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10.思わぬ展開








 はっきり言うと、見覚えがないわけではなかった。ただ、覚えている印象と全く違ったので戸惑ったのだ。何しろ、フレイが最後に見た彼女は泣きそうになりながら父親を見送っていた小さな姿だ。


「お前、ホントにアイナか? 髪どこやった?」


 レイマが最初の衝撃から立ち直ったらしく、アイナの頭をぽんぽんたたきながら言った。いろいろツッコみたい。

「切ったんだよ。当然でしょ」

「なんでだよ。俺、お前の金髪が翻るの、好きだったのに……」

「きっとラウハがやってくれるから、頼んでみれば?」

「くせ毛でできないよ!」

 昔ショートカットだった髪を伸ばしているラウハは、本人の申告通りくせ毛だ。それを隠すためにふわっとおさげにしている。


「あー、イルッカもアントンも久しぶり。二人とも、でっかくなったなぁ」


 レイマがアイナを構っているので、フレイはもう二人に声をかけた。イルッカが「久しぶり!」と元気に言ったのに対し、アントンはスプーンを置きながらクールに言った。

「フレイは、あんまり変わらないね」

「……そうか?」

 まあ、確かに子供子供していたイルッカやアントンの成長ぶりに比べれば、あまり変わっていないかもしれないけど。二人とも、精悍な顔つきになっている。ちなみに、アントンは明るい茶髪である。

「イルッカ、学校の宿題か?」

「そ。わかんねぇからアイナに教えてもらってたんだ」

「……なるほどな」

 一応納得したことにしておこう。アイナは昔から頭がよかったし。だが、勉強を教わっているにしては会話が面白すぎた。

「終わりそうか?」

「うんにゃ。だけど、フレイたちが来たからいったん止める」

 それは宿題が終わらないパターンだと思ったが、フレイはツッコまなかった。


「……で、アイナはなんで逃亡したんだよ」


 フレイが適当に近くから椅子を持ってきて座りながら尋ねた。アイナの隣に座り彼女の携帯端末を返却していたラウハが声を上げる。

「逃亡してたわけじゃないよ! 頼みを断れなかっただけだよ!」

「フォローになってないから」

 相変わらずのツッコミの鋭さである。アイナは端末を片づけると言った。


「まあ、途中で抜け出したことは確かで、迷惑はかけたから。ごめんなさい」


 若干棒読みのような気がしたが、謝罪は得られたのでフレイはぐっと言葉を飲み込む。


「とりあえず、フレイも座れば?」


 アイナがちょいちょいと椅子を指さす。フレイは顔をひきつらせながら近くの椅子を引き寄せて座った。気づけば、立っているのがフレイだけだったのだ。しかし、結構な大所帯である。


 しかし、改めて見てみると少年たちは面差しに成長を感じるが、少女たちは髪の長さが覚えているのと違う。先ほど言ったように、ショートカットだったラウハは背中まであるだろう髪をお下げにしているし、金髪が腰元まであったアイナは肩くらいまでになっている。それに。

「つーか、アイナ、お前、すっごい美人だな……」

「どうもありがとう」

「アイナ、なんでさっきからセリフが棒読みなの……」

 フレイが思ったことをそのまま言ってくれたレイマであるが、それに対するアイナの返答は、ラウハが言うように棒読みだった。


「お前らは変わったけど、城塞の中はほとんど変わってねぇな。お前ら、今、城塞の正規職員?」


 フレイが尋ねると、アントンの隣に座ったエルノが「俺は役場職員です!」と手をあげた。いや、知ってるから。

「あたしが魔工技師見習いなのは言ったよね。アイナは技術部の魔導師」

 それもさっき聞いたが、ラウハが話してくれたので相槌をうつ。アイナがニコリと笑ったので、魔導師なのも事実なのだろう。

「で、アントンとイルッカは戦闘員」

「……やっぱりか」

 そうなると思った。まあ、二人とも五年前からそんな兆しは見せていた。

「なあなあ。フレイ、レイマ。戦場の話聞かせてくれよ」

「私は聞きたくない」

 イルッカがそんなことをねだったが、アイナが一蹴した。戦場とこの城塞と言う現場、どちらが悲惨か比べるのも嫌だ。

「まあ、アイナの言うとおりだな。聞いて楽しいもんじゃねぇし」

 フレイがアイナの頭をポンポンと叩く。つい、五年前のようにやってしまったが、成人女性にこれはまずいだろうか。

「フレイ、次やったらセクハラされたって喧伝するから」

「やめろよ! 何か嫌な予感しかしねぇ!」


 たぶん冗談だとは思うが、フレイは思いっきり反応した。アイナが笑って「冗談だよ」と言った。こいつ……!


