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29.魔法が使えない

8月も終わりですねー。










 いろいろ試してみたが、やはり魔法回線が遮断されているようで、アイナとカウコは魔法回線以外のシステムを使って機能回復を試みていた。様々な方向からファンの音がする。


「四番と八番の回線つないで!」

「なあ。西地区の電気、開通してないけど」

「ねえー。城塞の門、閉じちゃったんだけど~」


 さらにさまざまなことを言われてアイナはやや混乱気味である。


「ちょ、ちょっと待って! カウコ!」

「手は空きませぇん」


 無駄に腹が立ったが、どうやらカウコも忙しいらしい。まあそれはそうだ。城塞の技術者は出払っていて、数人の技術者でシステムの復旧を試みている状態なのだ。アイナだって、本来ならシステム系の技術者ではない。

 同接続してもエラーが出るので、もうシステムを再構築した方が早いのではないかと思ったが、そうすると、魔法回路が復活したときに再び調整しなければならない。というわけで、アイナは四苦八苦しながらモニターとにらめっこしていた。

「なあアイナ~。信号も止まってんだけど!」

「カウコに言ってよ。今城塞の管理システムをいじってるから!」

 アイナも叫ぶように言った。すでに頭がパンクしそうだ。

 手を伸ばしてランをつなぎ直した。すると、モニターに『クリア』の文字が浮かび上がる。すべてのシステムが正常であることを確認してから、アイナは城塞内のスピーカーにつながるマイクをオンにした。


「城塞内のシステム回復。動作確認を行い、速やかに中央管制室まで報告してください」


 それからアイナ自身もシステムの動作確認を行うために中央管制室に詰めている技術者たちに言った。

「まず、城塞の門が開くか試そう。その後、セキュリティー・システムを確認して」

「了解です」

 早速確認を行い、各方面から報告も入ってきた。問題があった個所はその都度修正していく。

「アイナぁ。終わったんならこっち手伝ってくれよ」

 ライフラインを担当しているカウコが言った。優先的に信号などは開通させたが、そのほかが間に合わないらしい。異世界側に現れた謎の物体を調べたいと思うものの、頼まれると手伝ってしまうアイナだった……。


 復旧が完全に確認されたのは夕方のことだった。昼過ぎから始めたので、早い方であるが、謎の物体の調査は明日からになった。研究者どもは「え~、夜通しでもいいからしたい」というのだが、司令からストップがかかったので、アイナはおとなしく無残な姿の第三研究所を訪れた。うん。結構な高所から機械が落ちたので、部品もかなり散らばっていたのだが、先に研究所の他のメンバーがあらかた片づけてくれたらしい。

