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44.侵攻状況









 空中で撃たれたアイナは、それでも無事に着地した。だが、すぐに膝をついてしまう。


「アイナ!」

「大丈夫か!?」


 ラウハとエステルが駆け寄ってくる。後ろから左肩を撃たれたアイナは顔をしかめる。

「さすがに……っ、痛い……っ」

「止血するから、動かないで!」

「意外と大丈夫そうだな……」

 圧迫して止血し始めたラウハと元気そうなアイナにほっとするエステル。ラウハの弱い治癒魔法が効いたのか、血は止まった。

「銃弾取り除かないといけないんじゃないか?」

「あ、そっか! そうですね」

 エステルの指摘にはっとしたラウハが縛り上げたアイナの肩に手を伸ばす。アイナは思わず避けた。

「いい。マリにやってもらうから」

「ええ~。あたしよりマリさんの方がましってこと?」

 いや、だって、少なくともマリは医者だし。アイナはラウハの手を借りて立ち上がると、言った。

「もう城塞の近くまで侵入されてる。城塞に入られることはないと思うけど。逆に言うと、私たちも入れない」

「……それ、どうすんの」

 ラウハが半目で言った。少し離れていたアキが駆け寄ってくる。


「どうする、アイナ」

「なんで私に聞くの……」


 アイナもアキも、エステルを預かった以上、命に代えても彼女を守らなければならない。それが一番容易だったのは、城塞に入ることだった。この状況ではその方法は取れない。

「アイナの家に行くのは?」

「うちはセキュリティーは強力だけど、普通の家だよ」

 銃撃されれば普通に壊れる。一応、魔法陣による結界はあるが、それでも軍事用にかなうべくもない。

「……問題は、私たちが情報から隔離されていることだけど……」

 だから、身動きが取れない。ヘンリクはどのように対処しているのだろうか。ところどこで城塞の戦闘員を見かけるから、防衛戦はしているらしい。当たり前だけど。


「どっかで戦闘員捕まえるか」


 テレパシーが使える人間でもいればよかっただが、あれは先天的な能力であり、精神感応魔法が使えるアイナでも使用できない。

 つまりは通常の電話などで情報を得るしかないのだが、今、回線がつながらない。この状況では、城塞に向かうよりもこのまま襲撃者たちを制圧してしまった方が早いし、安全だと思うのだが、どうだろう。

 アキ、ではなくフレイが本当に戦闘員を捕まえてきた。アントンとイルッカである。

「あ、みんな無事だった……アイナ、大丈夫か?」

「うん、痛い」

 珍しく怪我をしているアイナを見て、イルッカが尋ねてきた。アントンが顔をしかめた。

「俺が一緒なら怪我なんてさせなかった」

 などと無駄に男前なことを言いだすが、アントンが一緒でもあの状況では怪我をしただろう。要するにアイナの自業自得である。まあ、それは置いておき、状況の確認である。

「アントンたちは司令からどんな命令を受けてるの?」

「侵入者を倒す、もしくは捕らえ、非戦闘員はシェルターに入れるように言われている。あと、姫様を見つけたら城塞に連れて来いと言われたが……」

 アントンは顔をしかめた。彼にも、今の状況で城塞に入るのは難しいとわかっているのだ。


「一応、その後に姫様を見つけたら守ってシェルターに入れろって」


 イルッカも補足した。シェルターより城塞の方が安全なのは確かだが、ここで贅沢は言っていられない。


「相手の戦力は? どれくらいだ?」


 やはり、リーダーにならざるを得ないアキである。しかし、いつまでも固まって話しているわけにはいかないので、イルッカが自分が持っていた通信機をアキに渡した。


「じゃ、俺、行ってくるから!」


 行ってくるから、じゃない! と思うのだが、見送ってしまった。アントンやニナまでそれに続く。マシンガンが連射されていようが、魔法が飛び交っていようがお構いなしである。度胸があると言うか、命知らずと言うか。

