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03.仲間たち

本日最後の投稿!










 昼の早い時間だからか、食堂にはあまり人が居なかった。ここの食堂はセルフになっているので、自分で好きな料理をとってくることができる。

「俺とアントンで念のため席確保しとくから、アイナとレイマは先に料理取ってこい。レイマはアイナの側を離れるなよ」

「ありがとな。わかってるって。こんなかわいい子一人にしたら危ないからな!」

 任せとけ、とレイマがアイナの頭をたたくが、いまいち不安しかない。フレイも肝心な時に抜けていたりするが、レイマは全体的に詰めが甘くて、見ていてひやひやする感じだ。


 ダークブロンドに淡い空色の瞳をしたレイマは、優男的雰囲気のフレイと比べてやや精悍な顔立ちをしている。性格がこれなので見た目とのギャップが結構ある。中身も馬鹿だが、基本ポジティブな彼を、アイナもフレイたちも好いていた。


「アイナ……それで足りる?」


 皿いっぱいに料理を盛り付けたレイマが、スープとサラダとパンと鶏肉のハーブ焼きをちょこんと乗せただけのアイナを見て言う。アイナは逆に言い返す。

「レイマはもう少し野菜を食べたほうがいいと思うよ」

「食べてるだろ!」

「ポテトサラダは野菜のうちに入らないよ」

 葉っぱを食べろ、と言ったら、俺はウサギではない、と言われた。その言い方が面白くて、噴き出しそうになったが何とか耐えた。

「お待たせ」

「悪いな。お前らも行って来いよ」

 アイナとレイマが、席をとっていたフレイとアントンを見つけて同じテーブルに着く。何となく、アイナはアントンの隣の席を確保した。その向かい側にレイマが腰かける。お茶を飲みつつアントンとフレイを待ちながら、アイナとレイマは他愛ない会話をする。


「レイマ、家族は元気?」

「おうよ。お前んとこは……めちゃくちゃ元気だな」


 同じ質問を返そうとしたであろうレイマは、途中で自己完結した。母と三人の弟妹と暮らしているレイマはともかく、アイナの家族は全員この城塞の職員だ。

「ペトラさん、容赦ねぇし」

「それだけ期待してるってことなんでしょ」

「なのかなぁ。俺、『もっと頭使え! 脳筋か!』って言われるんだけど」

「レイマは脳筋でしょ。二次関数、解けるようになった?」

「なってません……」

「だろうね」

「うっわ。相変わらず容赦ねー!」

 それでも楽しそうにレイマが叫んだところに、アントンが戻ってきた。

「なんか楽しそうだね」

「レイマが一人で騒いでるだけだよ」

「うわ、ひでぇ」

 泣いちまうぞ俺は、とレイマが訴えるが、アイナどころかアントンも取り合わなかった。

「というか、フレイは?」

「お茶もらいに行った。俺の分も」

「あ、そう」

 アイナは納得してうなずいた。フレイも、気が利くしいい人なのに、なぜか残念である。


 一方のアントンはクールな少年である。アイナもクール、というかツンデレと言われるが、アントンはツンの部分しかない。明るい茶髪に緑の瞳と言う、やっぱりこの辺りに多い髪と目の色をしていた。

 アントンもやはり肉が多い。いや、肉がおいしいのは認めるが、そこまでして食べたいとは思わない。


「お前ら、先食ってなかったのか」


 フレイが戻ってきてアントンの前にコップをどん、と置きながら言った。一応アントンが「ありがとう」と礼を言う。四人そろってから食べ始める。当たり前かもしれないが、一番少ないのに食べる速度はアイナが一番遅かった。


「そういや、アイナは今日何しに出てきてるんだ?」


 レイマが尋ねた。フレイは一緒に調整をしていたから知っているだろうが、訓練の方に出ていたレイマとアントンはアイナがいることを遭遇するまで知らなかっただろう。アイナもアントンがいると知らなかったし。

「魔法兵器の調整に来てたんだよ。まあ、私は魔法式を構築してるだけだけど」

「へえ~。俺、感覚でやってるからよくわかんねぇンだよな」

「二次関数、解けないもんね」

「まだ言うかぁ!」

 レイマは怒鳴るが、怒っているわけではないだろう。自分のキャラをよく理解しているのだ。彼はこういうキャラなのである。たぶん素だと思うけど。


「俺は午後から訓練だけど、アイナはまた調整に戻るんだろ」


 フレイに尋ねられ、アイナは「うん」とうなずく。

「私が訓練に参加したらびっくりだよね」

「アイナはわざわざ訓練しなくても、俺が護るし」

 と、アントンが無駄にハンサムな発言。アントンの向かい側に座るフレイが体を震わせた。

「お前さらっとそんなこと言えるとか、どんな潜在能力だ……!」

「やばいな。気障ったらしいな」

 レイマも同調した。アントンは「アイナは妹みたいなもんだし」と言う。アントンは亡き父に自分より弱いものを守れる男になれ、と言われたらしい。それを忠実に実行しているわけだが、実はアイナの方がアントンより誕生日が早い。


