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01.世界の果ての街

新連載です!


まずは本編の5年前からです。しばらく続きます。










 窓から差し込む日差しを感じて、アイナは目を覚ました。下からアイナを呼ぶ声が聞こえる。のそりとベッドの上に身を起こした。ぐっと伸びをする。髪をとかして緩く編み、寝間着から着替えて部屋を出る。


「おはよう」

「おはよう、アイナ」

「アイナ~。今朝も可愛いな」


 養母ペトラと養父ヨルマが笑顔で話しかけてくる。長い金髪の三つ編みを背中に払ったアイナは自分の定位置の椅子を引きながら言った。

「父さん、馬鹿なこと言ってないで寝癖くらいなおしなよ」

「ほら、言われるって言ったでしょ。馬鹿だねぇ」

 ペトラはアイナに向かってにっこり笑った。アイナも口角をあげて微笑む。

「アイナ、コーヒー出して」

「わかった」

 一度座ったアイナは立ち上がると、ポットに入ったコーヒーをマグに注ぐ。一つをヨルマに、もう一つはペトラに、自分の分には砂糖とミルクを入れてかき混ぜる。

「コーヒー出したよ。この皿、運んでもいい?」

「いいわよ。アイナはいい子ね」

「……別に、そう言うのじゃない」

 照れてもじもじしながらアイナは言った。ペトラが料理の手を止めてアイナの頭を撫でる。

「お前らばっかりずるいぞ~」

 ふらりと立ち上がったヨルマが負けじとアイナの頭を撫でる。ペトラよりも乱暴なので、髪が乱れた。

「父さん、乱暴」

「あ、すまん」

 ヨルマはアイナの髪を直すと朝食の皿を取り上げた。そのまま運んでいく。アイナは残った皿を自分の席のところに置いた。

「それじゃあ食べようか」

 ペトラも席に着いたので家族で食事の時間だ。アイナはロールパンに手を伸ばし、ちぎってバターを塗る。もそもそと食べ始めた。スープにも手を付ける。


「アイナ、今日は何するの?」


 ペトラが今日の予定を聞いてくる。アイナは今日の予定を思い浮かべる。今日は学校もない。そもそも、アイナはすでに義務教育レベルをクリアしているのでわざわざ通う必要もないのだが。

「まだ決めてないけど、家で勉強してようかな」

「いい子だねぇ、アイナは」

 ペトラがにこにこと言った。アイナもつられて微笑んだ。


 アイナは、ペトラやヨルマと似ていない。それは当然で、二人はアイナの養父母なのだ。アイナの実の母親は、アイナを身ごもっているときにここにやってきて、アイナを生んでそのまま亡くなったらしい。

 以降、アイナはペトラとヨルマの夫婦に育てられている。顔は似ていないけれど、アイナは二人を本当の親とも慕っていた。

「じゃあ、一緒に買い物に行こうよ」

「いいんじゃないか。行って来い。俺はこのまま仕事があるから」

 ヨルマも同意してアイナに勧める。異存はないので、アイナもうなずいた。

「わかった」


 この街、キラヴァーラはマキラ王国の国境にあたる。この街に住む人々は、王国のいわゆる『軍人』である。軍人と言うには少しおかしいかもしれないが、国家公務員であるには違いない。もしくはその縁者がほとんどを占める。たまに、たまたま流れ着いたものも居つくのだが。アイナはその口だ。

 この場所は不思議な場所だ。古い街並みが残る場所だが、その奥に異彩を放つ城塞が見える。キラヴァーラ城塞だ。ヨルマの職場はあの城塞である。ちなみに、ペトラも同じところで働いているが、ペトラは臨時のようなものなので今日は出勤しなくていいらしい。


「アイナ、何か欲しいものはある?」


 手をつなぐペトラに尋ねられて、アイナは少し考えた。

「工具」

「いや、もうちょっと女の子っぽいものを頼もうよ」

 お約束のやり取りをしながら、いちが出ている広場に出た。そこで見知った顔を見つける。

「あ、ラウハ」

「へ? あ、アイナだ!」

 アイナより小柄な少女が嬉しそうに駆け寄ってくる。数歩前で立ち止まった彼女はアイナとペトラを見上げて「えへへ」と笑った。

「こんにちは、ペトラさん、アイナ」

「うん。こんにちは、ラウハ。今日はエーレスも体調がいいのね」

 ペトラが小首を傾げて言った。ラウハとエーレスは微笑む。こちらも本当の親子のように仲がいいが、実際には血のつながりがない。そもそも、年の差も年の離れた兄妹と言った方がしっくりくるくらいだ。顔も似てないけど。


 ラウハ・ヴィレンはアッシュブロンドに緑の瞳をしたかわいらしい少女だ。アイナより二歳年下だが、仲よくしている。まあ、この街の人口がもともとそんなに多くない、というのも関係しているが。

 ラウハと手をつないでいる青年はエーレス・ノルドグレンという。ラウハのやしない親で、職場はヨルマと同じく城塞である。天才的な技術者であるのだが、体が弱いため無理するな、と言われているらしい。


「こんにちは。お二人も買い物?」


 エーレスが目を細めて言った。結構背の高い青年であるのだが、色彩の薄い金髪と碧眼のせいか、はかなげにも見える人だ。怒らせると怖いけど。

「まあね。昼と夜の買い出し。そっちも?」

「うん。まだ何にするか決めてないんですけど」

 結構献立を考えるのが大変なのだ。アイナもペトラに「ご飯何がいい?」とよく聞かれるのだが、たいてい、その時アイナが食べたいと言ったものがそのまま出てくる。材料が無かったら違うものになるけど。

