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02.キラヴァーラ城塞

本日二話目!










 キラヴァーラ城塞は国境に位置するが、単純に国の境を守っているわけではない。キラヴァーラは異世界との境目を護る城塞だった。この世界にはいくつか、魔物などの異世界の生物と思われるものが出没する場所がある。その一つがキラヴァーラなのだ。


 キラヴァーラの街に住んでいる者は、全てキラヴァーラ城塞で働く公務員、つまり軍人かその家族だ。その性質上、流れてきて居つくような人間も多いが、そう言った人たちもたいていキラヴァーラ城塞で働くことになる。


 一応、国に雇われた身であるが、このキラヴァーラはほぼ見捨てられた辺境だった。この時代に錯誤的な無法地帯と言ってもいい。この場所は、行き場のなくなった者たちが最後に行きつく場所。城塞にだって一応、指揮官はいるが、その軍人だって国から切り捨てられた者たちだ。


 それでも、キラヴァーラはうまく回っていると思う。国としても、この城塞が無くなってしまえば、異世界との境界を護るものがいなくなってしまうから、キラヴァーラのやり方に口を出してこない。


 だが、最近は国が干渉してくるようになった。何故ならば、戦争が始まったからである。いや、マキラ王国が存在する大陸のほとんどを巻き込んだこの戦争は、一年ほど前から始まっている。キラヴァーラからの徴兵が始まったのは、わりと最近だ。

 基本的に、戦争があってもキラヴァーラへの徴兵は最後なのだそうだ。と言うことは、これまでにマキラ王国では大きな被害が出ていると言うわけで。それは、ニュースなどでも多少は仕入れることができるが、戦時中は情報統制がかかるのであまり信用できない、とはヨルマの言だった。


「……だいぶ減っちゃったよねー」

「まあ、私が駆り出されるくらいだしね」


 キラヴァーラ城塞で作業を行う人々を見ながら、ペトラがため息をついた。魔法式の計算中だったアイナもその手を止めて魔法兵器の整備中の人々を見る。その中の一人はエーレスだ。

 基本的に、キラヴァーラ城塞で働けるようになるのは最低でも十五歳を過ぎてからだ。まだ十四歳のアイナが駆り出されているのは、人手が足りず、そして後方支援だからである。


「……まあ、城塞の、戦闘経験のあるやつらから徴兵されるからね。私もいつ声がかかるか……」


 ペトラがそこまで言って、はっとした様子で椅子に座っている養い子を見た。アイナは空色の目を細める。


「……そうなる前に、戦争、終わればいいのにね」


 考えた挙句に無難なことを言ったアイナに、ペトラはほっとしたようだ。「そうだね」と微笑む。


 本当の両親を知らないアイナにとって、ここまで育ててくれたペトラとヨルマは、本当の親に等しい。戦闘員であるペトラも、戦闘補助魔導師であるヨルマも、徴兵されなくたっていついなくなるかわからない。異世界からは、魔物も流れ込んでくるから。

 もう、親が恋しいと言って泣くような年ではない。だが、いなくなるかもしれないと思うと、心がギュッと締め付けられる。十五歳を超えても戦闘員にはならないであろう自分は、いつだってみんなを送り出す事しかできない。

「アイナは頭がいいからねー。本当はちゃんと大学に行かせてあげたいんだけど」

「別に、通信でも学位は取れるって、マリさんが言ってた」

 アイナは計算を再開しながら言った。ペトラは「マリがねぇ」と、キラヴァーラきっての変人の名をしみじみとつぶやく。腕のいい医師ではあるので、みんな頼っているが、確かに誰にも否定できないレベルで変人ではあると思う。


「私は、みんなと一緒にいられる方がいい」

「……そっか」


 ペトラがアイナの頭をよしよしとなでた。そこに、エーレスがやってきた。今日は作業着を着ていて、体の調子も良いようだ。

「相変わらず仲良し母娘だね。アイナ、計算終わった?」

「終わったよ」

 はい、とアイナが魔法式を入れたタブレットを渡すと、エーレスは「ありがとう」と微笑んで受け取った。ひとまず、頼まれていたことは終わりだ。


「ペトラ! ちょっと来てくれるか?」


 城塞の戦闘員に呼ばれ、ペトラが「了解」と叫んだ。ペトラはアイナに向き直る。

「私、ちょっと行ってくるね」

「うん。私、ご飯食べてくるから」

「何もないと思うけど、気を付けてね。何かされそうになったら、魔法で攻撃すんよ!」

「母さん、過激すぎ」

 この城塞でアイナに何かするような人が居るとは思えない。外から来た人などがたまにちょっかいをかけてくるが、そう言う人間は他のなじみの人たちに殴り飛ばされる。アイナは城塞に出入りする中でも幼い方に入るので、みんな過保護なのだ。


