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「兄さま、でよろしいのですか」


「そう。兄さま。もう一回」


「あ、兄さま」


 恥ずかしそうに鬼族の少女がヨシヒトに赤面を向ける。

 胸の前で手をイジイジとしながら。

 「えへ、えへへ」とはにかみながら笑う。

 義理の妹が欲しかった。それは昔のことだが、それが今になって叶うなんて、夢は見続けるものだ。

 嬉しそうにしている鬼族の少女はヨシヒトの目には少し異常に見える。


 どうしてこんなに突然やってきて、突然「兄さま」と呼べなどと言われてもなお笑っていられるのか。現に鬼族の少女以外の狼少女とエルフ少女は軽蔑の目でこちらを見ているのだ。

 今は、この鬼族の少女だけで満足しておこう。


「ね、姉さま方も兄さまとお呼びしないのですか?」


「なんで呼ばないといけないの? 別に契約したからって嫌な命令は聞かなくていいの」


 狼少女が鬼族少女に噛み付いた。

 物理的に。


「あいたっ! な、なんでですか? いつも思うのです。どうして手よりも早く口が出るのですか!!」


「ふん。ひひしゃあい。ーーーー噛みつきやすいのよ」


 口を離しながら狼少女が鬼族少女を睨んだ。

 エルフ少女はそれを見ながら部屋の端でひとり縮こまっている。

 そちらに視線をやると、「ひぃっ」と壁と同化する。が、どれほど後ろに下がろうとも壁よりも奥に行くことはない。すでに一番奥に行っている。


「兄さま。私たちはどうすれば良いのですか?」


「別に。何もしなくていいよ」


「え?」


「そうよ。何もしなくていいって。ミィ、ハル、帰るわよ。

 契約してるからって、奴隷魔法だからって主人から離れたところでなにもないのよ。

 命令して初めて奴隷魔法は効果を持つんだから」


「さすがですね、エリー。経験者は語る。ですか」


「なに? 煽ってるの?」


 誰がミィでどっちがハルなのかわからないが、狼少女がエリーというのはわかった。


「エリー。別にどこに移行が構わないが、ついでに食べ物を買ってきてくれ。

 近くの屋台で焼鳥を売ってた気がするから」


 そう言ってヨシヒトはクレジットを投げて渡す。

 簡単な決済カードである。アイテム一覧で見つけたアイテムで、プリペイドカードと思えばイメージができた。

 中には10万ほど入っているようで、それを使えばロリンデ内では簡単に買い物ができるようになっている。

 説明文を読んでも、考えてみても、使用履歴から足がつくことはないはずだ。

 どこから盗んだのかもわからないが、使わなければ死蔵するだけである。この町特有の商品券のようなものであるから外では全く役に立つことはない。それに、入金すれば中のチップに残高が記録されるだけの代物であるので、誰かの口座に繋がっている心配はない。

 それに、盗んだのはヨシヒトであるが、結局誰もヨシヒトを犯人と特定できていないのだ。

 少女が買い物をするだけなのだ。誰も問題にはしないだろう。

 少女が怪しいからって使ったカードが盗品なんて誰が思うだろうか。その上番号なんて気にして控えている人間がいるのだろうか。


 例えば、元の世界にいたような天才的な探偵だったら、ご都合主義で誰かのミスを見る展開が合ったり、盗んだ人間がボロを出して犯人を推測したりする。

 が、結局の所、盗んだ人間を特定することはできない。使った履歴を証拠もないのに調べることはない。その点から、問題ないと考えている。


 盗んだお金を使っても、恐らく足はつかないのだ。



 と、さっきまで他人だった今は奴隷少女である、狼エリーが買い物するのに盗品を使わせることについて頭を悩ませていた。


「なに? 私だって一人で買い物できるから。いくわよ、ミィ」


 彼女が連れて行くのはミィ一人だった。

 当のミィは、鬼族の少女であり、ニコニコとしながらフリフリと揺れるエリーのしっぽについていった。扉を開けて階段を降りる音が聞こえる。


「で? 君がハル?」


「な、なんで名前を知ってる? 私、名乗ってない!」


 ぎこちない言葉でこちらを睨む。

 変態不審者と誤解されてしまいそうだ。


「いや、エリーが呼んだからね」


「ち、違う。私はミィ。ハルじゃない。気安く呼ばないで。」


「ミィは今エリーについて行ったよ。見てたでしょ」


「み、みてた」





 うなずくハル。そして、何がしたいのかわからない問答の後に、ハルは部屋の隅、ベッドと壁の間にある狭い隙間に収まることになった。


「私は壁。何もしない。ただ見てるだけ。変態さんには見えない壁」


 呪文を唱えるだけの壁になってしまったハル。

 帰ってきたミィは爆笑で、エリーはため息をついて無視していた。

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