「そうだ、アイナ」

「何?」

 小首を傾げてエーレスを見上げる。

「明日、城塞に来てほしいんだけど、大丈夫?」

「……私は大丈夫だけど」

 そう言ってちらっと保護者であるペトラを見上げる。ペトラは「うーん」と笑いながら首をかしげた。

「私も明日はでなきゃだし、一緒に行こうか」

「うん」

 ペトラに了解をもらったので、明日は家族一緒に城塞に行くことになるだろう。ラウハがすねたように言う。

「みんな行くのに……」

「ラウハはダメだよ。それに、明日は学校でしょ」

「そうだけど~」

 ラウハがエーレスとつないだ手をぷらぷらする。アイナが城塞に入れるのも一応『特別』なのだが、この場所では力さえあれば子供か大人か、女か男か、などはあまり関係ない節もある。


「ま、せっかく会ったんだし、アイナ、ラウハと遊んできなよ。私は買い物してるからさ」


 ペトラがそう提案した。ラウハが「いいの!」と喜んだあとにエーレスを見上げた。

「でも、エーレス兄さんも心配……」

「大丈夫だって。ペトラさんも一緒だし」

「そうそう」

 軽い感じでペトラが請け負う。エーレスには前科があり、少しラウハが出かけている間に倒れていたことがある。その時もラウハと一緒にいたアイナはその現場を目撃していた。


「えっと、じゃあ……」


 ラウハがはにかんで言った。ラウハは本当にかわいい。と言うわけで、アイナとラウハは連れ立って道端でやっている人形劇を見に行った。

「珍しいね、人形劇やってるなんて」

「最近じゃあんまり見ないんだけどね」

 ラウハもアイナも聞く人が聞けば心に刺さるような会話をしている。しかし、この時代に野外人形劇は本当に珍しいのだ。

「あ、ジェラート売ってるよ。食べようよ。あたし、ちょっとお小遣い持ってるし」

「私も持ってるから大丈夫だよ」

 と言いながら二人はジェラートを出している販売車に近づく。いくつか味に種類がある、ラウハが真剣な表情で選びにかかる。


「アイナ、何にするの?」

「私? 桃」

「じゃあ、あたしはチョコレート」


 女の子二人に、販売員もニコニコとカップにジェラートを盛ってくれる。少しおまけしてもらえて、ラウハは女の子らしく嬉しそうにはしゃいだ。そこまでテンション高くできないアイナはただ「ありがとうございます」とだけ言った。

「んー。やっぱりおいしい!」

「最近、あったかくなってきたもんね」

 並んでベンチに座ってジェラートをほおばりつつおしゃべりを楽しむ。主にアイナが聞き役であるが、ラウハもアイナがそう言う人間であるとわかっているので気にせず話し続ける。

「ねえアイナ。桃、ちょっとちょうだい」

「ん」

 アイナはカップを差し出す。ありがと~、とラウハは礼を言ってスプーンで桃のジェラートを少しすくった。

「桃もおいしいねぇ。アイナもチョコ、食べてみる?」

「じゃあもらう」

 アイナも同じようにラウハのジェラートを少しもらう。

「うん。やっぱり王道だよね」

「だよねー」

 ラウハが足をプラプラさせながら言った。小柄な彼女は、座ると足が地面に届かないのである。いや、アイナもあまり背は高くないけど。


「あれ、アイナとラウハじゃん」

「二人とも、何してんのー」


 アイナたちと同世代の少年が二人駆け寄ってくる。ラウハが「あ」と口を開いた。

「エルノ、イルッカ」

「何してんの? さっき、ペトラさんとエーレスさん見たけど」

 エルノが首を傾げて言った。この街、と言うよりこの国に多い金髪に碧眼だ。色の濃さも顔立ちも違うものの、エルノも美少年なのでたまにアイナの弟と間違われる。血のつながりはないのだが。

「二人の買い物待ち」

「へ~……っていうか、さっきエーレスさん、ぐったりしてたけど」

「うそっ」

 イルッカからの情報提供に、ラウハが猛然と立ち上がる。アイナはマイペースにジェラートをすくう。

「大丈夫だよ。母さんが一緒なんだから」

「あ、でも、そうか……」

 ラウハがもう一度座り直す。イルッカが「ラウハはエーレスさん、大好きだよな」と笑った。


 イルッカは、この辺りでは珍しい髪の色の持ち主だ。黒髪にとび色の瞳の少年。茶色の髪や目の色はこの辺りで多いのだが、黒髪は珍しい。みんな髪の色彩が薄いので、イルッカのような髪の色は目立つ。

「でも、心配だからやっぱり行く」

「ラウハ、エーレスさんに対して過保護だよね……」

 一応、エーレスの方が保護者なのだが、ラウハがエーレスを保護している感がすごい。

「ラウハが行くなら私も行く」

「うん。また今度遊ぼうね」

 エルノが笑って手を振る。アイナたちも振り返し、ペトラとエーレスを見つけるべき市場に入っていった。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


書いてから、なくても良かったかな、と思いましたが、せっかく書いたので……。でも、思ったより長かった。


っていうか、キーワードにマッドサイエンティストって入れられなかった……。


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