 フレイとレイマのいない五年間でキラヴァーラで起こったことなど、過去の話に花を咲かせているとき、フレイの携帯端末が振動しているのに気付いた。少し離れて通話に出る。

「はい」

『フレイか? 今どこ?』

 アキだ。エステルの身に何かあったのだろうか。

「どこって、城塞」

『あ、なんか楽しそうだな……』

 うらやましそうにアキがため息をついた。そう言えば、一番年上だからと置いてきてしまったのだった。申し訳ない気がした。

「……なんかすまん」

『いや、いいよ……でも、城塞にいるならちょうどいい。俺たちも移動してきて、今、城塞の司令室にいるんだ。ちょっと来てくれないか?』

「わかった。レイマも連れて行けばいいか?」

『頼む』

「ん。了解」

 フレイは了承を告げて通話を切ると、レイマに声をかけた。

「アキから連絡。司令室に来てくれってさ」

「あいつらもこっち移動してきたのか。わかった」

 うなずいてレイマも立ち上がった時、アナウンスが響いた。


『後方支援技術部魔法構築解析室アイナ・ハウタニエミ。至急、司令室まで来るように。繰り返す……』


「……これ、司令の声じゃない?」

 ずっと黙っていたアントンがぽつっと言った。確かに、この野太い声は司令の声だ。アイナが立ち上がる。

「マグカップ、置いときなよ。片づけておくから」

「ありがと、アントン。イルッカはちゃんと宿題しなよ」

「わかってるよ!」

 ぷくっとイルッカが膨れる。目的地が同じなので、フレイたちと一緒に行こうとアイナが荷物を持った時、「あー!」とエルノが叫び椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。

「エルノ、どうしたの!?」

「フレイたちが呼ばれたってことは、お姫様関係だよね。僕たちも行った方がいいのかな?」

「あっ、確かに!」

 ラウハもうなずいて立ち上がる。結局、城塞に一緒に来た四人にアイナを加えて城塞の司令室に向かうことになった。ラウハとエルノも身長が伸びたと思ったが、アイナも伸びている。当たり前だけど。


「失礼します」


 アイナはノックをするとためらいなく司令室に入っていった。一応、呼ばれてないから~、とか言って、せっかくついてきたのにエルノとラウハは入らなかった。なので、アイナ、フレイ、レイマの三人。

「ああ、来たか。アイナ、雲隠れしていたそうだな」

「隠れていたつもりはないんですけど」

「優しさはお前の美徳だが、行きすぎないようにな」

「気を付けます」

 強面だがその性格の良さから慕われるキラヴァーラ城塞の司令官は、ヘンリク・キュリーネンは五十をいくらか過ぎたと見える男性だ。少なくとも、フレイが物心ついたころからこの城塞の司令官だった。軍人上がりで、過去に上層部ともめたことがあるらしい、と聞いたことがある。


 司令室に待ち構えていたのは、ヘンリクだけではない。フレイの母でキラヴァーラの町長ヴィエナ、それにエステルとその侍女二人と護衛のアキ。女性率が高い。

「マリから城塞に来ていると聞いてな。ちょうど姫様たちも来たので、呼び出させてもらった」

「……いなくなったのは私だし、構いませんけど」

 アイナの視線がエステルに向く。目が合うと、エステルがニコリと微笑んだ。アイナがアーモンド形の目をしばたたかせる。微笑まし気にそれを眺めながら、ヴィエナがそれぞれを紹介する。

「姫様。彼女がアイナです。アイナ、この方はマキラ王国のエステル王女」

「エステル・スラッカ・マキラだ。会えてうれしい、アイナ。よろしく頼む」

「アイナ・ハウタニエミです。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」

 アイナが目上の者にする礼をとろうとしたが、その前にエステルが手を差し出した。握手のつもりなのだろう。一瞬アイナの肩がびくついたのが見えたが、すぐに彼女はエステルの手を取った。

「さて、アイナ。挨拶も済んだところで頼みがあるんだが」

「嫌な予感しかしませんが、何でしょう?」

 相変わらずの毒舌ぶり。毒舌と言うか、歯に衣着せぬと言うか。一緒か。


「姫様方のキラヴァーラでの滞在場所なんだが、お前の家に滞在させてほしいんだが」

「……はい?」


 これは本当にアイナの意表をついたのだろう。何か高い声が出た。まあ、フレイとレイマも一緒に「は!?」と声をあげたのは否定しないが。

「城塞に滞在していただくことはできんだろう。ホテルもあるが、セキュリティー面を考えると、お前の家が一番だと判断した」

「……ヴィエナさんとこでもいいのでは?」

「うちかよ」

 アイナの言葉にフレイはぽそりと突っ込む。ヴィエナの家、つまり、フレイの実家である。


「セキュリティー面と言ったでしょう。うちより、ハウタニエミの家の方がしっかりしているわ」

「いいか、アイナ。俺達がお前が自宅を魔改造していることを知らないと思ったら大間違いだ」

「まあ、女の子一人なんだから、それくらいしてもいいとは思うのだけど」


 ヘンリクの指摘も怖いし、ヴィエナのとりなしもなんだかんだで怖い。っていうか、魔改造……。

「……ちょっとセキュリティー・システムを試してるだけじゃないですか。儲かるんですよ、安全システム」

「ああ、まあ、否定はしないが」

 とにかく頼む、と言われて、アイナは最終的にうなずいた。

「どうなっても知りませんからね」

「お前が何かするとは思えん。護衛に、フレイとレイマも一緒にしてやるから」

「は!?」

 今度こそ、三人の驚きの声がかぶった。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


アイナちゃんは本当に電話に出ないので、呼び出しされます。


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