「あ、班長。システム復旧、終わりましたか?」

「うん……片づけてくれたんだね。ありがとう」

「班長こそ、お疲れ様~」

 アイナは二人しかいな班員を見て言った。

「怪我した人は大丈夫だった?」

「大丈夫ですよー。脳震盪を起こしてるかもしれないってことで、安静を言い渡されて怒っていましたけど」

「まあ、高いところから落ちたわけだからね……」

 脳震盪かはわからないが、おとなしくしていた方がいいと、アイナも思う。

「なぞの巨大物体の解析は?」

「明日以降にやるそうだよ」

「じゃあ今日はもう解散?」

「そうだね」

 アイナがうなずくと、二人は「よかった」とうなずいた。


「魔法回路切れちゃったから、家族が心配だったんですよね~」

「つーか、班長のとこのお姫様は?」


 アイナのところにエステルが泊まっていることは、この街中の人が知っている。アイナは今の今まで忘れていたが。


「あー、城塞に来てたと思うけど、たぶん、大丈夫でしょ」


 だが、家のセキュリティー・システムが気になるので、今日のところは帰るつもりだ。名残惜しい気もするけど。


「あ、アイナ!」


 駆け寄ってきたのはラウハだ。魔工技師である彼女は、魔法鉱石の観点から巨大物体を調べるために、助手として城塞に来ていたらしい。エステルたちも一緒だ。

「アイナ、今帰り? 一緒に帰ろ」

 ラウハがにこにこして言った。アイナはうなずいてから、あら、と思った。

「フレイは?」

 エステルの護衛であるフレイの姿が見当たらなかった。ラウハがくすくすと笑い、エステルが答えた。

「タニヤとデートだ」

「ああ……なるほど」

 結局おつきあいすることになったフレイとタニヤは、デートに出かけたらしい。キラヴァーラにはデートをするような場所がない、という野暮なことは言わない。


「ちょっと様子を見に行こうかなって思ったりもしたんだけど~」


 ニナがにまにまと笑って言った。メルヴィがニナを軽く小突く。彼女が止めたのだろう。

「……とりあえず帰ろう。フレイなら大丈夫でしょ」

 これがレイマなら心配するが、フレイなら大丈夫だろう。ここで、「え、見にいかねぇの」などとほざいたレイマには蹴りを入れておいた。

「うちのセキュリティー・システムが気になるからね」

「そこに行きつくのね」

 ラウハが苦笑した。彼女はアイナと手をつなぐと「晩御飯、何がいいかな?」と言いながら歩き始めた。背後からエステルの「仲良しだな」という笑いを含んだ声が聞こえた。


 とりあえず、網膜認証と暗証番号を経て家に入る。ちょうど、お掃除ロボットが玄関を掃除していた。

「……魔法って、止まってるんじゃなかったっけ」

「家の鍵とこれは普通に機械だよ」

 ニナの不思議そうな表情に対して、アイナはそう回答した。ただ、魔法障壁用の魔法陣が効力を失っている。ラウハに協力してもらい、消えにくい刻印を魔法陣に採用したので、これは本当に魔法回路が遮断されているのだろう。

「あの物体が原因なのかな……効果範囲はどこまでだろう。そもそもどういう仕組み?」

「アイナ、ちょっと仕事から離れようぜ……」

 レイマがあくびをしながら言った。アイナは野菜を切りながら言う。

「だって、私には死活問題だし。魔法が使えなければ、私はただの小娘だし……」

「確かに死活問題ですね……」

 同意したのは同じく魔導師であるメルヴィ。もともと非戦闘員のラウハはともかく、普段魔法を多用しているアイナとメルヴィにとっては死活問題なのである。


「私、護身術程度しか使えません。姫様をお守りできないなんて……!」


 鍋をかき混ぜていたメルヴィははっとした表情になる。

「盾くらいにはなれるでしょうか」

「うえ!?」

 メルヴィの隣でムニエルを作っていたラウハがどこから出したのかわからない声をあげた。野菜をサラダボウルに移していたアイナもツッコミを入れる。


「うん、メルヴィ。ちょっと落ち着こう」


 キラヴァーラはそこまで危険ではない。


 魔法が使えなければ、機能停止するのは何もアイナたちだけではない。この街自体が、三分の一は機能停止という事態になる。

「実際のところ、セキュリティーとかどうなってんだ?」

「俺ら、寝ずの番した方がいいの?」

 フレイとレイマが不安げに尋ねる。再びアイナは冷静にツッコミを入れた。

「キラヴァーラではめったにそんな事態は起こらないよ。というか、魔法が停止しただけで、普通に保安機能は作動してる。さっき、レイマが家の周りを見回ってる時に押したボタン、セキュリティー警報だからね」

「マジで!?」

「何やってんだ、お前……」

 まったくである。不用意に押すものではない。まあ、押したくなるのはわかるが。

「魔法がないだけで、普通の生活はできるよ。まあ、街境の結界が解除されているっていうのが気にかかるけど……」

 つまり、ほぼ街全体で魔法が無効化されているということだ。明日は早めに城塞に行って調査を始めようと思った。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


アイナとメルヴィにとって、魔法が使えないことは大問題。


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