表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/51

25.出現したもの










 なんだかんだで六人全員で学校まで来てしまった。キラヴァーラの学校は、初等部から高等部までが同じ敷地内にある。その方が面倒がないからだ。総人口の少ない街だ。必然、生徒の数も少ない。まあ、高等部になると少し人数が多かったりするが。外から流れてきた子が入学する事例もあるので。


「あ、みなさん、おはよー」

「おはようございます、姫様、みなさん」


 学校前で出迎えてくれたのはエルノとヘリュだった。どうやら、ヴィエナが二人を遣わせたらしい。


「おはよう、二人とも。……えっと。蟷螂が大量発生したけど、学校は普通にやっているんだな?」


 明らかに通常授業中の校内の教室を窓からちらりと見て、エステルは戸惑い気味に言った。エルノが「あはは」と笑う。

「そんな、蟷螂が出たくらいで学校が休みになるはずないじゃないですか。雨が降ったからって学校が休みにならないというのと同じですよ」

「そ、そうなのか?」

「キラヴァーラでの認識としては、大きく間違っていませんよ」

 ヘリュがニコリと笑って戸惑うエステルに言った。そう。これくらいの異常現象ではキラヴァーラは通常運営を離れない。

「ですがまあ、今回アイナに来てもらったのは、蟷螂以外にも問題があるわけで。私はそっちを案内するから、エルノは姫様たちをお願いね」

「はいっ」

 エルノが大きくうなずく。卒業したばかりのエルノは、学校案内にうってつけだろう。


「じゃあ、行きましょう!」


 エルノがそう言って歩き出そうとすると、ヘリュが「あ、もう一つ」と声を上げる。


「もう一人こっちに来てもらえる? フレイ、お願い。後は姫様の方についていってもらっていいから」


 と、勝手に指名されるフレイ。仕方がないので、フレイはアイナと共にのこり、エステルたちを見送った。

「さて、行きましょうか」

 ヘリュがついてくるように身振りして、アイナとフレイを呼ぶ。アイナはためらわずについていったが、フレイは一度エステルたちが向かった方を振り返ってからそれに続いた。

 連れて行かれたのは校庭だった。昔授業などで使った覚えがあるが、その校庭に不可思議な模様がえがかれていた。

「何だこりゃ」

「見なれない魔法陣だね」

 フレイの感想とアイナの感想は違っていた。アイナの言葉で、フレイは「ああ、魔法陣なのか」と気づいたくらいだった。


「今朝方、突然校庭に現れたそうよ。原因は不明。これが現れた後に、あの蟷螂たちが集団でやってきたことはわかってるけど」


 と、ヘリュが簡単に説明してくれた。アイナは「ふうん」とうなずき、首をかしげる。

「念写かな」

「それを調べるのがアイナの仕事でしょ」

「うん……そうだね……」

 そう言いながらアイナは魔法陣のまわりを歩きはじめた。直系十メートルはあると思われるその魔法陣は、人の手で描いたのなら正確すぎる真円だった。

「つーか、俺、いらなくね?」

「かといって、私とアイナだけにしてどうするの? アイナはともかく、私はほとんど戦闘力がないのよ。何かあったらどうするのよ」

 ヘリュに真剣に言われ、フレイは自分がアイナ、というよりヘリュの護衛であることに気付いた。魔法陣を一周してきたアイナが戻ってきた。ヘリュが勢い込んで尋ねる。


「どう?」

「魔法陣は召喚系の魔法陣みたいだけど、もう少し調べてみないと……」


 そう言いながらアイナは携帯端末の電源を入れた。電話に出ないことに定評がある彼女だが、出ないのは電源を切っているかららしい。電源を入れた瞬間、アイナの携帯端末が着信音をあげた。


「おおっ?」


 悲鳴を上げながらもアイナは一応、通話に出ることにしたらしい。

「はい。ああ、エリナ。……うん、ああ、今は高校の校庭。そう、そう。カウコに聞いてない? ……うん、……それはそっちで何とかして。それで、お願いなんだけど。いや、一応こっちも町長の依頼受けて動いてるから」

 そう言ってアイナは電話の相手のエリナと言う人に人を派遣してほしいということと、必要な機材を伝えた。それから通話を切ると、また別の電話がかかってくる。アイナは容赦なく電源を切った。

「お前……本当に電源切ってるんだな……」

「良くわからないけど、切っとかないと鳴り止まないし」

 しれっと悪びれる様子もなくアイナは言った。しかし、まあ、ずっとなり続いていたら生活に支障が出るのは確かだろう。たぶん、アイナがなんでもそつなく解決してしまうので、みんな、頼ってくるのだ。


