持ちいい。」
「当たり前だ。毎日手入れをしっかりとしているからな。」
「へえー。すごいですね。」
「…っと。私がここに来た理由わかるか?」
「えっ…。わからないです。」
唐突な質問に戸惑う。
「答えは夢だ。」
「夢…。」
「そう。お前がここ数日見ている夢。お前は夢の中で廃墟にいて、その廃墟の中で声を聴いただろう?」
「確か、あと少し、あと少しって。」
「そう。それはお前の寿命だ。」
寿命があと少しってこと…?
「ど、どうすればいいんですか?」
「私が夢の中に入り込んで、その怪異の元を断つ。そうすれば、お前は助かる。だが、その分の対価は払ってもらわなければならない。」
「対価…ですか。」
「そう、対価。」
「一体なにを払えばいいんですか。」
「お前の学校のその都度の噂話だ。」
「噂話ですか。でもなぜ?」
「噂話には、ホンモノが存在する。たとえば、今お前が直面している夢廃墟。とかな。」
「わかりました。でも、どうやって夢の中に?」
「それは、やればわかるさ。」
夜、隣には黒猫がいる。夢の中に入るには一定の範囲内で一緒に寝ることが必要らしい。そのため、今隣で寝ている。
その可愛さに触れたくなるが、故意に触れた場合、助けないということなので、我慢する。でも、触れたい。でも、触れたら人生が終わる。怪異をよそに葛藤を続けていた。そんな風にしているうちに瞼が閉じた。
目が開いた。その視線の先には廃墟。そして、その隣には黒猫…ではなく、見たことのないお姉さん。ん?
「あの、どちら様でしょうか?」
「さっきまでベッドで寝ていただろう?一緒に。…おっと。こっちの姿については何も触れてなかったからな。こっちがホンモノだ。」
ポニーテールで、黒髪。そして、おっぱいでかくてスタイル抜群のお姉さん。私は自分の胸と比べて落胆する。
「…さあ、いくぞ。」
その手には剣が握られていた。光沢が出ており、ホンモノと見受けられる。
「あと少し、あと少し。」
いつもの忌々しい声が辺りに響く。そんな声の方向にお姉さんは向かった。私もついていく。
「お姉さん。いまさらですけど、自己紹介しません?私、神谷 雫って言います。」
「本当今さらだな。私は邪美。」
「かっこいい名前ですね。」
「そりゃどうも。…一応身構えておけ。何かいる。」
身構えて前を観察する。目の前から歩いてきたのは人形だった。それも西洋人形。
「人形?」
「ああ。夢廃墟には必ず人形を伴う。その人形を壊せばいい。」
「なんかかわいそうですね。」
「そんなことはない。人形を伴うと言ったが、本当は逆だ。夢廃墟が伴うんだよ。夢廃墟はあくまでカモフラージュというわけだ。」
「あと少し、あと少し。」
「残念ながら人形さんよ。あと少しはお前の寿命さ。」
邪美さんは、剣を突き刺した。人形の腹部に刺さり、人形は声をあげなくなった。そんな人形に私は近寄ってしまった。
「なにをしているんだ。危険だぞ、そいつはまだ。」
「わかっています。でも、ほっとけないんです。なぜか、そんな気がするんです。」
私が人形を抱きかかえた瞬間、周りの廃墟が一気に明るくなった。まるで貴族の豪邸のようだ。そして、いつの間にか私の手にあった人形は消えていた。
「あれ、人形は…。」
「なるほど。雫はとても面白い力を持っているということか。」
「面白い力ですか?」
「ああ。その怪異の生い立ちを知ることができる力さ。」
ということは、今見ているものは夢廃墟の生い立ちということ。
「ほら見てみろ。あの女の子が持っている人形。あの西洋人形だ。幸せそうに見えるが、さて、どうなることやら。」
「どういう意味です?」
「怪異になるということは、恨みや憎しみ、もしくは願望。そういったものが強く複雑に交差する。つまり、この人形にとってそういった事柄が起こるということ。だから、もし見たくなければ目を瞑れ。悲しいものをみたくなければ。」
「…いえ。大丈夫です。」
そんな時、少女の人形を奪い取った男の子がいた。おそらく、少女の兄だろう。兄は、ふざけているのかわからないが、人形を投げた。その先は、窓の外。少女は人形をキャッチしようとして窓から落ちた。
幸い、柔らかい土の上に落ちたおかげで、命は助かったようだ。だが、血まみれで見るに堪えない。兄は、窓からのぞいていたが、やがて自分のしたことの重大さに気付き、気絶した。少女は、最期に人形を抱きしめた。
そこで終わった。手には人形が戻っている。
「……あれが生い立ちなんですか?」
「そう、人形は少女の命を助けるために怪異になった。ということなんだろうな。人は脆く、人形も脆い。人形はパーツを入れ替えれば、ある程度生きながらえる。人間も生きているうちであれば、な。だからこそ、人形は彼女のために頑張った。だが、こいつは知らなかったんだよ。少女がもう動かないことも、あの楽しかった建物がこんな有様になっているってことも。」
「じゃあ、あと少しっていうのはもしかして。」
「ああ。きっと見えていたんだろうな。未だに動き続けている少女のことが。」
「悲しいですね。」
「悲しい…か。まあ、そうも捉えることはできるのか。」
「どういう意味ですか?」
「いずれわかるさ。」
気づくと朝になっていた。隣には邪美さんが寝ている。人のほうで。とりあえず、頭を撫でてみると、すごい反応で飛び起きて敵意を向けてきた。
「頭は撫でていいって言ったじゃないですか。」
「それとこれとは、話がちがうだろ。」
照れている邪美さんは可愛いなって思った。
お疲れさまでした。
そして、おやすみなさい。