15.お出かけ
ラウハとレイマ、アキがベッドを取りに行くのを見送り、フレイたちは街に繰り出した。一応、アイナ所有のモスグリーンの車で行くことも考えられたが、エステルが街を見たい、と言ったので徒歩だ。
「アイナ、鍵は?」
家を出てそのまま行こうとするアイナにフレイが尋ねると、アイナは「オートロックだから大丈夫」と答えた。
「……この外観の家でオートロックなのね」
「この街治安いいから、そこまでしなくてもいいのかもしれないけど、まあ、試験的に?」
朝食づくりで仲良くなったらしいメルヴィとアイナの会話である。ちなみに、司令のヘンリクが『魔改造』と言っていたが、本当にいろいろ改造してあるらしい。玄関はオートロックと網膜認証、窓には赤外線センサー。他にも、魔法による防犯対策もなされているらしく、まさしく魔改造である。
だが、一国のお姫様を預かるには、それくらいでいいのかもしれない。
「へえ。趣があって、活気のある街だな」
「まあ、街並みは中世のころからそんなに変わってないらしいですからね。魔物とかの襲撃で、ちょこちょこ修復されてますけど」
エステルとアイナが並んで前方を歩いている。エステルはどうやら、アイナと仲良くなる腹積もりのようだ。彼女、わりと人見知りだし、攻略難易度が高いと思うのだが。
「そうか……。なあ、アイナはいくつだ?」
「年齢ですか? 十九ですが」
彼女らの後ろでそれを聞きながら、フレイはもうそんな年なのか、としみじみと思った。フレイの頭に焼き付いている彼女はもっと小柄で、子供子供していたはずなのに。
「では、私より一つ年上だな。仲良くしてくれ、アイナ」
「……こちらこそ」
戸惑い気味にアイナがうなずいた。エステルがにこにことする。アイナは困惑気味だ。こんなに強引に来られたことがないのだろうか。フレイは後ろから声をかける。
「アイナ、何がいるんだ?」
「ああ、そうだ。食料は傷むからあとかな」
アイナが家を出る前にかいたいるものリストを見ながら言う。エステルがその紙を覗き込んだ。
「えーっと。食器にタオル、シーツ、服か……」
「確かに、あたしたち、必要最低限の物しか持ってきてませんしね……」
ニナが苦笑気味に言った。まあ、買いに行くのは生活必需品と言うやつである。
「シャンプーとか石鹸とかも、自分にあうのがあるなら買って行きますか。まあ、そのメーカーのものがあるかはわかりませんけど」
人口五千人弱の小さな街で、国の辺境にあたる場所だ。実際に首都に行ったことのあるフレイは、この街の店の品ぞろえはなかなかいいものだった、と知っているが、やはり大都会である首都にはあって、ここにはないものはたくさんある。
フレイは護衛でもあるが、荷物持ち要員でもある。たぶん、ニナも同じカテゴリーに入れられている。ニナの戦闘力はなかなかのものであるし、エステル自身も武術の心得がある。メルヴィは魔導師であるが、アイナの実力が未知数である。まあ、アイナも言ったようにキラヴァーラは治安がいいので、襲撃なんかないだろうけど。
まず、女性陣の服やタオルなどを見つくろう。その間、フレイは店の入り口付近で待機していた。実は、エステルとニナはアイナと同じくらいの身長で、メルヴィはラウハと同じくらいの体格だ。なので、服を借りることも不可能ではないのだが、やはり、人によって似合う服なども違う。例えば、今日のアイナはユニセックス系のシャツにスラックス、ロングカーディガンと言ういでたちでなかなかのハンサム具合を発揮しているが、こういった格好はエステルやニナには似合わないだろう。
布類は、一つ一つの重さはさほどではないが、かさばる。そこで、夕方にアイナ宅に届けてもらうことにした。まあ、箱二箱分であるが、持って買い物に出るのもどうかと思うし。
またシャンプーや石鹸、食器などをさがしにいく。食器も配達かなぁとフレイは思った。持つには難易度が高い。
「街中でも、異世界に対する対策はしてあるのか?」
移動中も、エステルはアイナにあれこれ尋ねて親睦を深めている。もともとアイナも人見知りのきらいがあるとはいえ、愛想が全くないわけではないので律儀にその質問に答えている。まあ、舌鋒がきつくても、彼女がもともと優しい性格なのは変わらないのだろう。何だ。ツンデレなのか。一人で納得したフレイであった。
「シェルターや魔法障壁用の魔法陣が張り巡らされていたりはしますね」
