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34.ここでは普通のこと










 グレヴィリウスたちはキラヴァーラのホテルに泊まることになった。同じくお客様であるエステルはアイナの家に泊まっているが、ちゃんとこの街にもホテルくらいはある。大都会に比べるとレベルは低いだろうが。

 一方のアイナは司令官室に来ていた。見つからないように退避していたエステルたちも一緒だ。


「お前、どう思った」


 何の話だ、と言わんばかりの問いかけであったが、アイナはちゃんと理解できた。この流れなら確実にグレヴィリウスのことだ。


「あの物体のことを聞いて軍事転用できないかと思ったんじゃないの」


 アイナが答えるとヘンリクはふっと笑って「俺と同じ考えだ」と言った。駄目だ腹立つ。


「MMM商社は表向き魔法道具製品を取り扱う商社だが、裏では軍用品を他国に流しているという話だからな。ちなみに、本社はマキラにあるが、その社員のほとんどは隣国レーゲルグレーンだ」


 さすがにエステル、詳しい。つまりあれか。レーゲルグレーンの人間がマキラに本社を構え、堂々とマキラを監視している、ということでいいのだろうか。


「まあ、五年前の戦争で魔法の有用性が証明されましたからね。俺達が動員されたのだって、魔導師を手っ取り早く調達するためだったし……」


 とまで言って、アキははっとしたようにアイナをうかがった。気にされるとこっちも気にしてしまう。何も、五年前の戦争で家族を亡くしたのはアイナだけではない。アキの兄だって、帰ってこなかった。

「魔法と言うのは驚異だが、逆に言うと魔導師が魔法を使えなくなったらただの人だからな……」

「……何故私を見ながら言うの」

 ヘンリクに向かって思いっきり顔をしかめたアイナである。いや、否定はできないのだが、ここにはメルヴィだっているのだ。アイナより魔法が使えないことを気にしている彼女がショックを受けているではないか。

「いや。お前、気をつけろよ。グレヴィリウスたちと会うときは、一人で会うな。誰か連れて行け。アントンとか」

「わかってる」

 非常に悔しいが、ヘンリクの言うとおり、魔法が使えないアイナはただの人だ。気を付けるに越したことはないだろう。

「聞かれたことから考えて、キラヴァーラのことを探ろうとしている感じもしたしね」

「……まあ、それについてはヴィエナと協議しておこう」

 たぶん、グレヴィリウスのことは町長であるヴィエナのところまで報告が行っているだろう。彼女が直々に出てくるようなことはないだろうが、同行は気にしていると思われる。


 マキラの王女エステルは、遊学としてこのキラヴァーラを訪れたが、彼女はこの先、自分が事業を行う時のことも視野に入れてここにきているのだと思う。

 異世界と接しているというのは、何も知らない人間から見ると『商売になる』と思われることが多い。今回のように、異世界から現れたものを利用できないか、と考える人が居るのだ。マリなんかがそうだが、異世界側の生物を育てているような人もいる。まあ、キラヴァーラの中でやるのならともかく、外に持ち出すのはどうかと、アイナも思う。


 持ち出すのなら、戦争の時、魔導師や戦闘員たちではなく、そうした異世界側の生物を連れて行けばよかったのだ、と思わないでもない。まあ、それができたらまたそれが商売となって軍事特需となるのだろう。面白くない。

「アイナはできるだけ小難しく話をしておけ」

「小難しくってどうするの?」

 本気で尋ねたのだが、ヘンリクから「お前本気で言ってるのか」と正気を疑っているような目で言われた。要するにいつもの調子で行け、ということらしい。アイナの説明はそんなにわかりづらいのだろうか。

「できるだけ簡潔に話してるんだけど」

「簡潔すぎてわからん。この城塞は馬鹿ばかりだぞ」

「それ、見事なブーメランだね」

 辛辣に司令官に向かって毒を吐くアイナである。そして、それを見て何故かエステルが笑う。


「いや、まるで親子みたいだなと思って」

「アイナ、顔すごいよ」


 エステルの言葉を聞いた瞬間、アイナの表情筋が死滅した。なまじ美人なので、無駄に迫力があった。

「そんなに嫌か! キラヴァーラの人間はみんな親戚みたいなものだろう!」

「……司令はあれだよ。近所のおじさんくらいの感じだよ」

「お前、そんなに司令に対して辛辣だったっけ」

 ツッコミを入れてきたのは珍しく、レイマだった。まあ、彼らがいない五年の間にいろいろあったのだ。

「とにかく、警戒態勢を敷いておけ」

 ヘンリクがアイナの頭をぐりぐりとなでながら言った。最近、と見に遠慮が亡くなってきている気がする。その分、アイナだって遠慮しないけど。


「……何となく、嫌な予感がしますね」


 メルヴィがつぶやくように言った。彼女の予知に近い第六感は魔法に基づくもので、現在はほとんど役に立たない、というのはメルヴィ自身の言だ。しかし、彼女に言われると本当にそんな気がしてくるし、実際、彼女の勘は当たっていた。
















