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18.城塞案内











 美人は何をしても美人らしい。理不尽だ。セルマに業務連絡をしているアイナを盗み見てフレイは顔をしかめた。レイマなどは「やっぱり美女だな、美女」などとのたまっているが。いや、騒がないだけでそれには同意だけど。


「りょーかい。ありがとね! また頼むわ」

「自分でできるんだから、自分でやればいいだろ」


 軽い調子でアイナの肩をたたくセルマに、アイナは呆れた調子で言った。だが、それでも手伝うんだろうなと思った。

「じゃあアイナ、次行こう!」

「はいはい」

 ちゃっかりアイナと腕を組むラウハに、セルマたちが微笑ましげな表情を浮かべる。確かに、ちょっと微笑ましい。フレイたちは幼いころの彼女たちを知っているから、余計そう思う。

 最後、第三研究所は少し離れたところにあった。アキが、ん? と思い出したように言った。

「そう言えば、アイナは第三研究所所属か」

「技術部第三班だからね」

 アイナはそう言うと、第三研究所と書かれた扉を開けた。中に入りながら言う。


「ここはちょっと特殊だから、気を付けてね」


 一応忠告を受けたが、何を気をつけろというのだろうか。それはすぐに判明した。


「おわっ」


 声をあげたのはレイマだった。彼の体がふわりと浮いていた。

「なんだ!?」

「浮遊魔法?」

 あわてた声を上げる中、アイナは落ち着き払って笑みを浮かべると、両手でレイマの腕を引っ張り、入れ替わるように自分が浮き上がった。代わりにレイマは地面に着地する。

「ここは無重力状態での魔法科学研究を行っている場所でね……」

「アイナ、わかんないよ」

 エルノからツッコミが入り、ふよふよと浮かんでいるアイナは肩をすくめた。


「ま、要するに重力がない状態で魔法機械を作ってるってことだよ」


 かなりざっくりとした説明だ。フレイたちはわかったのだが、レイマは首をかしげた。

「重力があるのとないのじゃ、何が違うんだ?」

「……説明してもいいの?」

「まあ、また今度ね」

 エルノが先手を打った。確かに、先ほどの感じを見ていると、アイナに説明してもらっても理解できない可能性が高い。


「ここ、重力干渉魔法が働いてるから、その白線より内側に入ると無重力だからね。興味あればチャレンジしていいけど、自己責任でよろしく」


 アイナは慣れた様子でぷかぷか浮いているし、簡単そうにも見えるが、先ほどのレイマを見ると踏み出す勇気が出ない。好奇心旺盛なエステルがチャレンジしようとしたが、ニナとメルヴィに止められていた。


「それはいいから、アイナ。城塞の中を案内してくれ」


 フレイが結論を出して言うと、アイナは少しつまらなそうな顔をした後、振り返って浮いた球状の機械にとりついている作業員たちに言った。

「何かあったら呼んで」

「はーい」

 第一研究所や第二研究所に比べると明らかに人員が少ない。第三研究所に所属する研究者、作業員たちは魔導師でもあるため、戦闘訓練にも駆り出されることがあるらしく、常駐は五名程度だが、実際は十一人いるらしい。


 アイナが魔法を使って無重力空間を移動し、線より外側に着地した。案内してくれるつもりはあるらしい。実際、彼女がいてくれないと困る。エステルたちは完全にお客様だし、フレイたちは城塞は五年ぶりだ。エルノは役人だし、ラウハはまだ見習い。実は、この中で正規職員はアイナだけなのである。

「まあ、私もそんなに詳しくはないんだけど」

「でも、修理とかで結構城塞内を巡ってるって聞いたけど」

「魔法戦闘訓練にも参加してるんでしょ」

 ラウハとエルノが言った。というか、本当に何でも屋である。

「呼ばれるから行くだけだし」

「呼ばれたら行くのか……」

 アキが苦笑を浮かべて言った。確かに、フレイも同じことを思った。


 アイナがざっくりと城塞内を紹介していく。医務室、書庫、倉庫、お手洗い、仮眠室、武器庫、食堂は三つ、カフェテリアは二つあること。

「覚えられない……」

 ニナが声をあげたが、アイナは「まあ、だいたいの場所がわかれば誰かが迎えに行くだろうし」と遠回しに覚えなくても大丈夫、と言っていた。一応案内表示はあるが、慣れていなければわからないだろう。

