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21.結果が出ない









 異世界から出現する魔物は、名があるようなものもいればないようなものもいる。マリあたりに聞いてみればこいつの名前もわかるかもしれないが、現時点では種族不明であった。

 フレイたちは完全に見学となっているが、アントン、イルッカ、アイナの三人が戦い慣れているのはわかる。驚いたことに、アイナもだ。長くチームを組んでいるのか、三人の息がぴったりだ。

 前衛はアントン。イルッカはアントンの補佐とアイナの護衛を兼ねており、アイナは魔法による後方支援だ。氷の弾丸や雪の槍が白い蟷螂を追いまわすが、魔法では若干のタイムラグがあるのか、うまく当たらない。アントンとイルッカは近づくことでダメージを与えられているが、蟷螂の大きさから言って、とどめを刺すのは難しいと思われた。


「……どうするんだ?」


 エステルがつぶやく。アキが「ペトラさんはどうしてたかな~」とつぶやく。アイナの義母ペトラは、生前、この城塞都市で最も優れた戦闘員だった。


「ペトラさん……アイナのお母様でしたか」


 メルヴィが尋ねた。アキがうなずく。


「ええ。俺が尊敬する人です」


 そう言っている間にも、アントンとイルッカが蟷螂の鎌に刺されそうになっている。二人ともすばしっこいので避けたが。フレイははらはらと二人を見守った。

 アイナの魔法も相変わらず当たらない。彼女の魔法に不備は見られないので、蟷螂が細すぎるかつ動きが速いためだろうと思われた。

「アントン! イルッカ!」

 アイナが良く通る声で叫ぶと、二人はさっと蟷螂から離れた。蟷螂の足元、白い雪が発光する。

「アイナーっ! 生け捕りにしてぇっ!」

 発動するか否か、という瞬間、城壁の上から女性に声が振ってきた。そのせいだと思われるが、アイナの魔法が乱れた。


「っ!」


 雪の地面から多数の棒が突き出て、蟷螂の動きを封じた。おりのようではなく、体にぴったりとくっついて棒と棒が交差するように動きを封じているので、棒を折らない限りは動けない。声をかけられたせいで魔法が乱れたせいか、向かって右の鎌が持ち上がった。

 アントンが無言で飛びあがり、その鎌を切り落とした。彼は難なく着地する。

「お見事!」

「やるじゃねーか!」

 最初に声をあげたのはエステルとレイマだった。実はこの二人、根本的な性格が似ているのではないかと思ってしまう。本当に生け捕りにしてしまった。先ほど城壁上から声をかけてきた女性がアイナにねだった。

「アイナ! 降ろしてぇ」

「馬鹿者、何を言っている。お前を降ろすわけにはいかん」

 冷静なツッコミを入れたのはヘンリクだった。身を乗り出すマリの首根っこをつかんでいるようだ。

「とりあえず、上に上がろうか」

 アキが提案した。そして、意外と大人数である一行は階段から城壁上に上った。久々に見るマリは、五年前とほとんど変わっていない。


「アキ、フレイ、レイマ、お久しぶりだねぇ。姫様たちは初めまして」


 若干砕けた口調でマリは挨拶をする。普段の変人ぶりを知らなければ、これでまともな人だとだまされてしまうだろう。

「エステル・スラッカ・マキラです。どうぞよろしく」

「マリ・サーリネンです。どうぞよろしくお願いいたします、姫様」

 にっこり笑ったマリが、エステルと握手をする。エステルはマリをじっと見つめた。

「……噂は聞いたことがある。あなたがマリ・アイラヤ博士か」

「おや、姫様、私のことをご存じで? やり過ぎたかなぁ」

 もちろん、やり過ぎたからマリは首都を追い出されたのである。


 フレイがふときづくと、アイナがいなかった。周囲を見渡すと、すでに研究者たちと何やら相談している。相変わらずのマイペースだった。

「あーっ! アイナ、私にも情報ちょうだいよ~!」

 マリが杖をついてアイナの方に向かっていく。相変わらずである意味安心した。

 フレイたちがこの街を離れた時、マリは足を引きずっていなかった。城壁の向こう側で怪我人の救出活動をしていた際に、魔物に襲われて不自由になったのだと聞いている。マリはあっけらかんとした人物だが、深くは触れない方がいいのだろうな、と思って一応黙っている。

