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45.侵攻結果









 役所の中は、時折外からの爆音や銃声が聞こえてくる以外は無傷だった。役所にも、強力な守護用の結界が張られているし、戦闘員も頑張っているのだろう。相手の主たる狙いが城塞にある、と言うことも大きいだろうが。


「失礼」


 そう言って町長室にはじめに入ったのはエステルだった。ヴィエナと秘書のヘリュが驚いた表情を浮かべる。


「こちらにいらしたのですか」


 てっきり城塞に行ったものと、とヴィエナは言った。だがさすがに、そちらに行けなかったのだ、と言うことを察してくれたらしい。

「町長。今、どうなっているんだ?」

「そもそも俺たちはなぜこの状況になったのかすらわからないんだが……」

 意気込んで尋ねるエステルと冷静に状況説明を求めるアキである。近寄ってきたヘリュがアイナに尋ねた。

「怪我、大丈夫?」

「……大丈夫」

 会う人会う人みんなに言われるので、アイナの対応も適当である。いや、いつも塩対応だけど。

「戦車もいたけど、どうやってここまで来たんだろう。途中の街で気づかれそうなものだけど」

 アイナも疑問を口にすると、ヴィエナは言った。

「待ってちょうだい。一気に聞かれても答えられないわ」

 ヴィエナはふう、と息を吐いた。また外から爆発音が聞こえた。

「彼らは、戦車を船で運んできたのよ。キラヴァーラの中にも、川が流れているでしょ。それにつながっている川ね。さほど大きくないけど、小型の戦車くらいなら運べるでしょう」

 それに乗せて、戦車を五台運んできた。キラヴァーラから見れば、いきなり攻め込まれたような気がするだろう。


「城塞の技術者によると、MMM商社の私兵のようね」


 私設武装組織ではなかった。いや、ある意味そうなのか? どちらかと言うと、民間軍事会社では?

「まあ、攻め込んできたのは以前、アイナに手を出そうとして追い出されたからでしょうねぇ。自業自得って言葉を知らないのかしら」

 辛辣なことを言うヴィエナである。

「心配しなくても、鎮圧できるでしょう。時間はかかるかもしれないけど」

 ヴィエナはそう言って肩をすくめた。人数で負けているので、確かに時間はかかるかもしれないが、練度は城塞戦闘員の方が上だと思う。伊達に、月一で異世界からやってくる魔物たちと戦っているわけではない。

 どぉん、とひときわ大きな音が聞こえた。みんな、急いで窓から城塞の方を見た。少し距離があるが、城塞の壁の一部がへこんでいるのが見えた。

「結界が破られたのでしょうか?」

「そんな感じはしないけど……」

 不安げなメルヴィに、アイナはそう返した。なら、砲弾が結界をすり抜けたのだろうか。あいにくと、そんな武器は知らないが、そう言う魔法なら知っている。たいていは剣に使うものだが。

「……城塞が落ちることって、あるの?」

 ニナが尋ねてきた。口を開いたのはヘリュだった。


「……どうなのかしら。ここは城塞都市だけれど、異世界側から攻め込まれるのが前提だから……」

「歴史的に見て、キラヴァーラが人間に攻め込まれたことはほとんどないからな」


 ほとんど、と言うことは、あるにはあるのだ。しかし、今のような大量破壊兵器のない時代の話であるので、参考にはならない。


「一応、先の戦争の時にそう言った対策はしたはずだけど、現に街の外周を覆っている結界を破られているわけで……」


 傷口がじくじくと痛む。その痛みから気をそらすように、アイナは考えた。彼女も、当時対策に奔走した一人である。


「ま、城攻めっていうのは基本的に守る側が有利だからな……」


 争いが始まってからだいぶ時間が経っているので、住民たちもシェルターに避難で来ているだろう。つまり、城塞側も防戦を徹底できる。

 キラヴァーラ城塞を攻めることは城攻めと言うのだろうか、と思わなくもないが、城塞、と言っているのだから城でいいのだろうか。キラヴァーラ城塞の街側に対抗するための対策は、異世界側に面している方と比べると劣っているのは確かだ。しかし、そう簡単に落ちないだろう。何しろ、あちらにはヘンリクがいる。

 歌が聞こえてきた。ベランダに出たエステルの音律魔法だ。わかっていたが、アイナと同系統の魔法である。窓から顔を出していたアイナはエステルの詩に合わせるように口を開いた。

 戦場に似つかわしくない優しい歌声である。もともと、この曲は鎮魂歌レクイエムだったような気もする。いや、聖歌だったか?


