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22.電話は切らないでください









 その日、アイナは帰ってきた。ラウハに言わしめて「珍しい!」とのことだった。アイナは夢中になるようなことがあると、他が気にならなくなるタイプの人間なのだ。


「さすがに自分の家に客人たちだけで泊まらせたりしないよ。よほどのことがなければね」


 アイナは苦笑気味にそう言った。まあ、確かにそうか。信用していない、ということではなく、フレイたち泊まっている側が居づらいだろう、という配慮だろう。それでアイナが帰ってくるのならば、フレイたちも泊まっているかいがあるというものだ。


「アイナ、夕食いる? 夏だけど冬だからグラタンにしてみたんだけど。すぐにあっためられるよ」


 アイナの帰宅時間が少し遅かったため、夕食は既に終わっていた。ラウハが皿洗いをしながら尋ねるが、アイナは首を左右に振った。

「いい。そんなにおなかすいてないし」

「何か食べたの? また栄養失調で倒れるよー」

「一応サンドイッチくらいは食べたけど」

「何時?」

「……何時?」

 さすがにフレイもこいつ大丈夫だろうか、と思った。放っておいたら餓死してしまうのではないだろうか。

「おい、アイナ。食っといたほうがいいんじゃね? どうせ、昼もろくに食ってないんだろ」

「フレイ、うるさい」

「親切心で言ってんだろ!」

 邪険にされたフレイは思わず言い返した。ラウハが楽しげに笑う。

「なんか懐かしいよね。じゃあ、グラタンあっためてるから、アイナは着替えてきなよ」

「……そうする」

 ラウハにより、アイナは夕食をちゃんと取ることになった。遅いと言っても、夕食をとるのに不自然な時間ではない。戻ってきて温められたグラタンを食すアイナに、エステルが尋ねる。


「この雪は一体何なんだ?」

「今のところ、魔法的要素は何も確認されていません」


 どうやら、アイナはこれまでこの降雪が魔法によるものかどうかを調べていたらしい。エステルが首をかしげる。

「では、どうしてこの夏に雪が?」

「今のところ、異世界から流れ込んできたというのが有力ですね。まあ、明日になればはっきりしますよ。異世界から流れ込んできたなら、隣町にまで広がるでしょうから」

 ざっくりしていた。まあ、キラヴァーラの近所の町も、たまに異世界からの産物が届くので、ここほどでないが怪奇現象のようなものには慣れているはずだ。数日中に、城塞のものが何とかしてしまうので。


「もし、異世界から流れ込んできたものだとなれば、どうするのです?」


 メルヴィに尋ねられ、アイナは少し間を置いてから答えた。

「……まず、キラヴァーラの外に出てしまったものを、街の中に閉じ込め直す作業をする。それから異世界との境界の結界を張り直す。そうすれば、キラヴァーラの気候は徐々に夏に戻っていく……はず」

「最後」

 ラウハがツッコミを入れた。ちなみに、アイナのグラタンはあまり減っていない。おなかがすいていない、というのは事実らしい。


「異世界に関してはわからないことが多すぎるんだ。こればっかりは試してみるしかないからね」


 古いシステムに新しいものを組み込むのは得意だから任せて、というのがアイナの主張だった。結界のことだろう。結界は古くからキラヴァーラを守っているもので、古い魔法で作られている。そのため、新しく張りなおそうとするとその外側に張り直すか、古い魔法に手を入れるしかない。聞いたところによると、アイナは古い魔法を修正するのが得意らしい。


「それ、よろしければ私も参加させていただけませんか」


 身を乗り出して、メルヴィが頼み込んだ。アイナはちょっと引き気味に言う。

「……魔導師長の許可がいるけど、断られないと思うよ」

「それは何よりです。よろしくお願いいたします」

「まだ確定じゃないんだけどね……」

 アイナはそう言ったが、おそらく、メルヴィの参加をことわられることはないだろう。アイナも言っていたが、それが本当に異世界から流れ込んでいるだけなら、だけれど。

「メルヴィは何の魔法が得意なの?」

「攻撃魔法です」

「そ、そう」

 アイナが少し引き気味に言った。見たことがあるが、メルヴィの攻撃魔法の威力はかなりのものである。アイナは器用なタイプだが、メルヴィはこの見た目で大威力でぶっ放すタイプなのだ。


