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09.アイナ








 アッシュブロンドのラウハと金髪碧眼のエルノ。この二人のほかに、案内役としてアイナも招集していたらしいヴィエナだが、どうやら三人目は諸事情で姿をくらましたらしい。


「あ、電話してみます!」


 ラウハが思いついたように言って携帯端末からアイナの携帯端末にコールをかけた。だが。


「……着信音、どっかから聞こえるぞ」


 レイマが指摘した。彼とヘリュが廊下に探しに出ると。


「ソファの上に落ちていました」


 とヘリュがヴィエナに白い携帯端末を見せる。その画面にはラウハの名前が出ているから、まず間違いなくアイナのだろう。落として行ったのか。


「アイナ~」


 ラウハががっくりしながら通信を切った。ヴィエナがこほん、と咳払いする。

「まあ、とりあえず。姫様。この二人は、役場町民課のエルノと魔工技師見習いのラウハです。姫様と年齢が近いので案内役を頼みました」

「エルノにラウハか。エステルだ。よろしく頼む」

「よ、よろしくお願いします」

 にっこりとほほ笑んだエステルに、エルノとラウハが頬を赤くしてうなずいた。まあ、姫様は普通に美人である。喋りかたは男っぽいけど。

「本当はもう一人、アイナと言う子を呼んでおいたのですが……まあちょっとあの子、マイペースで」

「マイペースで片づけられるレベルじゃないと思うんですけど」

 ヴィエナの言い訳に、ヘリュが苦笑を浮かべながら言った。ヴィエナがため息をつく。

「エルノ、ラウハ。私は姫様ともう少し話があるから、その間にアイナを探しに行って来てちょうだい。フレイ、知らん顔してるけどあなたも行くのよ」

「……マジで」

 迷子を捜しに行くようだ。まあ、小さな町だし、行先はわかっているのだから見つからなくはないと思うけど。

「レイマ。三人をよろしくね」

「俺はレイマより下なのか……」

 若干ショックを受けるフレイだった。


 そんなわけで、アキとエステルたちを残し、フレイたちはアイナ捜索隊である。向かうのはトゥオミさんちである。この小さな町には診療所はあるが、病院はない。というか、城塞へ行けばいつでも医師がいる。どういう理由かはよくわからないのだが、産婦人科院で出産するよりも、自宅で生む人が多いのがキラヴァーラの現状である。


「しっかし、お前ら、大きくなったなぁ」


 路地を歩きながら、レイマがエルノとラウハの頭を撫でる。分かれている間に十代から二十代になったフレイとレイマも、五年前から比べてかなり大人びているが、やはり成長期中に分かれてエルノとラウハの成長っぷりは目を見張るものがある。

