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26.協力して退治












「……なんか既視感のあるでっかい蟷螂だねぇ」


 みんなが思っていたことを、さらりとラウハが言った。どこぞで見たような巨大蟷螂が拘束から逃れようと暴れた。アイナが作り出した拘束用の槍は地面と連結しているが、細いのですでに折れそうである。

 アイナがさらに別の魔法を構築する。今度は攻撃を目的としておらず、結界だ。緻密に織り上げる韻律結界である。音を使った魔法は、昔からアイナが得意とするところだった。

「エリナ。大丈夫?」

「え、うん! 大丈夫!」

 フレイに助け起こされていたエリナは飛び上がってうなずいた。声をかけたアイナは、エリナのその奇矯な行動にも驚かず、冷静に声をかける。むしろ、フレイの方が驚いた。


「増援呼んでくれる? よく考えたら私、戦闘魔導師じゃないし」


 いや、よく考えなくてもお前は研究員だ、と思ったが、普通に戦えているのでびみょなところかもしれないとも思う。


「確かマリさんが研究してたよね。あの人なら喜んで飛んでくるでしょ」


 さすがはアイナ、言うことが結構ひどい。確かにまあ、喜んでやってくるような気がするけど。

 どうやら、エステルたちは危ないということで降りてこられないようだ。上の方の窓から覗いているのが見えた。

 ついでに生徒たちが運動場に降りてきた。ヘリュやフレイが下がるように声を張り上げるが、アイナとエリナはわれ関せずとばかりに蟷螂の観察中だ。

「前に現れたのと同じなのかなぁ」

「どうだろうね。前のやつは傀儡だったけど」

 ちなみに、雪が降った時に現れた巨大蟷螂は、アイナが崩れたものをさらに分解して調べたらしい。


 傀儡と言うことは、誰かが操っていたということだろうか。フレイは考えながら、生徒たちに押されて倒れそうになった女生徒を支えた。

「大丈夫か?」

「は、はい……」

 女生徒はパッと頬を染めてフレイから離れて行った。そう。さがっていた方が安全だ。マッドサイエンティスト二人が何をやらかすかわからないので。


 とはいえ、アイナが韻律結界で巨大蟷螂を覆ってしまったため、やることはない。アイナが構成した魔法は強力で、蟷螂が多少暴れても壊れることはなかった。

「アイナ! 来たよー!」

 テンション高くやってきたのはマリだ。その護衛だろうか。アントンも一緒であった。マリは杖をつき、足を少し引きずりながら歩いてくる。アントンはちらちらとマリの様子を見て転ばないように注意して見ているようだった。

