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43.侵攻










 雪が融けはじめ、春の兆しが見え始めた。完全に雪が融けるころ、エステルは首都に帰ることになっていた。半年も一緒だったのだ。また別れるとなるとさみしくなる。

 休みの日、アイナはエステルやラウハに連れられてお出かけに出ていた。いつも通りユニセックスな服を着たアイナは、女性陣に囲まれると少年に見える。別に飛びぬけて背が高いわけでも、男顔なわけでもないのだが、癖のないきれいな顔立ちが、少女たちの中に置いて男っぽく見えるのだろう。

 とはいえ、住人達がみな顔見知りと言っても過言ではないキラヴァーラで、アイナを見間違うような住人はいないが。


 案内役はアイナと学校が休みのラウハ。男子たちは置いてきた。キラヴァーラの中なら安全だろう、という考えからだ。ニナとメルヴィもついているし、アイナもそれなりの戦力になる。


「っていっても」


 アイナはちらっと背後を見る。護衛の男性陣がこちらをうかがっていた。みんな事情を知っているからいいが、普通に考えたらストーカーである。

「アイナ! アイス食べない?」

「……食べるけど、寒くない?」

 テンションの高いラウハに誘われてアイナは彼女に駆け寄るが、アイスを食べるにはまだ寒くなかろうか。

 結局、アイスを食べるにはまだ寒いだろうと温かい飲み物を飲むことにした。ニナとラウハはケーキも食べているけど。

「あ、ねえ、誰か端末鳴ってない?」

「この状況だとアイナしか考えられませんが」

 メルヴィの冷静なツッコミで、アイナは自分の携帯端末がコール音を鳴らしていることに気が付いた。

「あ、城塞からだ」

「出たほうがいいんじゃないか?」

 エステルがそう言うので、アイナは通話ボタンを押した。


『遅い!』


 叫んだのは司令のヘンリクだった。アイナは顔をしかめる。

「何? あ、アイナだけど」

『知ってるわ!』

 マイペースだなお前! とヘンリクが端末の向こうで叫ぶ。アイナは「何かあったの?」と半眼で尋ねる。

『街の外の様子がおかしい。お前、今、姫と一緒だな?』

「一緒だけど」

『そのまま、姫を連れて城塞までこい。アキたちは置いてきて構わん』

「了解」

 アイナは簡潔に答えると、端末の通話を切った。その瞬間、またコールがかかるが無視した。

「……アイナ、めっちゃなってるけど」

 ラウハがツッコミを入れるが、アイナはスルーして言った。


「司令からの命令。姫様連れて城塞まで来いって」

「え、なんで?」


 エステルが行くとなると自動的についていくことになるニナが疑問を投げかけた。いや、アイナも理由は知りたい。そのままのことを言えば、エステルは街境に行きたがるだろうし。

「……」

 アイナは少し考えて、それからそのまま言った。

「街の外の様子がおかしいらしい」

「よし見に行こう」

「いや、ちょっと待って」

 アイナは立ち上がってエステルの肩を押さえた。


「司令がここまで言うってことは、ホントに危険なんだよ。姫様の身を預かっている立場としては、街境に連れて行くことは出来ない。どうしても行くって言うなら、引きずってでも城塞に連れて行くからね」

「……」


 みんなが顔を見合わせた。代表してラウハが言った。

「アイナって時々司令みたいだよね」

「怒るよラウハ」

 現実的に判断した結果だ。あまりにもアイナが真剣だったからか、エステルは城塞に向かおうと言ってくれた。だが、世の中そんなにうまくいかないものである。街の外から轟音が聞こえた。

「な、何!?」

 ニナが声を上げる。彼女は思ったことがすぐに口に出る。

「砲撃だ。戦車の砲撃くらいじゃ、キラヴァーラの結界は破れないよ」

「戦闘機は?」

「……いや、戦闘機が攻めて来たらひとたまりもないけど……まあ、軍隊じゃないんだから、来ないでしょ。目立つしね」

「……攻めてきているのは、軍隊ではないと」

 エステルが首を傾げて言った。いや、王女がいるのに何故軍隊が攻めてくるんだ。中世じゃないんだぞ。

「まあ、城塞に行けば何か分かる……!?」

 近くで爆発が起こった。この短時間で、結界が突破されたらしい。アイナとメルヴィが魔法障壁を作り上げる。すぐにメルヴィが反撃に転じる。メルヴィの強力な攻撃魔法が襲撃する。

「メルヴィ!」

「すぐに反撃しなければやられます!」

 非難の声をあげたアイナに、メルヴィはそう答えた。確かにそうだけど!