「確かにな。あんなに子供っぽかったのになぁ」

 とフレイもしみじみと言った。ラウハは成長しても小柄だが、顔立ちはちゃんと十代後半だ。


「当たり前でしょ。もう五年もたってるんだから」


 エルノが笑ってツッコミを入れた。メールなどで近況のやり取りはしていたが、実際に会って話すのはまた違う。

 中世の面影残る路地を歩き、トゥオミさんちに到着した。家の中から元気な赤ちゃんの泣き声が……。

「あれ? もう生まれてる?」

 ちなみに、臨時休業になっているが、トゥオミさんちはパン屋である。

「すみませーん。アイナ、来てませんか~!?」

 店の奥に向かってラウハが叫んだ。はいはーい、と出てきたのは旦那の方だった。城塞都市キラヴァーラであるが、一応人が生活している場所なので、こう言う普通の店もある。

「おお、ラウハ……って、フレイとレイマか!? ホントに帰ってきたのか……」

「悪かったな……」

 パン屋の主人はフレイよりもいくらか年上だが、よく買いに来ていたので顔見知りではある。

「で、アイナだっけ? うちの嫁の出産補助をした後にマリさんと一緒に帰ってったけど」

 すごい安産ですぐ生まれてな、とパン屋の主人。まさかの擦れ違いである。

「何? アイナ探してんの? 電話してみりゃいいじゃん」

「……アイナの端末は、今ここに」

「あー」

 ラウハが持っていたアイナの端末を見せて言った。とりあえず、おめでとう邪魔してごめん、と言ってパン屋を出た。


「どーすんだ? アイナんち、行ってみる? つーか、あいつ前と同じとこ住んでんの?」


 レイマが提案したが、アイナの親友であるラウハが否定した。

「前と同じところに住んでるけど、いないと思うよ。……むしろ、城塞に行った方がいいかな。……っと」

 ラウハの持っている鞄からコール音が聞こえた。ラウハが鞄をあさる。


「あ、アイナのやつだ。……もしもし」


 そして、ためらいなく出るスタンス。


「あ、アイナ? ちょっと待って」


 アイナが自分の端末に自分でかけてきたらしい。ついに落としていたことに気が付いたか。ラウハがスピーカーをオンにした。

「お待たせ。今、城塞にいるの?」

『うん。端末、どこにあった?』

「町長室前のソファ」

『あー、やっぱり? 置いた気がしたんだよね』

 なら持って行けよ、と言う話だが、話がそれる気がしたのでやめた。

『というか、ラウハたちはどこにいるの? 役場じゃないよね?』

「今? 今はトゥオミさんちの前。アイナを探して来いって言われたんだけど、すれ違ったみたい」

「つーかお前、そもそも途中で逃げてんじゃねぇよ」


 思わずフレイがツッコミを入れてしまった。しばらく返答まで間が空いた。


『……誰?』

「お前……ふざけてんのか!?」

「俺だよ! 俺たちだよ!」

 フレイだけでなくレイマも衝撃をうけたらしく端末に向かって叫んだ。

『冗談だよ、うるさいな。城塞で待ってるから、迎えに来てよね』

「そうだよアイナ! そこ、動かないでね!」

『あ、エルノもいたの』

「お前……さっきから発言が心をえぐるぞ……」

 元から毒舌のきらいのあったアイナであるが、磨きがかかっている気がする。とりあえず、現在地がわかったのでそちらに向かう。

「そういや、エルノは役場に就職したんだな」

 レイマが意外そうに言った。確かに、フレイもてっきり彼も城塞の戦闘員になるのかと思っていた。エルノは照れたように笑う。

「えへへ。性に合わなくて。かといって、ラウハとかアイナみたいに専門的なことがわかるわけでもないし」

「ふーん。まあ、いいんじゃねぇの。戦わなくていいなら、それに越したことはねぇし」

 戦場を見てきて、改めて思い知った。戦わなくていいのならば、その方がいい。

「ラウハは魔工技師か。意外だな」

「そう? まだ見習いだけどね。何なら、みんなの対魔物用の武器も見てあげるよ。機械系のことはアイナに聞いてもらった方がいいけど」


 どや顔で言うラウハである。銃や戦闘機などの武器兵器が使用される戦争に対し、異世界との境界である城塞では、旧式ともいえる剣や槍などを武器として採用している。単純に、完全機械化した武器だと、異世界相手には歯が立たないのだ。だからこそ魔導師もいるのだし。そうした武器を調整するのが、魔工技師の仕事である。

「つーことは、アイナはエンジニア?」

「正確な所属は後方支援技術部魔法構築解析室だって言ってたけど」

 長い。どうやら彼女は魔導師として城塞にいるらしかった。まあ、それは置いといて。


 城塞までの懐かしい道のり。五年も離れていたが、城塞はちっとも変ってなかった。そこでも、フレイとレイマは戻ってきたことを歓迎された。

「お帰り~」

「良く戻ってきたなぁ」

「つーか、でかくなってね?」

「お前ら、生きてたんだな……」

 最後が微妙に失礼である。軽く受け流しながらアイナが待っていると言っていたカフェテリアに向かった。

 半端な時間だからか、あまり人は多くなかった。閑散としたカフェテリアに声が上がった。どうでもよいが、城塞の中にあるにしてはしゃれた場所である。


「だーっ。わっかんねぇ!」


 声に釣られてそちらを見ると、べたっと十代半ばほどの黒髪の少年がテーブルに突っ伏していた。この辺りには色素の薄い髪色の者が多く、フレイが知る黒髪の人物は一人、イルッカだけだ。

「公式に当てはめれば簡単だよ。まあ、イルッカはその公式選びから間違ってるんだけどね」

「なんでこんなのわかるんだよ。こんなの、ただの数字の羅列じゃん。公式がわかっても解ける気がしない」

「大丈夫大丈夫。少なくとも私は解けたよ」

「なんでそんなにさらっと解けるんだよ! つーか、計算してないじゃん!」

「まあ、私は三次関数までなら暗算で解けるからね」

「マジで!?」

「嘘だよ」

「……」

 イルッカとその向かい側の金髪の会話も面白いが、イルッカの隣でひたすらパフェを食べているアントンの存在感である。隣の面白会話にもわれ関せず、であった。


「あー、みんないる!」


 ラウハが嬉しそうな声をあげて三人に駆け寄っていった。エルノもそれに続く。


「もう! アイナ、なんでこんなところで油売ってるの!」


 顔が見えていなかった金髪が振り返った。エルノを見たが、そのまま視線が滑りフレイたちを捕らえた。その顔が柔らかな笑みを浮かべる。

「お帰り」

 そのセリフに対してフレイとレイマの言葉は。

「誰?」

 だった。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


登場人物を更新せねば、と思いつつしていません。

そのうちします……。


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