 音律魔法は精神干渉魔法である。しかも一方通行であり、発信できても受信できない場合が多い。その代り、強力だ。

 精神系能力は先天的能力である。後から習得することは、できないわけではないが難しい。そして、遺伝性である場合が多い。突然現れたようでも、先祖に精神系能力者がいるという、隔世遺伝のことが多い。

 まあ、絶対ではないが、たぶん、エステルとアイナの音律精神干渉魔法は同系統の魔法だ。それは、二人が同じ血・・・を引くからだろう。全く同じ種類の魔法なのだ。

 精神干渉魔法にはいくつか種類があるが、今回の場合は沈静系の精神干渉魔法だ。


「え、何? 二人で歌ったから鎮圧できたの?」


 ニナが外を覗き込みながら言った。精神干渉魔法は基本的に無差別なので、城塞側の戦闘員まで巻き込まれて倒れていたりするが、そのあたりはご愛嬌である。基本的にアイナたちに悪意を持っている者の方が強く影響を受けるので、侵入者たちの方が重症だろう。

「……まあ、二人分の力で相乗効果があったんだろうけど」

 アイナが適当にはぐらかそうとして言うと、ヴィエナがじっとこちらを見ていることに気が付いた。

「……なんですか」

「……いえね。最初からやればよかったのにと思っちゃったりなんかしてね」

 明らかにはぐらかしたが、アイナはツッコまなかった。アイナもはぐらかしたので。

「そんなに便利じゃないですよ、魔法って」

「わかってるわ。言ってみただけ」

 肩をすくめたヴィエナが言った。これは結果論であり、通常ではアイナやエステル一人の魔法ではキラヴァーラ全体に力が及ばないので、局所的な鎮圧になり意味がない。

 役所内の電話が鳴った。ヘリュが中に戻って受話器を取る。


「はい、こちらキラヴァーラ町長室」


 ヘリュがふんふん、とうなずく。おそらく、城塞からだろう。やがて彼女は電話を切った。

「アイナ。呼び出しよ」

「え、私? 姫様じゃなくって?」

「司令から。姫様も一緒にって言ってたけど」

 ヘリュが首をかしげるので、アイナも首をかしげる。

「いいから行って、怪我治してもらいなよ」

 言われて、肩が痛むのを思い出した。弾も入ったままだ。取り除かなければまずいことはわかる。

「っていうか、今外に出て大丈夫なの?」

 ニナが当然の問いを口にする。それは、アイナもちょっと思った。

「途中でフレイとレイマを回収して行こう。アイナ、魔法は使えるな?」

「いや、今使ってたよね」

 ツッコミを入れてアキを見上げる。大丈夫、という返事と受け取ったアキは「よし、行こう」とうなずいた。ヴィエナとヘリュに見送られてアイナたちは役所を出た。ちなみに、アイナは連れて行かれたが、ラウハはそのまま役所に残してきた。


 そして、途中で本当にフレイとレイマを拾ったのだが、二人ともアイナとエステルの魔法の余波を食らっていた。特に魔法耐性のないレイマが重症だった。

「あれ、お前だろ……!」

 レイマの恨みがましい言葉に、アイナは「半分くらいはね」と笑う。重症、と言ったレイマですら、侵入者たちに比べればましなはずだ。死屍累々、とはこういうことを言うのだろう。無地の戦闘服の戦闘員たちが転がっていた。人数が多いので、余計に目につく。

「とにかく、城塞に行くぞ。司令がお呼びだ」

 レイマとフレイの肩をたたき、アキが歩き出した。道が瓦礫で埋もれているので車などが通れないのだ。たまに戦車が横倒しに破壊されていて、

「え、あれ何? ホントに?」

 エステルが驚いたようにそんなことを言ったりしていた。まあ、城塞の魔導師と戦闘員が力を合わせれば、戦車も鉄の塊になる。


 ちなみに、城塞は無傷だった。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この話も結構長いですねー。


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