「なんか面白くなってきた!」

 などと楽しげに言うニナである。彼女は拳銃を取り出した。一応エステルの護衛である彼女は、一通りの武器を使えるらしい。最近は、城塞の戦闘員と訓練していたので、剣を握ることの方が多かったはずだが。


 メルヴィの魔法はかなり被害が大きかったが、住民で巻き込まれた人はいないようだ。一応、キラヴァーラは異世界との最前線であるので、戦闘時における避難行動などは住民全員に叩き込まれている。そのマニュアルで言うと、職員であるアイナとラウハは城塞に行かなければならないのだが。

「やっぱり私兵……私設武装組織と言うやつでしょうか」

「メルヴィ、ドラマの見すぎだよ……」

 ツッコんでいる場合ではないのだが、マイペースなアイナですらツッコんでしまう状況でもある。そんなのんきなことを言っている場合ではない。


「あ、あの武器……MMM商社の軍事用小銃!」


 無地の戦闘服を着た戦闘員が持っている小銃を見て叫んだのはラウハである。そちらも刻印などはされていないが、ラウハは形で分かったらしい。

「報復と言うことか? 追い出されたから?」

「自業自得だと思うんですけどねぇ」

 エステルとニナの会話である。アイナは魔法陣を展開し、戦闘員たちの足を止める。そこをメルヴィの魔法が急襲した。そこに、瓦礫を越えてきたアキたち三人。


「……俺達の出る幕ないな……」


 アキが肩を竦めて言った。レイマもフレイも剣をもっている。銃相手ではあまり意味がないような気もするが、これがそうでもないのだ。結構バカにならない。

 またアイナの携帯端末が鳴った。いや、ずっとなっていたのだが、今度は緊急回線だ。これは出るしかないだろうとアイナは通話をオンにする。

「はい。アイナです」

『お前何してるんだ!?』

 ヘンリクだ。

「や、ちょっと巻き込まれちゃって」

『思ったより侵攻が早いな……とにかく、姫様を城塞まで連れて来い』

「了解」

 アイナは通話をきると言った。

「司令から。やっぱり姫様城塞に連れて来いって」

「よし。請け負った」

 先ほど置いて言っていいと言われたアキたちだが、合流出来たのでこのまま一緒に行けばいいだろう。たぶん。


 と言っても結構な大人数である。全員で八人。

「……別れる?」

「いや、姫様とラウハを非戦闘員として数えるのなら、全員で動くべきだろう」

 アイナの問いかけに、アキはそう答えた。いや、エステルもラウハも戦力にならないこともないのだが、やはり数えるべきではないのだと思う。というか、アイナは戦力に入っているらしい。自称・技術者なのだが。

 というわけで全員で城塞を目指す。だいぶ奥まで侵入されたらしく、道が瓦礫でふさがっていたりするので走って行った方が早いだろう。幸い、そんなに距離はないし。もともと小さな町だ。つまり、それだけ早く制圧される可能性があるのだが。


 最初に音をあげたのはラウハとアイナだった。後方支援が主である二人は、体力にあまり自信がないのである。

「ほら、やっぱり、分けたほうが、よかった……!」

 一度立ち止まって息を整えながら、アイナが言った。おかげで計算が狂う。魔法陣の。

「何言ってんだ。ラウハ担ぐけど、アイナ走れるか?」

「飛んでもいいなら」

「お前、飛べるの!?」

「言葉の綾だけど」

「お前いい加減にしろよ!」

 レイマにつっこまれた。彼は本当にラウハを担いだ。アイナは振り返ると地面に魔法陣を展開。おってきていた戦闘員の足を小さなとげで貫いた。メルヴィが持っている武器を攻撃魔法で吹き飛ばす。


「お前らいいコンビだよ!」


 アキが叫んだ。その近くで戦闘員を切り捨てていたフレイが叫ぶ。

「なんか私兵にしては人数多くないか? 本当に私設武装組織か?」

「フレイ、引っ張られてる」

 ニナがツッコミを入れた。確かにメルヴィに引っ張られている。

 知覚能力では混乱が大きすぎて正確な状況を把握できない。アイナは「上から見てみる」と言って魔法陣を足元に展開し、上にふわりと浮きあがった。

「気をつけろ~」

 アキがのんびりと言いながらも先に進む。アイナはその後を空中浮遊しながら進む。重力干渉魔法を使用するアイナにとって、自分の体を浮かせることはさほど難しくない。ただ、空中では回避行動をとりにくいので攻撃されたら避けられないかもしれない。近くの家の屋根に降りた。

「だいぶ侵入されてるね……」

 すでに城塞の手前まで侵入者たちは迫っている。アイナたちが城塞にたどり着いても、中に入れないかもしれない。とん、と屋根を蹴って干渉魔法を展開。ゆっくりと地面に降りた。


「アイナ!」


 名を呼ばれたと同時に、銃撃音が聞こえた。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


私は私設武装組織と聞くと、ソレス○ルビー○ングを連想する世代。


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