「フレイとレイマは騒ぎすぎだよ」


 アイナが冷静に指摘する。年上二人より、年下二人の方がテンションが低い。まあ、年の差も二、三歳しかないからそんなに変わらないけど。

 アイナがデザートとして取ってきたゼリーはアントンの腹の中に納まった。アイナが食事を途中でギブアップしたからだ。これくらいなら食べられると思ったのだけど。

「お前、それで持つのか?」

「それ、レイマにも聞かれたよ」

 帰りもフレイに送られながら、アイナはやっぱり冷静に言った。訓練をしているフレイたちと、基本後方支援のアイナを同じにしないでほしい。

「帰りはペトラさんかヨルマさんが一緒だから、大丈夫だな?」

「うん。そんなに心配しなくても、一人でも大丈夫だよ」

 一応主張してみるが、フレイは「前科があるからな」と取り合ってくれない。確かにあるけどさ。

「フレイも頑張ってね」

 そう言って送り出すと、フレイは「おう」と片手をあげて返事をした。彼らしくて、アイナは少し微笑んだ。


「おやおや。青春か?」


 そう言って絡んできたのは背の高い女性だった。声でわかっていたが、視線を向けると見事なシルバーブロンドが眼に入った。金髪が多いこの地域であるが、ここまで見事なシルバーブロンドはさすがに珍しい。


「マリさん」


 名を呼ぶと、一回り以上年の離れた彼女はきれいな翡翠色の目を細めた。

「アイナ、フレイと仲いいねぇ。彼も結構気が利くし」

「残念だけどね」

 アイナ、さらっとひどいことを言ってのける。いや、フレイの気が利くのは知っている。だが、どことなく残念感が漂っているのも事実だ。

 シルバーブロンドの女性、マリ・サーリネンは小柄なアイナの顔を見た。

「あいっかわらずクールだね、アイナは」

「そう? 普通だと思うけど」

「ペトラさんとヨルマさんに育てられているのにね~」

 それはどういう意味だろうか。確かに二人とも変わっているけど。

「それよりマリさん。進捗状況は? マリさんがいるってことは、怪我人でも出たの?」

「ん? いや? ちょっとね。私は生態学者の視線から、意見を求められただけだよ」

 にっこりとマリが笑う。これだけ見ていると、変人には見えないのだが。

「……でも、現れる魔物がいつも同じとは限らないよね」

「アイナ、鋭いところをついてくるねぇ。まあ、そん時はそん時だよ」

 結構適当な返答が返ってきて、アイナの方がびっくりした。まあ確かに、この城塞では何が起こるかわからないから、結構行き当たりばったりなところがあるけど。


「……なんかみんな、ピリピリしてるね」

「そうだね。まあ、仕方ないよ。こっちは境界を守らないといけないのに、戦争だーっつって、人が持ってかれてんだからね」

「……うん」


 アイナの知り合いも、何人も徴兵されていった。おそらく、大半がもう生きていないだろうし、生きていても、戦争が終わるまで戻ってこられないだろう。もともとの人口が少ないし、戦闘員から引き抜かれているのもあって、十代後半の、アイナたちの兄貴分姉貴分だった人たちもだいぶいなくなっていた。


「……マリさん、首都から来たのに結構否定的だね」

「まあね。私も追い出されてきた身だし? ……それに、ここが好きなんだよね、なんだかんだ言って」


 マリはもともと首都の出身だ。首都で、医者兼学者をしていたらしい。だが、その学会から追い出されてこの地にたどり着いた。そんなに前の話ではない。三年ほど前のことだ。

 よくわからないのだが、マリは夫を亡くし、ぶちぎれて学会に乗り込み、そして追放されたらしい。アイナに言わせれば、自分から追い出されてきたような気もするのだが。

 学会を追い出されたのだから、相当なことをしたのだと思う。だが、今ここにいるマリは変人ではあるが親切で優しくて善良な女性だ。


「たぶん私が徴兵されることはないだろうね。そう思うと、うれしいような気もするけど、代わりに誰かが行くんだろうって思ったら、申し訳なくもなるよね」

「……別に、マリさんのせいじゃないでしょ」


 アイナが言うと、マリは「そうなんだけどね」と笑う。

「まあ、心もちの問題?」

「ふうん」

 まだ子供のアイナには、難しいことはわからない。ただ、アイナも大切な人たちには生きていてほしいと思う。

「おーい、アイナー。ちょっといいかー?」

「はーい」

 アイナは呼ばれてマリの側を離れる。マリが後ろから「がんばれー」と楽しげに言うのが聞こえた。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


マリさんはマッドサイエンティストです。


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