たぶん、そう言うのにアイナが携わっているのだろうなぁと思いながら、フレイはツッコまなかった。せっかく打ち解けてきたのに、間に入るのがはばかられたともいう。
食器はやはり配達。シャンプーなどは手に持った。最後に食料品だ。今日の昼食分を含む。何しろ七人分を用意するので、かなりの量である。というか、昼はアキの分もいるのか、実は。
「昼食……何がいいですか」
市場で野菜を見ながら、アイナは考えるのが面倒くさくなったのか、エステルたちに尋ねた。ニナがはい、と手を上げる。
「肉!」
「じゃあ、夜は肉にしようか」
「昼じゃねぇンだ……」
即答で夕食にしてしまったアイナに、フレイは苦笑を浮かべる。まあ、確かに昼から肉をだべるのはちょっと、と言う気持ちはわかる。
一応前を見て歩いていたのだが、足にどん、と小さな体がぶつかってきたのは不可抗力だと主張したい。
「え、子供?」
フレイの足にしがみついてわあわあ泣いているのは小さな子供だった。まだ二歳かそこらだろう。子供特有の柔らかい金髪に高い体温。ズボンが涙で湿っていく。
「ちょ、ど、どうした?」
つーか、見ず知らずの男にしがみついて泣くってまずいんじゃないだろうか。誘拐でもされたらどうする。まあ、キラヴァーラで誘拐なんてめったにないけど。誘拐事件があったところで、二日以内には解決するだろう。
「ああ、どうしたの。お母さんは? はぐれたの?」
「あ、あいにゃぁ!」
「よしよし。そっちのお兄ちゃんは放してあげてね」
しゃがみ込んで幼子と視線を合わせ、優しい声音で言いながらも、アイナは容赦なく幼子をフレイから引きはがした。ズボンはやはり色が変わっていたが、それどころではない。
「知ってる子か?」
「イラの娘」
つまり、アキの姪っ子だ。昨日再会したときは、息子のサムリを紹介されたが、実はもう一人いたようだった。
「あいにゃ!」
たぶん、アイナ、と言いたいのだろうが、『ナ』が発音できないらしい。子供特有の舌っ足らずな物言いは可愛らしいが、まるでアイナが猫になったようである。
「よしよし。今日はお母さんと一緒? それともお父さん?」
アイナがひょいっとイラの娘を抱き上げるので、フレイは正直驚いた。昔の印象のままなので、アイナは非力な印象が強かったのだ。でもまあ、普通に考えてこれくらいの子は抱っこできるか。慣れた手つきで背中をたたいている。
「……か、可愛いな」
エステルが顔を緩ませてアイナの腕の中の子を見ていたが、彼女はそれどころではないようだ。
「これくらいの子って会話が成立しないよねぇ」
基本、理系脳のアイナだ。幼子の感情を読み取るのが難しいらしい。まあ、フレイに回されても困るのだが……。
「とりあえず、イラに連絡取ってみてよ。エルメルでもいいけど」
「……どっちも連絡先知らないんだが……」
「それもそうだね。じゃあ、はい」
と、アイナは抱っこしていた幼子をフレイに差し出してきた。反射的に受け取るが、その途端にぎゃん泣きされた。
「お、おい、アイナ!」
「あはは! 顔覚えられてなくて娘に泣かれるお父さんみたいになってるよ!」
「うるさいぞニナ!」
「ああもう、二人とも大声出さない……あ、イラだ」
容赦なく笑い転げたニナに、エステルも噴き出しかけている。呆れた表情のアイナとメルヴィ。アイナはツッコミを入れたが、その気はすぐにそれたらしい。
「ああ、アイナ! ごめん、ありがと!」
イラが駆け寄ってきてフレイから娘を受け取った。どうやら、いなくなった娘を探しに来て、泣き声で気づいたらしい。ぎゃん泣きしていたイラの娘だが、母親に抱かれた瞬間泣き止んで今度はうとうとし始めている。
「……なんか納得いかねぇ」
「まあ仕方ないんじゃない? 自分の子じゃないんだし」
「でもお前は懐かれてたじゃねーか」
「そりゃあ、生まれた時から知ってるからね」
「……あいにゃ」
「ねえフレイ。今、自分が誰の家に居候してるかわかってる?」
「……すんません」
真顔でそんな脅しをかけられるので怖い。基本的に温厚であるアイナだから、そんなことはしないだろうなぁと理性では思うのだが。
「仲がいいな、アイナとフレイは」
エステルが目を細め、どこかうらやましそうに言った。立場上、彼らのように気さくに話ができる人が居なかったのだろう。
「まあ、幼馴染ですし」
「まあ、それなりに」
やっぱり、アイナの回答の方が素っ気なかった。
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