「魔物でも攻めてきたときに、戦力になるかもね……」


 反応に困った末に言った言葉に反応したのはニナだった。はいっ、と手を上げる。


「何それ、あたしも参加したい! っていうか、城塞の訓練うけてみたい!」

「それ、私に言ってもしかたないんだけど」


 アイナが冷静にツッコミを入れた。結局、グラタンは半分近く残していて、ラウハがぷりぷり怒っていた。


 翌日、異常気象の原因が判明した。朝っぱらからアイナは携帯端末片手に家の中をうろうろしている。

「うん、うん、わかった。今から行くから……は? 私の机の下にない? おかしいなぁ……なら、第二倉庫から調達してきて。私はそのまま街境界に向かうから。……うん。それじゃあまたあとで」

 アイナが端末を切った。その瞬間、別の電話がかかってくる。アイナは顔をひきつらせながら再び出た。

「はい、アイナです……。何それ、切るよ」

 そう言って本当に切った。かつ、電源を落とした。エステルが苦笑気味に「大変だな」と言った。

「本当は私の管轄外なんだけど……」

「それでもやるんだよね、お人よしだよねぇ、アイナ」

「そんなんじゃない」

 ラウハのからかいに、アイナはつんとして言った。たまに、こいつ、猫みたいだと思う。

「ま、いいんじゃねぇの。頼りにされてるってことだろ」

「そーそー。俺なんて、荷運びくらいしかできねぇって言われたし」

 フレイとレイマがそれぞれ言った。というか、レイマの励まし方。しかも、それを言ったのは。

「それ、言ったの、私だよ」

「え、マジで? お前ひどくねぇ?」

「文句は三角関数を理解してからにしてよね」

「何それ、関数の一種?」

 アイナが呆れてため息をついた。フレイは笑って朝食のベーグルサンドをほおばった。


 家の電話が鳴った。ちょうどコーヒーを飲んでいたアイナがむせる。げほげほと咳き込むので、ラウハが代わりに電話に出た。

「……回線切ろうかな……」

「それはやめてやれや……」

 ニナに背中をさすられているアイナのうんざり気味の言葉に、さすがにないわ、と思ってフレイはそう言った。が、そのうち本当に回線がきられるかもしれないな、と思った。

 咳き込みながらも食事を終えたアイナに、ラウハが声をかける。

「アイナ~。司令からだけど、どうする?」

「今から出るから、切って」

 アイナ、司令官相手にも遠慮なし。ラウハはそのまま伝えると、電話を切った。

「アイナ、端末の電源は入れておけって」

「鳴り止まないんだけど……」

 アイナが戸惑ったように言った。どれだけの人数が電話をかけているのか。レイマが首をかしげる。

「アイナ、そんなに偉いのか?」

「偉いっていうか、結構なんでもできるから、何が起こってもお呼びがかかるんだよね」

 ラウハの誇らしげな口調に、アイナは「迷惑な話だよね」と言いながらコートを着込む。キッチンに立っていたメルヴィが出てくる。


「アイナ、行くのですか? 私も行きます」

「……そう言えば、そうだったね」


 きりっとした表情で言われ、アイナは思い出したようにうなずいた。フレイはそれを見てコーヒーをのどに流し込むと立ち上がる。

「俺も一緒に行く。何かあったらまずいからな」

「……それは何について心配してるの? 何かが襲ってくるかもしれないってこと?」

 アイナが冷静に尋ねてきた。ただ単純に女の二人歩きが心配だっただけだが。

「いや、キラヴァーラが治安いいのは知ってるけど、ナンパとか」

「私に声をかける強者はいないと思うけどね」

「いや、お前じゃない。メルヴィだ」

「怒っていい?」

 アイナが持っていた端末を振り上げた。もちろん冗談で、フレイにはそれがわかったが、エステルとニナがあわてる。

「アイナ、落ち着け! 君は十分魅力的だ!」

「わーわー! 駄目、危ないから!」

「……冗談なんだけど」

 アイナの口調はまじめと冗談の判別がつきにくいのだ。トーンが一定なのである。慣れてくれば判別が着くのだが。


「わかりにくい!」


 冗談だと聞いてほっとした様子のエステルとは対照的に、ニナは拳を振り上げて怒った。ここにきてアイナが笑う。

「よく言われるよ。それじゃあ行こう、メルヴィ。フレイもついてくるなら早くしなよ」

「お前、遠慮と可愛げどこに置いてきた」

 フレイはそう言いながらもコートをつかんで準備をする。アイナのことだから、メルヴィのことは待ってくれてもフレイのことは待たずに行ってしまう可能性が高かった。


「いってらっしゃーい」


 ラウハが手を振る。レイマも「あとでな」と一応来る気はある様子。フレイは念のために尋ねた。

「歩きか?」

「当たり前でしょ」

 即答されて、フレイはメルヴィを目を見合わせて肩をすくめた。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


アイナちゃん、美人だけど性格が残念。


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