「マリさん」

「またでっかい蟷螂だねぇ。前のやつ、結局アイナがばらしたんだっけ?」

 確認のためにマリがアイナに状況を尋ねた。アイナがうなずく。

「まあね。魔法刻印を調べたけど、なかったから自然発生したものだと思うけど、こいつはたぶん違うね」

「誰かが召喚したってこと?」

「おそらく。下の魔法陣も、召喚魔法の魔法陣を基礎としているみたいだから」

「おお、そう言えばあるね、魔法陣」

 今更、言われてから気が付いたらしい。本当にマリは生物のことに興味が強いのだな、と感じた。

「どう思う? 倒しても大丈夫そう?」

「いやー、倒すのは大丈夫だと思うよ。サンプルちょうだいね」

「好きなだけ持っていきなよ……」

 アイナがちょっと呆れた調子で言ったが、アイナもマリに負けずにマッドサイエンティストだと思ったフレイである。


「そう言えば、戦闘員も派遣してほしかったんだけど」


 アイナがアントンと目を見合わせて言った。アントンが首をかしげる。

「俺と、こっちのメンバーで何とかしろってさ」

「なんか、今朝の鎌きりの襲撃事件で大変みたいよ」

 マリも補足情報をくれた。そう言えば、そもそも蟷螂が大量に飛んできたのが今朝の始まりであった……。

「そう言えば、そちらの状況はどうなっているんですか?」

 ついでとばかりにヘリュが尋ねた。


「小さすぎて、異世界からの侵入を防ぎきれなかったみたいよ。いま、魔導師や戦闘員たちを派遣して、一匹ずつ人海戦術でつぶしているところ」


 マリの言葉に、気の遠くなるような作業をしているのだな、と思った。それに比べれば、巨大蟷螂一匹くらい。

「フレイ、手伝って」

 アイナがフレイを手招きした。どうやら彼も戦闘力の一人として数えられているらしかった。フレイは立ち上がるとアイナの側による。

「フレイ、指揮はとれる?」

「……取れなくはないが、何故俺」

「いや、消去法で」

「いちいち腹立つな、お前」

 ちょっと腹が立ったのでフレイはアイナの頭をぐりぐりとなでた。結構痛いはずだ。


「アイナが指揮官でいいでしょ。あんた、魔法支援になるんだし、できるでしょ」


 マリが容赦なく言った。確かに、前の方に出てしまうフレイより、後ろに下がっているアイナの方が全体をよく見られるだろう。アイナ本人は「ええ……」と嫌そうだが。

「押し付けないの。できるでしょ」

「……まあ、できなくはないけど」

 少しむくれたようにアイナが言った。マリは「そう言うところはまだ子供よねぇ」とにこにこして言った。

「じゃあ決まり。フレイ、アントン、イルッカも手伝ってね。三人で前衛をお願い。私、エリナ、アイナの三人で魔法支援。ラウハとヘリュは下がってなさいねぇ」

「俺らも手伝うぞ~」

 そう言ってやってきたのは、レイマとニナだ。どうやら、エステルが戦力増強のために送り出してくれたようだが……アイナとマリが目を見合わせる。

「手伝うつもりがあるなら、私の指示に従ってよ」

「従うよ!」

 ニナが手をあげて主張した。アイナは「違う違う」と首を左右に振る。

「ニナについては心配してないよ。レイマだよ」

「くそ、お前……魔獣見て震えてたくせに……!」

 レイマがアイナの腹の立つ物言いにそう言い返した。アイナは「いつの話してるの」と呆れたように言う。だが、すぐに切り替えたようだ。


「急場作りだからね。戦闘員も指揮官も慣れてない。だから、早急に片づけたい……あ」


 アイナが巨大蟷螂の方を見た。つられてみんながそちらを見る。

「結界、もう持たない」

「班長~!」

「あと何分?」

 泣きそうなエリナに、冷静に尋ねるマリ。アイナはマリの方に答えて「あと一分」と落ち着いた声で答えた。

「一分かよ! どうすんだよ!」

 そう言いながらフレイは自己判断で巨大蟷螂の方に走って行った。アントン、レイマも続く。

「ニナも行くぞ!」

「了解!」

 ニナに声をかけたのはイルッカだった。アイナは結界が破られる前に自分から韻律結界を解除した。

「エリナはさがって! 校舎の保護をお願い!」

「了解です!」

 エリナがヘリュとラウハと共にさがり、結界を編み上げはじめた。巨大蟷螂は鎌を振り下ろして運動場の地面にひびを入れる。


「フレイ! レイマ! どこでもいいから足を切って、バランスを崩させて! アントンは上から、体勢を崩したところを狙って! イルッカとニナはできれば鎌を斬り落として!」


 フレイとレイマは同時に動く。同じ蟷螂の右側にいた彼らは、右側の足を二本きり落とした。簡単に近づけたのは、アイナとマリが魔法で一瞬蟷螂の動きを止めてくれたからだ。一瞬だったので、すぐに離れなければならなかったけど。

 アントンが身軽に飛び上がる。イルッカとニナが言われたとおりに鎌を切り裂いた。ニナは失敗したが、すかさずレイマがフォローに入った。アントンは首を落とそうとしたが、巨大蟷螂が動いたので失敗した。


「ちっ。ごめん、アイナ、失敗した!」


 アントンが落下しながら言った。それでも鎌と足を失った蟷螂は、自立することが不可能で、腹ばいで暴れている。


「全員離れて~。巻き込まれるよ~」


 マリの緊張感のない声が飛んできた。巨大蟷螂の上に、巨大な魔法陣が……魔法陣、が……。


 フレイはあわてて距離をとった。心得ているのか、アントンとイルッカはニナを回収する余裕っぷり。そう言えばこの二人、ここ二・三年はアイナとチームを組んでいる、という話だったか。

 鋭い凶器となった氷の矢が蟷螂に降り注いだ。アイナがエリナに校舎を守らせたのは、流れ矢にあたるのを防ぐためだろう。


「お前……一人で片づけられたんじゃないか?」


 フレイが呆れて言うと、アイナは「それは無理」と首を左右に振った。


「私の反応速度じゃ、動きを追いきれない」


 アイナは運動神経が悪いわけではないが、普通だ。魔法発動のタイムラグもあってアイナでは動く対象物を追うのは難しい。できなくはないが、あるものは利用するのがアイナだ。その方が確率が高い、というのもある。

「これ、どうすんの?」

 ニナが首をかしげて尋ねた。マリがゴム手袋をはめて言った。

「解剖!」

「マリさん、今ので足痛むでしょ。やめてよ」

 アイナがマリの肩を後ろから押さえて止めた。言われてみれば、マリはいつもより足の引きずり方が大きかった。

「一部を城塞に送るから、そこで解剖して。エリナ! 魔法陣の写真は撮った?」

「撮ったよ!」

 エリナが任せて、とばかりに言った。アイナはマリを近くにいたレイマに預ける。

「じゃあエリナ。魔法陣を解体して、私たちも城塞に行こう」

「え、でも、班長お姫様の護衛は?」

「あー、うん。どうなんだろう」

 マイペースなアイナは、言われてから初めて気づいたようだ。ヘリュを振り返る。

「その辺どうなの?」

「私に聞かれても困るんだけど」

 確かに。ヘリュはただの町長秘書だ。

「そもそも私が護衛の役に立つのかもわからないよね」

 アイナは後方支援としては優秀だが、確かに護衛として役に立てるかというと、微妙かもしれない……。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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