後期初日
夏休み。楽しかった。大学の1年だけでプールに行ったし、高校の友だちと吹奏楽コンクール聞きに行ったし、合間を縫って勉強とか曲の練習とかしたし、長いはずの休みはあっという間だった。
「ねぇ、再試どうだった?」
一昨日、映画を見に行った遥香が私の隣に座るなり聞いてきた。それは再試の結果が昨日出たのを今知ったのだろう。そうでなければ既に私の合否をわかっているはずなのだから。
「え? 実は……」
俯いて口篭る。その反応に焦ることなく淡々と準備を進める彼女を見て酷くつまらなく思う。
「受かってます」
余裕で、と言うより先に彼女が「当たり前か」と呟いたのを聞いてイラッとする。なにが当たり前だ!
「それより、大丈夫だったの?」
なにがそれよりだ! とツッコミたいところだが、何を指した言葉なのか理解できず首を傾げる。
「君の彼氏だよ」
…………。まだ彼氏じゃない。なんて言っても信じて貰えないだろう。それでも否定しないとなんとなくおさまりが悪かった。
「彼氏じゃない。私が知ってる限りは今のところ全部拾ってるみたいだけど」
「ふーん」
いちいち反応がムカつく。あぁ! もう! お腹痛い!
「まぁ、ムリはしないようにね」
私の頭を優しく撫でる。
「何してんの?」
「いや、猫がイラついてるみたいだから」
「誰が猫じゃ」
ぞろぞろと増える人。後期初日、やはり日焼けとか、髪の色を変えているとかイメチェンをする輩が入れば、いつにも増して気持ちの悪い輩もいる。まぁ、こんだけ人数がいれば様々な特徴があってもおかしくは無いのだが。
「……やっぱり、減ったよね」
「……やっぱりそうだよね」
明らかに10人程度いない。それは単純に今日初日なのを忘れているのか……、
「何人、辞めたんだろうね」
なんにも言葉が出てこない。様々な理由があるだろう。雰囲気が合わないだの、勉強についていけないだの、これ以上大学にいることが出来ないだの。
「まぁ、知り合いは全員いるから安心だね」
「……うん」
私は安心できない。ずっと、この状態を維持することの難しさを知っているから。
「さぁて、最後まで頑張っていこうね」
「うん。絶対にだよ」
目の前にレジュメが配られた。