 それから丸三日、アイナはグレヴィリウスたちに巨大物体の説明をし続けた。彼らはさりげなく他の研究にも首を突っ込もうとしたが、アイナは適当にはぐらかした。

 彼らが何をたくらんでいるかは関係ない。相手がだれでもアイナは確信に迫ることは話さなかっただろう。それ以外はちゃんと答えたはず。というか、すでに彼らの目的が巨大物体からずれてきているような気もする。


「いやあ、若いのに優秀だな、アイナ殿は」


 グレヴィリウスはにやにやと笑いながらアイナの顔をなめるように見た。彼女は自分の顔立ちが整っているという自覚はあるが、周囲に美形が多いためか、あまり自分が魅力的であるとは思っていない。中身が変人である自覚があるせいかもしれない。

「どうだろうか。私の会社で働いてみないか?」

「せっかくですが、遠慮いたします」

 アイナはこれまでも何度か会った誘いを今までと同じように断った。彼女の心情もあるが、それだけではなくアイナはこのキラヴァーラを離れない方が良いのだ。ここなら、みんなが守ってくれる。……誰から?

「……考え直すなら今のうちだ、アイナ殿。その力、もっと生かしてみたいとは思わんか」

「いや、別に」

「そうか? 今よりもいい暮らしができるぞ。ほしいものがなんでも手に入るし、美しいものだって」

「興味ありません」

「……そうか……」

 グレヴィリウスはあまり落胆した様子も見せず、淡々と言った。


「では、仕方がないな」


 この辺りは、普段後方支援であまり戦闘慣れしていないアイナである。少々の違和感を覚えただけで、動かなかった。だから当然、捕まる。

 何度も言うが、アイナは魔法が使えなければただの人である。護衛のヨルゲンにとらわれればそれまでだ。


「アイ……っ!」


 アイナの護衛についていたアントンが声を上げようとしたが、グレヴィリウスが彼を睨み付ける。

「私は彼女と話しているのだよ、少年」

 アントンもアイナが人質にとられてしまえば動けない。しかし、グレヴィリウスたちはアイナを人質にしたが、脅す対象はアントンではなくアイナだった。

「さて、アイナ殿。丁重にお連れしようと思ったが、自ら来てくれないのなら、脅して連れて行くしかないな。だが、抵抗はしないでくれたまえよ。君を傷つけたくはないのでな」

 グレヴィリウスは脅せばアイナがついていくと思っているようだ。おそらく、今までそうやって無理やり技術者たちを連れて行っていたのだろう。

 だが、ここはキラヴァーラ。いくらアイナがか弱い技術者に見えたとしても、彼女はキラヴァーラの城塞職員であった。

「それで私がついていくと思うんですか」

「騒げば撃つとしたら?」

「撃てばいいじゃないですか。あなたたちが生きてこの街を出られるとは思いませんけど」

 アイナを傷つければ、城塞の者たちが黙ってはいまい。詰んでいるのはアイナではない。グレヴィリウスたちだ。


「君が自ら行くと言えば、誰も反対はすまい」


 それはそうだ。しかし。


「そんなこと、言うはずないじゃないですか」


 つかまれた腕が痛い。ちらりと見ると、アントンはいなかった。


「うなずいておいた方が身のためだと思うが」


 アイナは子供っぽく顔を逸らした。その時。


「アイナっ!」


 名を呼ばれ、アイナは自分を捕まえているヨルゲンに関節技を決めると、わずかに出来た隙にその場から逃れた。また強く腕を引かれたが、今度はアキだったのでそのまま引きずられるように後ろに下げられた。

「大丈夫か?」

「うん。ありがとう」

 とりあえず礼を言っておく。振り返るとグレヴィリウスたち三人は城塞の戦闘員たちに囲まれ、銃や剣を向けられていた。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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