 ペトラが行ってしまったので、アイナは一人で食堂に行こうと立ち上がる。そこに、一人駆け寄ってきた。少年と言える年齢の、しかし、アイナより年上の彼。

「フレイもこっちにいたんだ」

「お前、さらっと心をえぐるようなこと言うなよ……」

 この辺りには多い金に近い茶髪に紫の瞳。黙っていればハンサムだが、しゃべると残念だと評判の少年フレイ・ラウティオラである。少し年は離れているが、そもそもキラヴァーラは総人口が少ないので、だいたいの人とは顔見知りである。フレイとは仲の良い方に入るだろう。

「食堂行くんだろ。俺もきりがいいから一緒に行く」

「そう?」

「ああ」

 うなずいたフレイに、たぶん、気を使ってくれているのだろうな、と思う。こうして手伝いにはきたが、十七歳で正式に城塞の戦闘員として登録されているフレイとは違い、アイナは正規職員ではない。というか、まだ十四歳だし。ペトラも言っていたが、誰かにちょっかいをかけられるのを警戒しているのかもしれない。前科もあるし。そう言えば、あの時助けてくれたのもフレイだったか。あれはちょっとかっこよかった。絶対に言わないけど。


「お前も、手伝いに来てくれてありがとな」

「フレイどうしたの? そんなこと言うなんて、気持ち悪いよ」

「お前、もう少し可愛い反応できねーの?」

「私に可愛げがあったら、それこそ血の海ができるね。物理的に」

「自分で言うか? と言いたいところだが、ありえない話じゃねぇからな……」


 そう言ってフレイは肩をすくめた。何しろ、前科がある。さすがに血の海はできなかったけど。


 アイナは美人だ。まだ幼さを残している顔立ちは、可愛い、と言った方がいいのかもしれないが、将来有望な顔立ちをしているのは間違いない。これで愛想までよかったら、それこそけが人が出る気がする。

「ん? フレイとアイナか?」

「何してんの?」

 たまたま通路の合流地点で行き会った二人組に声をかけられる。こちらも少年だ。年少組がちょうど食事の時間なのかもしれない。


「今から昼食に行くんだよ。つーか、レイマはともかく、アントンも一緒なんだな」


 フレイが答えた。背の高い方の少年、レイマ・ニスラは十六歳で一応正式に戦闘員として名を連ねているが、もう一人の小柄な少年アントン・カッティラコスキはアイナと同い年である。つまり、まだ戦闘員として動員される年齢ではない。

「アントンは来年になれば動員がかかるだろうってことで、一緒に訓練」

「……なるほどな」

 レイマの言葉に、フレイは目を細めた。本来なら、十五歳になったばかりですぐに実践に投入されるようなことはないのに。

「アイナも手伝いか?」

「まあね」

 レイマの問いに、アイナは素っ気なくうなずいた。おそらく、戦時中でなければアイナが手伝うようなこともなかったはずだ。そこに、アントンがぽつりと言う。

「腹減った」

「お~。そうだな。お前らも昼食何だろ。一緒に行こうぜ」

 アントンのつぶやきを拾い上げ、ニコニコしながらレイマが言った。フレイがため息をつく。

「暢気だなぁ」

「ま、悪いことじゃないんじゃないの。ねえ、私もおなかすいたんだけど」

 子供っぽくフレイのジャケットの裾を引っ張ると、彼は安心したように微笑んだ。

「わかったよ」

 ほら、行くぞ、とフレイはアイナの背を押す。その力が強くてつんのめりそうになりながら、アイナはレイマとアントンを追った。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


あ、ヒロインはマッドサイエンティスト~とか言っていますが、14歳時点ではまだ頭がいいだけの普通の子です。


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