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28.予想の斜め上

今日からアイナ視点です。











 五年前、養母が亡くなり、養父が徴兵されてからアイナ一人だったキラヴァーラのハウタニエミの家は、現在にぎやかだ。一気に住人が増えたためである。

 親友のラウハ、戦争から帰ってきたフレイとレイマ、そして、彼らが連れてきたマキラ王国の王女エステルとその従者のニナとメルヴィ。計七人だ。家だけは広いので余裕で暮らせる。そして、一人だったときは夜遅くまで城塞にいたアイナだが、最近では夕食までに帰るようになった。家に帰れば誰かがいる、というのは大きい。


 アイナの家がエステルの滞在先に選ばれたのは、アイナがちょこちょことセキュリティー・システムを追加しているからだ。試作品の実験を兼ねており、ある意味城塞よりも安全な家ではある。城塞は、どうしても異世界と面しているので、そのあたりで少し危険なのだ。

 まあ、それは良い。大勢でいるとたまに一人にしてくれ、と思うこともあるが、それでも、帰ってきたときに誰かいる、というのは良いものだと思った。

 そんなわけで、現在七名が一緒に住んでいる状態だが、みんな二十歳前後の男女だ。夕食時にはもちろん、視察に来たエステルが気になることを話したりもするが、若者らしい会話もする。例えば、今日のような恋愛系の話とか。


「タニヤはいい子だよ。あたしと同い年なんだけど、美人で頭もいいし」


 そうお勧めするラウハの斜め向かいで、レイマはため息をつく。

「まさかフレイが告白されるとは……」

 つまりは、そう言うことだ。この話題の中心人物であるフレイは顔をひきつらせている。

「だけど、俺はタニヤ? のことをほとんど知らないんだぜ」

「付き合ってみてから知っていくっていう方法もあるよ。大体、キラヴァーラに住んでたらほとんどみんな顔見知りでしょ」

「……まあ、そうだが」

 ラウハの冷静な指摘に、フレイがたじたじとなる。すると、アイナの隣で彼女の作業を見ていたニナが「でもさー」と口をはさむ。

「気持ちはわからないではないよね。フレイって結構ハンサムだし、さりげなく優しいし」

「たまに弱気ですが」

 厳しい意見はメルヴィからだ。しかし、二人の意見は同意できる。アイナの向かい側のソファに座っているエステルが尋ねてきた。

「アイナは何か言うことはないのか?」

「そうですねぇ」

 と言いながらも彼女は上の空だ。こういうあたりでマイペースだと言われるのだろう。


「まあ、フレイのことだし、自分で決めればいいんじゃないの」

「クール、というか、ドライ!」


 ニナが悲鳴のような声をあげた。彼女はそこで顔を上げる。


「他人の恋路に巻き込まれたくはないからね」


 ああ~、と納得した声が上がった。まだその前段階だが、いろいろ言いすぎてこじれるようなことになっては目も当てられない。

「参考までに、フレイはどういう女の人が好みなの?」

「どういう……?」

 ラウハに聞かれて、フレイは余計に戸惑った様子を見せた。ラウハは「普通に好みのタイプ聞いてるの」と言った。彼はやはり困っている様子だ。

「そういや、フレイからそう言う話聞いたことねぇな。何かあるだろ。ほら、アイナみたいのがいい、とか」

「いや、それはない」

 レイマのたとえに、フレイは即否定した。アイナはさすがに殴ってもいいだろうか、と思いつつ口を挟まなかった。面倒くさいし。


「……まあ、性格のいい人がいいな」


 無難な回答だ。何か言わなければ収まらない、とフレイも察したのだろう。レイマは首をかしげる。

「そうか? 俺はアイナみたいな顔、好きだけどな」

「……まあ、美人だからな」

 もちろん、レイマとフレイの会話はアイナまで届いている。それでも平常心でタイピングを行うアイナに、ニナがツッコミを入れる。

「いや、アイナ、ちょっとくらいなんかないの?」

 さすがにアイナは手を止めてニナを見た。


「面倒くさい」


 そして、またタイピングに戻る。

「アイナ……お前、協調性は覚えたほうがいいぜ」

 フレイに指摘され、なら、とばかりに言った。

「とりあえず、レイマはない」

「アイナ、俺に厳しくね!?」

 レイマが泣きそうな声で叫び、ラウハは声をあげて笑った。
















 そんなフレイがタニヤとお試しで付き合うことになったある日、キラヴァーラを不可解な現象が襲った。城塞の技術部第三研究所にいたアイナは、計器が狂った数値をたたき出していることに気が付いた。


