23.一応解決?
キラヴァーラの街境に来ていた。フレイたちは昨日、城塞の方にいたので他の町に面している方の状況は知らなかったが、昨日の時点ではキラヴァーラまでしか雪がなかったらしい。しかし、今は街を出たところの道まで白銀の世界である。もちろん寒い。特に、何もしていないフレイは。
「アイナ、こっち、計算終わったぞ」
「じゃあそれ、メルヴィに渡して。メルヴィは五番の魔法陣をお願い」
「わかりました。任せてください」
気合十分にメルヴィがうなずいた。首都の魔法と違う、この辺り独自の魔法であるが、アイナの教え方がうまいのかメルヴィのセンスがいいのか、メルヴィンはあっさりと習得してしまったため、こうして結界構築に協力している。
「ねえフレイ。フレイって結界魔法って使えたっけ」
唐突に尋ねられて、少し返答に迷う。フレイは少し考えてから答えた。
「使えなくはないが……俺は超能力型の魔導師だからな」
「そっか。じゃあやっぱりそこで見てて」
アイナがあっさりとそう言った。たぶん、使える、と言ったら彼も巻き込むつもりだったのだろう。だが、残念ながらフレイは緻密な計算に基づく結界魔法などは苦手だった。
アイナに悪気がないのはわかっているが、ああもはっきり言われるとちょっと傷つく。フレイはこっそりため息をついた。
準備が整い、アイナが中核となる一番の魔法陣に入った。八芒星を描く大きな魔法陣の頂点に一人ずつ魔導師が入る。ここだけでなく、キラヴァーラ周辺の他の場所でも同じことが行われているはずだった。同時進行で外と魔法的に隔絶する結界を張るためである。アイナが時計を見てカウントダウンを始める。
「あと一分。……………三十秒。…………十、九、八、七、六、五、四、三、二、一」
一斉に魔法が展開した。それぞれが構築した魔法式が魔法陣で一つにまとめられ、キラヴァーラを囲む結界を形成していく。他の場所からも同じような気配がして、結界が次第にすべてつながる。つながったのを確認し、固定してからアイナたちは魔法陣を出た。
「この結界、異常気象が片付いてもそのままなのですか?」
「うーん。司令の考えにもよるけど、たぶん解除になると思うよ」
道具を片づけながら、アイナがメルヴィの問いに答えた。魔導師たちがいなくなっても、結界を固定したので、魔法陣はまだ動き続けている。魔導師がいなくても、魔法陣さえあれば魔法は継続し続ける。
「悪いけど、ここに残って外の雪が融けたら連絡くれる?」
「了解。でもアイナ、電話に出てくれよな」
「わかってるよ」
アイナが電話に出ないことは、城塞内では有名らしかった。このまま三人は城塞に向かう。エステルたちも朝食の後にこちらに来る、と言っていたのだが、城塞の方にそのまま向かうように頼んでおいたのだ。彼女の護衛としては、合流しなければならないところだ。
「姫様はともかく、ニナが心配です」
と、メルヴィは言った。というか、メンバー的に心配である。まあ、家の前で合流するアキがしっかりしているから大丈夫だとは思うが。
城塞までは、城塞が持っている装甲車で向かった。別に危険があるから装甲車なわけではなく、単純に悪路でも走ることができるので、雪道を走る今、装甲車を採用したのだった。
ほどなくして城塞にたどり着くと、エステルが駆け寄ってきた。
「メルヴィ、フレイ、アイナ。どうだった?」
三人に尋ねたが、答えたのはアイナだった。
「まだわからない。外側の結界の結果が出次第、次の対応を決めます」
「アイナ! 解析結果でてるけど、いるか?」
「いる」
カウコがやってきてアイナに端末を渡した。二人はそれを覗き込みながら何か話し込んでいるが、フレイにはさっぱり理解できなかった。
またも城壁の上に上る。相変わらず、この辺りはよく雪が積もっていた。
「あの巨大蟷螂は?」