 その時、異世界側から何かが崩れるような音が聞こえた。その場にいた全員がそちら側を覗き込む。アイナの魔法で捕らえられていた巨大蟷螂がその場で崩壊し、崩れていた。

「なんだぁ?」

 声をあげたのはレイマだ。どう見ても、生物の倒れ方ではない。

「魔法か何かで操られている傀儡だったんだ」

「傀儡?」

「……まあ、操り人形ってことだな」

「なるほど」

 会話はアキとレイマのものである。時々、レイマの語彙力が心配になる。


 と、目の端に何かが塀を乗り越えようとしているのを捕らえた。フレイがそちらを見ると、アイナが手すりの上から飛び降りて向こう側に降りるところだった。

「危ねぇええっ」

 フレイは思わず叫んだが、アイナは着地の前に緩衝魔法をはさみ、無事に雪の上に着雪した。まだ研究員たちが調べている元・蟷螂に駆け寄る。

「アイナ! どうだ!」

 上から叫んだのはヘンリクだった。胴体から取れた腕を調べていたアイナは上を見上げて叫ぶように答える。

「自立運動型魔法です! 見たことがない魔法構築式だけど……」

「アイナが見たことないって言うなら、相当だねぇ」

 マリがしみじみと言った。彼女もアイナと一緒に飛び降りようとしたのだが、近くにいたラウハに止められたのだ。ナイス判断である、ラウハ。


「では、単純に考えると、あれは誰かが操っているもので異世界から現れたものではないと?」


 心なしか残念そうなエステルである。彼女は一体、異世界にどんな印象を抱いているのだろうか。ちょっと気になるところではある。

「まあ、そうとは限りません。これまでの例から見ても、魔物のような生物ではなく、人形のような物体が異世界からやってくることは多く有りましたから」

 それが、今回は動いているだけです、とのことである。まあ、確かにヘンリクの言葉は間違っていない。正解でもないが。

「とりあえず、姫様。見学は終了にして城塞の中に入りませんか? 報告は中でも聞けます。きっと、アイナが詳しく教えてくれますからな」

 アイナが戻ってくる様子がないので、ヘンリクはそう提案した。まあ、夢中で解析しているアイナは、しばらく放っておくほうが良いだろう。どちらかというと、あの蟷螂ではなく異常気象の方を解析してほしいのだが。


「面白いな、この場所は」


 会議室で温かいお茶を飲みながら、エステルはほくほくと言った。まあ、確かに面白くはある。

「姫様。キラヴァーラでの暮らしはどうですかな。不自由されておりませんか?」

 ヘンリクが尋ねた。まあ、司令官としては気になるところだろう。町長であるフレイの母、ヴィエナからも、昨日、エステルがどうしているかの問い合わせメールがあった。適当に、というか楽しそうに暮らしているとそのまま返した。

「大丈夫だ。暮らしていて楽しいところだし、みんなも優しい」

「それはよかった。何分、変人が多いもので」

 ヘンリクは渋い笑みを浮かべてそう言った。まあ、否定できないけど自分で言うか? そして、キラヴァーラでも指折りの変わり者に預けたのもヘンリクだ。

「……実際のところ、とても不思議ではある。こんなに変わったことが起きるのに、街の人たちは何でもないように暮らしている。慣れなのかもしれないが・……正直、私が知っているどの街よりも活気があると思った」

「それは光栄ですね」

 ヘンリクは微笑み、エステルにおどけるように言った。確かに、キラヴァーラはある意味首都よりも活気があるかもしれなかった。

「なあ、この異常気象が解決しなかったらどうするんだ?」

 エステルが何気なく尋ねたが、ヘンリクは何でもないように答えた。

「いつまでもこのままと言うことはありませんよ。技術部が何かしらの原因を見つけるでしょうからね」

 そう言って、ヘンリクはエステルを安心させようとしたのかもしれない。その日のうちに、異常気象の謎が解けることはなかった。








ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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