 まあ、電源が入っていて着信があろうがなかろうが、出ることもあるし出ないこともある。それがアイナだ。フレイがいない間に、マイペースぶりに拍車がかかっている気がした。

 フレイとヘリュが時々話をしながらアイナの調査を見ていると、彼女が依頼したものが届いた。

「はんちょー!」

「あ、エリナ。君が来たんだ」

 テンションの高い女性魔導師に比べ、アイナはいつも通りだった。この辺りが、彼女がマイペースだと言われる原因だろうな、とフレイは妙に納得する。

「頼まれたもの、持ってきたよ! 魔力測定器と波動解析機、あと、小型の遠心分離器」

「ありがと」

 最後の、遠心分離機は何に使うのだろう。


「それと、優秀な解析官はここね!」


 と、エリナはどん、と自分の胸をたたいた。彼女は二十代半ば。フレイも五年前から知っている女性で、この国では珍しい部類に入る栗毛の女性だ。アイナで見なれているが、美人なのに振る舞いが残念な女性である。

「……ライモに来てほしかったんだけど」

「そんなぁ! ひっどぉい!」

 せっかく来てあげたのに! 忙しいのよ! とむくれるエリナに、アイナは笑った。

「ごめんごめん。ちょっとふざけてみただけだよ」

 マイペースかと思ったら妙なところで協調性があったりするから困る。見ている分には面白いのだが、巻き込まれると振り回されるのである。


 アイナとエリナはそろって魔法陣の解析を始めた。アイナは普通のテンションでマッドサイエンティストだが、エリナは目で見てわかるくらいマッドサイエンティストだった。測定器を持って飛び跳ねている。

「あはっ! 魔力を感知! でも、大したことないね~」

「波動については異世界側から流れてくるものと似てるね」

 アイナが魔法陣に直接触れようとして、その手首をヘリュがつかんだ。

「待った! なんで素手で触ろうとするのよ! 何かあったらどうするの!」

「……石灰を溶かして遠心分離機にかけたかったんだけど……」

 遠心分離機って、そうやって使うものだっただろうか。とりあえず、フレイは口をはさめないので黙って見ている。


 チャイムが鳴り、休み時間になったようで、校舎の窓から生徒たちが校庭を覗き込んでいる。エリナは生徒たちに手を振ったが、アイナはわれ関せずという風に何やら計算を始めた。魔法陣の魔法構築式を計算しているのだろう。レポート用紙に数式を書き込みながら、魔法陣のまわりを歩きはじめる。

「……アイナ、本当に変人なんだな」

「久々にしゃべったと思ったらひどいわね。まあ、否定しないけど」

 ヘリュも結構ひどい。アイナに対してもフレイに対しても。


 計算を終えたらしいアイナと、計測を終えたエリナが何やらな話混んでいる。二人の会話から察するに、やはり、召喚魔法陣に近いらしい。

 アイナも言っていたが、魔法陣を描いているのは石灰だ。学校で、運動場などに線を引くときに使うあれである。しばらく魔法陣を見つめていたアイナは、おもむろにその魔法陣の一角を足でこすって消した。

 その瞬間、魔法陣から魔力があふれ出す。フレイはヘリュをかばうように前に出た。


「どひゃー! すごぉい!」


 飛び跳ねるエリナだが、風圧に押されてこけた。一番魔法陣の近くにいるアイナはというと、目を見開いてその現象を見つめていた。


「おい! アイナ! お前、いい加減にしとけよ!」


 フレイが大声で叫ぶ。アイナの視線がゆっくりとフレイたちの方を向き、それから手を前に差し出した。フレイの目にも、高速で魔法が構築されていくのが見て取れた。

 練り上げられた網のようなものが、魔法陣全体を覆う。ゆっくりと魔力をおしこめていったアイナの魔法だが、全てを覆い尽くすその間際、獣の咆哮が聞こえた。


「!」


 地面から鋭く、長い槍が突き出した。魔法陣から召喚された生き物を出られないように拘束してしまう。フレイとヘリュはアイナとエリナに駆け寄る。フレイはとりあえず、エリナを助け起こした。

「何々? どういうこと?」

 ヘリュが早口でアイナに尋ねた。しかし、この状況でもマイペースなアイナは首をかしげる。

「さあ……」

「アイナ~!」

「今のなんだ!?」

 やってきたのはラウハとイルッカ。学生服を着たこの二人だが、どうやら、勉強が手につかなくなったらしかった。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


アイナは主張の少ないマッドサイエンティストを目指しています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