ニナが異世界側を覗き込んで尋ねた。ラウハが「マリさんが解析中らしいよ」と答える。それから、彼女はアイナに尋ねた。
「結局あれって生き物なの?」
「さあ……どうなんだろうね」
それどころではないアイナの返答は生返事であった。たぶん、彼女にもわからないのだろう。
アイナの端末が電子音を鳴らした。彼女が電話に出る。いくつか報告を受けてうなずくと、声をあげた。
「外の町との遮断がうまくいったらしいよ。このまま異世界側に冷気を閉じ込めるから、作業を始めて」
了解、とちらほら声が上がった。声を張り上げたわけではなかったが、彼女の声はよく通る。メルヴィが目をキラキラさせて言った。
「また手伝わせてもらってもいいですか?」
「こちらとしては助かるけど……」
「ではぜひ。こちらの魔法は緻密で、とても勉強になります」
「そ、そう」
アイナがメルヴィの熱意に引き気味だ。そんな二人の魔導師を見つめながら、レイマがつぶやいた。
「俺ら、いてもできることなくね?」
「同感」
アキとフレイの返答もかぶった。だが、エステルが見学する気満々なので、もうしばらくこの寒い場所にいなければならないことは確実だった。
△
結界を張ると、二日ほどかけてキラヴァーラにも夏が戻ってきた。完全に異世界側に冷気を追い込めたら、結界を解除するらしい。キラヴァーラと外の町を分けていた結界は既に解除されている。いつまでもあると不便だからだ。
一度冬を経験してからすぐに夏になると、暑い。これでもマキラ王国の首都に比べたら全然涼しいのだが。
一方の問題が解決すると、また問題が持ち上がってくるものだが、今、問題に直面しているのはイルッカだった。
「宿題、終わらねぇ!」
「夏休み中に毎日少しずつやれば終わる量だよー」
同じく高校生であるラウハが笑ってイルッカに指摘出しをした。ラウハはイルッカより一つ学年が上で、どう考えても彼女の方が宿題が多いのに、彼女は既にすべて終わっているらしい。なので、ラウハの言うことが正しいのだろう。たぶん。
「イルッカ。単純な問題集よりも先に、作文とか書いた方がいいよ」
ラウハが助言をする。最悪、問題集は答えを写せばいいが、作文はそうはいかない。
「わかった……」
「創作系の宿題って他になにがあるんだ?」
フレイが尋ねると、イルッカは宿題リストを見る。ちなみに、ここは城塞のカフェテリアで、宿題をしているイルッカにエステルが興味を持って声をかけたのだ。アイナとメルヴィは結界解除後に問題がないか確認しているし、レイマはメルヴィの護衛として一応ついていった。
「あとは、絵と……自由研究」
「うわぁ。自由研究ってまだやってんのか」
レイマが嫌そうに言った。そう言えば、彼も自由研究に苦労しているタイプだった。確かに彼は、自由研究の課題に苦労していた気がする。フレイは魔法研究や植物の観察日記などで済ませていたけど。
「ま、そうやって学校の宿題で悩めるっていうのは贅沢なことだぜ。俺らは中退しないといけなかったからな」
フレイはそう言ってイルッカの頭を軽くたたいた。高等学校の生徒だった時代に招集がかかったフレイやレイマは、学校を中退して戦場に行かざるを得なかった。それを思い出せば、今、イルッカが夏休みの宿題が終わらないと騒いでいるのは、とても幸せなことなのだ。
「……なんか、そう言うのずるい」
「大人はずるいもんだぜ」
ニヤッと笑うフレイだが、彼は自分がそれほど大人だとは思っていなかった。二十二歳の彼だが、昔はこれくらいの年の兄さん、姉さんたちがとても大人に見えていたのに、実際に自分がその年になると、その兄さん、姉さんたちはとてもしっかりしていたのだな、と思うのだ。
それに、エステルに拾われて必要に迫られて必死に勉強したことは、言わないでおこうと思った。
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