「え、何これ」


 と、魔法回線が不可解に途切れるのがわかった。そして、背後から悲鳴と大きな落下音がした。アイナは振り返ってから「うわっ」と悲鳴を上げる。無重力空間で製作中だった魔法機械が見るも無残な姿になっているのが眼に入ったからだ。重力に引かれて落下し、壊れていた。何よりも無重力空間に浮かんで作業していた研究員たちがうずくまっている。


「みんな、大丈夫!?」


 珍しいアイナのあわてた声に、年上の部下たちは「大丈夫大丈夫」と笑う。

「それよりすまん。せっかく作った機械が……」

「いやっ、それどうでもいいから! 血が出てるから!」

「大丈夫だって。落ち着けよ」

 研究員の男性があわてるアイナの頭をポンポン叩くが、その頭からは血が流れていた……。だが、それを見て少し落ち着いてきたのも事実だ。

「みんな、まず怪我の治療が先! 壊れたものはもういいから!」

「はんちょー! 通信回線使えない~!」

 泣きそうな声はエリナだ。研究所の外に連絡を取りたくても取れないらしい。アイナは冷静に言った。

「魔法回線が切れているんだよ。通常回線に切り替えて」

「あ、あ、なるほど」

 指摘されて、エリナは回線を切りかえて無事に外と連絡をとれたらしい。アイナは落ちて壊れた魔法機械を見て、少し顔をしかめる。ちょっともったいない、と思ってしまった。


「班長、班長! 何か、城塞全体で魔法回線が切れているみたいです。あと、異世界側になぞの巨大物体が現れたそうでぇ」


 エリナが間延びした声で言うことを聞いたアイナは、研究所内の様子を確認して問題なさそうだと判断すると、そこを飛び出した。階段を駆け上がるが、アイナは体力がないのですぐに息が上がった。しかし、何とか屋上まで到着する。


 城塞の上は、すでに人でいっぱいだった。さほど背が高くないアイナは「ちょっとごめん」と人をかき分けて異世界側を覗き込んだ。アイナに気付いた城塞の職員たちは、彼女のために少し場所を空けてくれた。


「……何、あれ」


 エリナが言っていた通り、なぞの巨大物体である。全体的に黒く光っており、形はいびつでまるで岩のようだ。この城塞がだいたい二十五メートルほどの高さ。その三分の一くらいまで来ているので、その物体の高さ的には七~八メートルと言ったところか。かなりの大きさである。

「……どうやって運んできたんだろ……」

 アイナがつぶやいた時、彼女の名が呼ばれていることに気が付いた。アイナは「はい!」と返事をする。小柄ではないが大柄でもないアイナは、人ごみに埋もれていたが、気を利かせた周囲が場所を空けてくれた。この城塞の身内感はすごいと思う。

 やってきたのはカウコだった。彼は散々変人と言われているが、城塞の中ではまだわりと常識がある方である。と思っていたが、この興奮具合を見ているとやっぱり変人だったのだな、と思う。セルマは彼のどこにときめいたのだろうか。

「アイナ。今からあの物体を調べに行くぞ。動かせそうなら城塞内に動かすが……無理なら、近くに解析本部を置く。お前も手伝ってくれ」

「あ、ホント? うれしい」

 ここで喜んでしまうあたり、アイナも変だと言われるゆえんである。だが、単純にあの物体が何なのか興味がある。


「あー、二人とも。テンションが高いところ申し訳ないが、その前にやってもらいたいことがある」


 再び声をかけられ、アイナとカウコはそちらを見た。今度やってきたのは、同じく様子を見に来たのであろう、ヘンリクだった。きょとんとした二人に、ヘンリクは颯爽と笑った。


「まずは、この城塞と街のシステムを復旧させてくれ」


 キラヴァーラの街と城塞は、魔法と科学で構成されている。その一方が遮断されてしまったので、機能が停止していることを忘れていた。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


やっぱりアイナちゃん視点だと書きやすい……。


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