「あ、でも、前にアントンが迷子になったらいったん外に出ればいいって言ってたよ」

「ワイルドだな」

 ラウハの言葉に、フレイは反射的にツッコミを入れた。いかにもアントンらしいセリフではある。確かに外に出れば迷子ではなくなるだろうけど、物理的に難しい。

「一応訓練所。奥には魔法訓練所もあるけど」

 アイナがだだっ広い空間をずんずん進みながら言った。戦闘員たちが訓練中で、エステルたちの来訪にちらちらとこちらを見ている。ここは屋内だが、屋外にも訓練所はあるはずだ。

「……剣なんだ」

「私たちが相手をするのは異世界生物だからね。たいてい銃弾は効かない。レーザー砲を射出したことがあるけど、はねかえされたこともあるし」

「お前……何してんだ」

「ちょうど試作機を作ったところだったから、実験で」

「……お前、マッドサイエンティストって言われない?」

「マイペースだね、とは言われるけど」

 マイペースが行きすぎてフレイにはマッドサイエンティストに思える。

 戦闘員たちが使用するのは剣や槍が主だ。一応、銃の訓練も受けており、だからこそ今回の徴兵の時に戦闘員が優先的に招集されていったのだが、アイナが言った通り彼らが普段向き合う相手には銃弾はほとんど効力を発揮しなかった。


「ね、ねえねえ。あたしも訓練参加してもいいの!?」


 ニナがアイナの白衣を引っ張りながら言った。その眼が輝いている。彼女はエステルの護衛で、近接戦闘も学んでいるから興味があるのはわからないでもないが。

「どうして私に聞くの。姫様の許可がいるんじゃないの」

「……まあ、ニナがしたいというのなら止めないけど」

「ありがとうございます! 大好きです、姫様!」

 ニナが喜んで文字通り飛び上がった。アイナが戦闘員たちを見渡して手を振った。

「アントン! イルッカ!」

 ちょうどイルッカに技を決めていたアントンを呼び寄せ、アイナは言った。

「ニナが訓練に参加したいんだって」

「ニナ?」

 アントン、ニナを認識していなかったらしい。アイナが「姫様の護衛の子」と簡潔に答えた。この二人の会話も面白い。


「あ、アイナ。頼みがあるんだけど」

「却下」

「なんで!?」


 イルッカがアイナに真剣な目で言ったのだが、一瞬で却下された。

「宿題手伝ってくれよ~」

「自分でやりなよ。写してもいいから」

「イルッカ……まだ終わってないんだ……」

 夏季休業中の宿題だろう。イルッカとラウハはまだ高校生だ。口ぶりからして、ラウハは宿題を終えているようだけど。

 とりあえず、ニナが訓練に参加しに行ってしまったので、残りのメンバーで奥の魔法訓練所を見に行った。ニナを置いてきたことになるが、アントンとイルッカがいれば大丈夫だろうと判断した。


「一応ここが魔法訓練所です。見ての通り、魔法を使った戦闘訓練所ですね」


 アイナが適当に紹介したが、これは言葉で説明されるよりも見たほうが早い。一見ただの格闘戦をしている人物も、実は魔法を使っていたりするので、見ても絵的に地味であることは否定できないが。

「遠距離、広域攻撃魔法は主に外で行うので、中では支援系魔法のみですね」

「さすがに中で使うのは危ないからな」

 エステルも理解を示したようでうなずいた。アイナは「外も見ますか」などと言っているが、その前にニナを回収しなければ。


「おう、アイナか。やってくか?」


 魔法訓練中の魔導師に声をかけられたアイナは首を左右に振る。

「いい。遠慮しとく」

「そうか。いつでも相手してやるからなー」

 手を振るその青年を見て、アキは「下心ありと見た」などと言っている。まあ、フレイもちょっと思ったけど。

 外の魔法訓練所に行ったら行ったで、今度はメルヴィが興奮しはじめ、ばんばん攻撃魔法を放ってくれた。見た目が派手なので、ラウハやエルノは「すごいすごい」とはしゃいでいたが、これでいいのだろうか。


「アイナは戦えねぇの?」


 レイマがちゃっかり参加しているメルヴィを見ながら言った。アイナが答える前に、レイマがにかりと笑った。

「ま、魔物前に足すくんでたもんな~」

「いつの話、それ」

「結構アイナって怖がりだったよな……」

「二人とも、締め上げられたいの?」

 レイマもフレイもいらないことを言うので、冷たくアイナは言った。一番恐ろしかったのは、「二人の分の夕食だけ激辛にするよ」というセリフだったのは絶対に言わない。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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