 通信機を押し付けられたアキは、城塞の管制官と連絡を取っていた。そこで正しい情報を入手する。

「アイナ」

「何?」

 アキに声をかけられ、アイナは首をかしげる。アキは彼女に向かって尋ねた。

「敵戦力は約五百。そのうち、魔導師は二十人程度と思われる。他、戦車が五台、装甲車が二台。重火器は大量に持ち込まれている。現在、キラヴァーラの役四分の一が制圧されている。どうすべきだと思う?」

「……なんで私に聞くの」

 アイナは半目になりながらも考える。肩の傷が痛んだ。

「……敵は、どれくらい殲滅できてるの」

「約一割と言うところだ。ちなみに、こちらの戦闘員は二百人ほどだ」

 そのうち、魔導師は半数以上だろう。レイマのようにまったく魔術が使えない戦闘員の方が少ないはずだ。


 城塞の職員は約千人。そのうち、約半数が戦闘員として数えられる。そのうちさらに半分くらいがこちらの戦闘に参加していると言うことだ。

 どう考えても、攻め込まれているキラヴァーラ側の方が不利だ。住民も守らなければならないし、どうしても被害を考えてしまう。

「……できれば、今のうちに片をつけてしまいたいけど……」

「不可能ではないな。では、その手法は?」

「ええっと……」

 何故ここで指揮官訓練。この規模だと、さすがにアイナも経験がない。状況が状況なので、焦って余計に考えがまとまらない。

「待て、アキ。アイナが混乱しているだろう。あまりいじめてやるな」

 エステルが待ったをかけた。アイナはほっとする。

「まあ、そうだな。すまんすまん」

 アキがアイナの頭をポンポンと叩いた。そして、すぐに指示を出す。


「とにかく、俺達の第一目的は変わらん。姫様を守ることだ」

「そして、一番確実な方法は敵をたたき出すことだな」


 ニコッと笑ってエステルが言った。さすがの強気である。

「……そうだけど、とりあえずシェルター目指そう。ここから一番近いのは?」

「役所だね。少し距離はあるけど、収容人数が多いし、情報も入ってくる」

 アイナが口をはさんだ。作戦を立てろ、と言われても難しいが、その場での最適解は見つけられる。城塞に入れないのならば、役所に向かうべきだろう。そちらにも攻め込まれているだろうが、城塞よりはマシなはずだ。

「アイナ。走れるか?」

「飛ぶから平気」

 あまり多用するものではないが、この状況では仕方がないし、許してほしい。走ると傷が痛むし、そもそもアイナはあまり体力がない。魔力はあるけど。


 アイナの重力干渉魔法は飛行魔法ではないので、推進力となる魔法が別にいるが、そのあたりはアイナだ。物質移動を主とする念動力で応用した。しかし、長くは続けられない魔法だなぁとは思う。魔法構築学を専門とするアイナだからできたが、練習しても普通はできないと思うのだ。役所に着くころには、アイナも魔法の使い過ぎで疲弊していた。

 何もシェルターは役所の中まで入らなければ入れないわけではない。外にある入り口から、一行はシェルターに入った。全員ではない。女性陣五人とアキの計六人だ。他のレイマ、フレイ、途中からついてきていたアントンとイルッカは外で防衛線に協力している。もうほとんど混戦だけど。


「あ、姫様! みんな!」


 声をかけてきたのはシェルターで避難者たちの様子を見ていたらしいエルノだ。

「無事だったんだ……アイナ、大丈夫?」

「なんでみんな聞くの?」

 エルノもアイナの怪我に目をとめたらしく、首をかしげて尋ねてきた。正直痛いが、耐えられないほどではない。

「ならいいけど……みんな、城塞には行かなかったの?」

「城塞に行っても、入れなさそうだったからな。町長はいるか?」

「うん。上の建物にだけど……」

 アキの問いに、エルノは顔をしかめて言った。

「町長に会いに行くのか? 私も行く」

 すぐさま主張してきたエステルである。役所と言う安全な場所にいる以上、断りきれずにアキはしぶしぶと言う風にうなずいた。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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